<そんなところだろうよ>
嘉助の『霊界が大規模な支援を行う』という宣言は、各国から集まった協力者達も、ERIとの窓口を務めるエージェント達も、大きな希望を抱くことになった。
この後も嘉助はさらに詳細な作戦計画を説明し、それらに基づいて「今後は世界が一つになって、この困難な『悪魔支配の阻止』を実現しよう」と力強く訴えて終了した。
会議終了後も大部分が会場に残り、それぞれ初対面の挨拶をしたり、これからの事を話し合い、既に次の個別会議の確約を行うなど、活発な交流が見られた。
そんな中、リピウスは終始皮肉な笑みを浮かべたまま聞いていたが、終了の合図とともにさっさと引き上げてしまった。
舞達は顔なじみのラヴィやソフィーの元に行き、久しぶりの挨拶を交わしつつ、今後の協力体制に関して話し合っていた。
「あら? リピウスは?」
急に舞が、リピウスだけいないことに気づき、周囲を見回しながら声を上げた。
「あのへそ曲がりのことだから、さっさと帰ったのよ。私達の会議の時もそうじゃない」
紫音が顔をしかめて言う。
「そうだよな。あいつって、時々切れ者で良い奴になる癖に、90%は偏屈なオタク野郎なんだよな……」
佐藤君もリピウスは苦手のようで、本人がいないと分かって思いっきりディスっている。もし本人が居たら、怖くてとても言い出せなかったであろう。
だが、彼はまだまだリピウスの恐ろしさを知らなかった。
リピウスが何も仕掛けをせずに引き上げるわけはなかった。当然、舞達にも超小型の監視装置を纏わせてあり、彼らの行動や発言は、メイさんとセバスチャンが全て録音・録画してあったのである。
元々盗撮・盗聴は佐藤君の得意能力であるが、リピウスとはまるで格が違うということを、彼も思い知ることになるであろう。
嘉助は説明を終わると、大勢の者達に囲まれ、称賛と質問の嵐の中を泳いでいた。
そんな嘉助を、杏子が「すみません。嘉助は次の予定が控えていますので……」と強引に人波をかき分けて救い出すと、会議場を足早に抜け出していった。
「ふぅ~……。杏子、助かったよ。もう僕は人の波に押しつぶされそうだったからね」
「嘉助も、もっと毅然として対処しなよ。全く、八方美人もほどほどにしてほしいね」
杏子は嘉助に対しては昔から遠慮がない。学園の同級生から始まった腐れ縁である。お互いに気心を許せる数少ない真の友でもあるので、嘉助は逆に杏子には甘えてしまうようだ。
「でもさ、今日の僕は結構毅然としていただろ? これでも随分頑張ったのだよ」
嘉助は、いかにも杏子に褒めてほしいという顔をしている。
「はいはい。今日の演説はなかなかだったよ。帰ったらご褒美にプリンでも出してあげるよ」
少々面倒くさそうに杏子は答えたが、嘉助が『プリン』の一言に思いのほか嬉しそうな顔をしているのを見逃さなかった。
そんな軽口を叩きながら、二人は事務所へと戻ってきた。
嘉助はさも疲れ切ったように自分のデスクへと向かい、いつもの少し豪華なリクライニングチェアに座ろうとした。
が、その瞬間、デスクの前にある応接セットのソファにリピウスの姿を見て声を上げた。
「お! リ、リピウス! 何でここにいるんだい?」
その声に杏子もソファを見ると、リピウスが寝そべって大きなあくびをしていた。
「よう、嘉助に杏子もご苦労様でしたねぇ……」
ここでもまだ皮肉っぽい表情をしながら、ゆっくりと体を起こした。
「な、なんだよその言い方は。僕に何か言いたい事があるなら、ハッキリ言ってほしいな」
嘉助は妙にソワソワしだした。そんな嘉助の様子を見て、しきりに杏子が目で何かを訴えかけている。
「じゃあ言ってしまおうかな?」
とリピウスはいかにも勿体ぶって焦らしたが、
「嘉助って大嘘を吐いていたよね」
リピウスのその一言で、嘉助と杏子は完全にフリーズしてしまった。
そんな様子も無視してリピウスは続ける。
「デーモンハンター100人だって? ヨルダ爺の話では、ハンター協会長のよしみと、杏子との同級生のよしみで、黒の魔女ことジェシカ・ラングレーという最強のデーモンハンターチームが、10名程度の仲間と共に参戦してくれるみたいだね。でも100人とはよく言ったよ。10倍も吹っかけるなんて、嘉助も悪だよねぇ……」
リピウスはニヤニヤしながら言う。
「あ、いや、それはだね……」
嘉助は返す言葉もないようだ。杏子も頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。
それでもまだリピウスの毒舌は止まらない。
「霊界警備隊の精鋭が参加する? それだけ聞くと何百人という精鋭部隊の参加みたいに聞こえるけどさ、実態は学園長との友好から、警備隊長さんがこれまた1小隊十数名のチームを派遣してくれるって話じゃなかったかな? はてさて、この事実が発覚したら……各国の反応はどうなるんだろうね?」
リピウスの容赦ない暴露に、既に嘉助の心はポッキリ折れてしまったようで、何も言えずに立ち尽くしていた。




