<違う!違う!そうじゃ無い>
数日後の土曜日。毎週の定例会議が行われた。
この会議は開始が10時からだが、仲良し協力者達は、大抵9時には会議室に集まり、お菓子などを持ち寄って井戸端会議を始めている。
最近ではそこにジャネットも加わって、結構な賑わいを見せていた。
ちなみにリピウスと清君達監視員は、概ね5分前に部屋に入り席に着く。そして嘉助と杏子は毎回10時丁度に入って来る。
今日も早々と仲良し組は集まって、ワイワイとお菓子をつまみながら世間話に花を咲かせている。すると突然、ジャネットが言い出した。
「そう言えば、真美ちゃんとリピウスはずっと小会議室に籠って作業していたけど、最近は小会議室に居ないわね?」
その言葉に、真美ちゃんが一瞬ギクッとした表情をした。
みんなは気づかなかったようだが、不運にも関連した話が続いてしまった。
「ふ〜ん……。確か真美ちゃんとリピウスはC国の様子を調べていたのよね。もうそれは終わったって事なのかしら?」
舞がこれまた(別にどうでも良いけど)という顔でボソッと聞いてきた。
その言葉に、みんなの視線が真美ちゃんに集まってしまった。
「あ・そ・その……一応目的は……あの、リピウスさんが終わったみたいで。わ・私も今は自分の部屋で……」
どうも歯切れが悪い。
元々彼女は極度の人見知りであり、いつも控えめでおずおずとしているのだが、今はなぜか顔を真っ赤にしており、異常に恥ずかしがっているようであった。
その様子を、精神科医であり元主治医でもあった東雲紫音が逃すはずはなかった。
「あら? 真美ちゃん。リピウスと何かあったんじゃないの?」
その言葉に、再び真美ちゃんはギクッとした表情をしてしまった。
そうなると、他の者達も異変を感じて、わいのわいのと騒ぎだしてしまった。
「ちょ・ちょっと待てよ! なんだよ、リピウスに何かされたのかよ!」
以前から真美ちゃんを気にかけていた佐藤君が、怒りの表情で問い詰めた。
「サトちゃんは黙っていて!」
すかさず舞が佐藤君を黙らせた。
「え〜!!! リピウスと真美ちゃんて、そういう関係だったんすか〜!」
ジャネットが飛び上がらんばかりの驚きようで叫んだ。
「ちょっとジャネット。あなたも少し大人しくしてくれないかしら」
今度は紫音がジャネットを制した。
そんな様子を見て、真美ちゃんは既に泣き出してしまっていた。
もうこうなると外野も何も言えなくなり、ただただ真美ちゃんをなだめながら、「飴ちゃんあげるから」とか「暖かい飲み物を飲んで落ち着きましょうね」とコーヒーを勧めたりしていた。
そんな状況の中に、清君達と1階のコンビニを任されている監視人達が入ってきた。
そしてその後ろからリピウスも入ってきて、いつもの協力者側の末席に座った。
が……一斉に協力者達の鋭い目がリピウスに突き刺さった。
「な・なんだよその目は。俺が何かしたって言うのかよ」
流石のリピウスも驚きを隠せないようだった。
「ふ〜ん……。リピウスは、そういう事を言うんだ。また思いっきり頭を殴って、思い出させてあげても良いのよ」
紫音がジト目でリピウスを見つめながら、穏やかでない事を言い出した。
リピウスは直ぐに、以前散々どつき回された事を思い出し、なぜか頭を擦りながら抗弁した。
「お・俺は何も悪い事なんてしていないぞ。むしろC国の秘密の研究施設を解明して、嘉助達からは称賛されたんだからな。なぁ、清君は知っているよな?」
「え? あ・そ・そうだね。うん。そうそう、先日研究施設の詳細な報告書を提出してくれて、嘉助さんも杏子さんも称賛していたところだよ。うん。そうなんだよ」
少々しどろもどろではあるが、清君はリピウスの主張を支持してくれた。
「私達は、そういう話をしているんじゃないわ」
紫音同様にジト目のまま、舞が話に割って入ってきた。
「じゃあ何の話なんだよ。ハッキリ言えば良いだろ!」
リピウスも気の長い方ではない。思い当たりもしない事でやんや言われるのは心外だとばかりに、少し声を荒らげた。
すると、真美ちゃんが声を上げて泣き出してしまった。
