<嘉助の苦悩>
リピウスの実態暴露で、心の折れた嘉助に代わって、杏子が弁解をしだした。
「リピウス! もうその辺で許してやれよ。嘉助だってな、随分と苦労したんだよ。だいたいお前が、『早く霊界が本気で動くと示さないと、世界は絶対に動かないぞ』と言ったんじゃないか。だから嘉助も何とか霊界に働きかけたし、各国の首脳にも直談判してきたんだよ。でもね……どれも思わしくない反応だったんだよ……」
杏子は必死で嘉助の努力を訴えた。それは杏子も何度も同席したりして、嘉助の苦悩を一緒に感じてきたからであった。
「まあ、それは俺も分かるけどね……。でもさ、あんなにぶち上げちゃったら、余計に後が大変なんじゃないか?」
リピウスは少し気の毒そうな顔つきに変わっていた。
そんなやり取りを聞いて、嘉助もようやく口を開いた。
「リピウスは老師から聞いていたのだね……。老師はリピウスには甘いから、全部筒抜けって事か……」
嘉助は妙に疲れ切った顔になってしまっていた。
「でもね、杏子が言った通り、各国の首脳は未だに懐疑的だし、リピウスが以前言ったように『霊界が動こうとしないのに、何故我々だけが悪魔と戦わなければならないのか?』と問い詰められるのだよ」
嘉助は首脳達とのやり取りを思い出しながら話しているのか、うんざりとした表情で語った。
嘉助の言葉を黙って聞いていたリピウスだが、言葉が途切れると話し出した。
「あのさ、各国首脳とどんな話をしてきたのかは知らないけどさ、何で首脳達が懐疑的で非協力的なのか? 俺には理解できないのだけどね」
リピウスの言葉に杏子が反応した。
「そりゃ誰だって、悪魔なんかと戦いたくはないだろうよ。まず霊界が動くのが筋と言うのは、人間界の歴史的にも当然の主張だってことは、リピウスだって知っているだろうに」
杏子の少し怒気を含んだ言葉にも、リピウスは動ずる様子もない。
「そういう意味ではないのだけどね……」
そう前置きしてリピウスは語り始めた。
「あのね、今回の戦いってのは、米国にとってもEU諸国にとっても最大のチャンスであり、彼らにとっては将来の莫大な利益を得る、かつてないほどの好機だって事なんだよ。それなのに、なんで非協力的なんだい? いいかい、悪魔は表立って派手な活動はできないんだよ。表面的には人間同士の戦争範疇だという事なんだ。だから、ここでC国と同盟国を叩き潰してしまえば、後は欧米にとっては理想的な儲け話が湧き出てくると言う話じゃないか」
リピウスの話を聞いても、杏子は何の事やら理解できないようであった。だが、ここで嘉助の目に命の火が灯った。
「そ、そうか! 流石はリピウスだね。そうだったんだよね。僕がアプローチを間違っていたんだね。僕は必死に霊界的な立場で説得していたんだ。それじゃあ霊界が先に動きを見せないと、彼らが動こうとしないのは当然と言う事か……。まず最初にすべきは、彼らの利益を示す事だったんだね」
「おう! 流石は嘉助だね。良く分かっているじゃん」
リピウスの表情も明るくなった。が、杏子はまだ二人のやり取りがピンときていないようだ。
「その点は分かったよ。再度各国との調整をやってみるよ……でもさ、霊界の動きがねぇ」
嘉助はリピウスの助言で表情を明るくしたのも束の間、霊界の実態を思い浮かべると、やはり顔が曇ってしまった。
「それだけどさ……ヨルダ爺の話では、やはり四仙会の連中がミカエル一派に強く働きかけているって事が原因なんだろ?」
リピウスはヨルダからも、霊界対策に関して色々と相談を受けていた。
「うん、そこがね……。学園長も色々と頑張ってくれてはいるのだけど、元々学園長一派はミカエル一派とは犬猿の仲だからね。どうしても四仙会には遅れをとってしまうのだよ」
嘉助は頭を抱えてしまった。
「一応既にヨルダ爺には言っておいたのだけど、正攻法でミカエル一派を動かすのは無理があるよね」
「正攻法という訳でも無いけど、ミカエル一派を動かせるだけの理由が見いだせないんだよ」
嘉助は縋るような眼でリピウスに何かを求めてきた。
「それも変だよね。四仙会は幽界、霊界学園を手中にし、悪魔支配の人間界を原資として、私利私欲を肥やそうとしているだけじゃないか。それって、私利私欲の権化であるミカエル一派の3馬鹿が最も嫌う展開なんじゃないかな? だから、四仙会をこの辺で叩いておかないと、3馬鹿の利益を脅かす存在になると煽って、彼らに四仙会を潰させればよいじゃないか」
リピウスは、本当に理解できないという表情で嘉助に説明した。それを聞いて、嘉助は少し考えていたが、
「そうか! これまた我々は逆の動きをしていたと言う事か。ターゲットはミカエル一派ではなくて、四仙会潰しだったんだよね。あ〜……何で気づかなかったのだろう。確かにそれって、以前ジャネット問題の時にミカエル一派を動かして四仙会の陰謀を潰した時に使っていたのに、何故今回はそこに頭が回らなかったのだろうか……」
杏子は、嘉助が妙に明るい表情になり、言葉にも覇気が感じられてきたので、「これは!」という希望が湧いてきた。
「嘉助! なんか上手くいきそうなのか?」
杏子の問いに、嘉助は大きく頷いて、
「おう! 何となくだが、上手く話を進められそうな気がしてきたよ。よし! 早速学園長にも話に行ってみるか」
嘉助は今にも事務所を飛び出して行きそうな勢いである。
そんな時に、例の「どこに繋がっているのか分からない事務所の扉」が勢いよく開いた。
3人が見ると、そこには漆黒の長い黒髪をなびかせ、真っ黒なバトルスーツに身を固めた長身の女性が立っていた。
その女性は杏子の方を見ると、
「お! なんだよ杏子、時化た面してんじゃん」
と大きな声で呼び掛けた。
「へ? ジェシカ! ジェシカじゃないか!!!」
杏子は驚いた表情をした後、勢いよくジェシカと呼んだ女性の元へと走り寄った。
この全身黒で覆われた大柄な女性こそが、リピウスも名前を出した、『黒の魔女』ことジェシカ・ラングレーその人であった。