「真美ちゃん大丈夫よ。ね、真美ちゃんが悪いのじゃないのよ」
隣に座る紫音が必死で慰めだした。
「ほら! リピウスが声を荒らげるからよ。全くオタク顔をして、なに真美ちゃんを泣かしているのよ! 絶対に許さないんだから!」
舞もリピウスを窘めながら、それ以上に声を荒らげて言い返した。
会議室はどうしようもない混乱状態を呈していた。そこに嘉助と杏子が入ってきた。
「いや〜、みなさん、ちょっと遅れちゃったね〜」
いつものとぼけた調子で入ってきた嘉助であったが、室内は既に修羅場。
場違いな嘉助の声に、みんなの鋭い目が集中した。
「え? あれ??? ねえ杏子、僕は何か悪い事言ったかねぇ?」
場の空気に耐えられず、嘉助は杏子に助けを求めた。
「え? わ・私にここで振るのかい?」
と迷惑そうな顔をする杏子。
その後もしばらく、紫音・舞連合とリピウスの意味不明な言い合いが続き、その横で真美ちゃんは涙を拭きながら顔を真っ赤にして俯いている。
佐藤君は、何かを言えば絶対に舞か紫音に窘められると分かっているのでオロオロするだけ。ジャネットも流石に空気を読んでオロオロ。清君ら監視人は退散の機を伺っているようだが、タイミングが掴めずに黙って見ているだけであった。
しばらくの後、嘉助と杏子がヒソヒソと話し合っていたが、突然杏子が大音響で叫んだ。
「静まれ〜!!!」
その一喝でようやく室内には静寂が訪れた。
その機を逃さず、嘉助が言った。
「はいみなさん。何が有ったのかをちゃんと冷静に話してください。まずは紫音から説明してください」
紫音は舞と顔を見合わせながら、真美ちゃんとリピウスの件を話した。
その話を聞いて、嘉助は何となく理解できた気がしてきた。
「うん……。紫音の話だけど、それって真美ちゃんからの報告があって言っている事なんだろうね?」
嘉助の言葉に紫音は再度舞と顔を見合わせ、二人で何かを確認していたが、どうも見ていると二人共首を横に振っている。
「杏子、悪いが真美ちゃんを連れて、事務所でも良いから、ちゃんと何が有ったか話を聞いてきてくれないか?」
杏子が頷くと、続いて真美ちゃんに声をかけた。
「真美ちゃん、みんなが騒いでごめんね。すまないけど杏子に話をしてくれるかな?」
二人が部屋を出ていくと、嘉助はリピウスに尋ねた。
「ねえリピウス。君さ、何か心当たりは無いのかな? 真美ちゃんに何か誤解されるような事が有ったのじゃないかい?」
嘉助の言葉で、リピウスも思い出した。
「あ!!!」
その瞬間、紫音、舞、佐藤君、ジャネットの目が一斉にリピウスを睨んだ。
「あ! いや、違うよ! 違うって、そうじゃ無いんだよ!」
しかしこれだけでは何も分からない。場がまた荒れだしそうになったが、そこは嘉助が制した。
「詳しく話してくれないかな?」
嘉助は優しく問いかけたが、その目は笑っていないようだった。
「多分ね。先日小会議室で、C国の秘密の研究施設を探索していたんだけど、その際少々悪魔達が映った残虐な映像が出てきてね。真美ちゃんにそれを見せないように隠したのを、真美ちゃんが何か誤解したのじゃないかな?」
リピウスがおずおずと話すと、嘉助は「やっぱり」という顔で頷いた。
紫音と舞はまだ疑いの目を向けていたが、そこに杏子と真美ちゃんが戻ってきた。
杏子が何か嘉助にヒソヒソと伝え、それを確認して嘉助は再度話し出した。
「今ね、杏子が真美ちゃんにも確認してくれてね。どうやら僕らの予想通りの話だったようだね。真美ちゃんは、リピウスが自分には見せられない『変な映像』を見ていたのではと思って、それで気にしてしまって、リピウスの事を変に意識してしまったそうだよ。特にリピウスが真美ちゃんに何かしたって訳ではないと思うよ」
その言葉に、リピウスは「我が意を得たり」とドヤ顔で頷いている。
まだ紫音と舞は疑いの目を向けていたが、真美ちゃん本人が頷いたので、この件は誤解だという事で話を終わらせる事になった。
その後、正式に研究施設の概要と今後の方針も嘉助から説明があったが、本当の残虐行為の話は伏せられたままになった。




