<なんかフワッとした奴>
先日の深刻な世界大戦シミュレーション話とは打って変わり、今日はデュークが一人で来たので、初期の頃のようなまったりした雰囲気で世間話に花を咲かせていた。
「よう、このケーキってかなり高級品なのではないか?」
デュークは今までも美味しいケーキをご馳走になってはいたが、今日のは一段と高級感もあり、味もひと際おいしく感じていた。
「ふっふっふ。これは自由が丘のモンサンクレールという、高級洋菓子店の一番人気のケーキなのだよ」
リピウスは凄いドヤ顔で自慢した。
「へぇ〜……。でも、お高いんでしょ?」
デュークがどこかの通販みたいな言い方で値段を聞いてきた。
「まあね。そういうのは知らない方が良いぞ。特に薄給の霊界人はな」
リピウスは奮発して買って来たケーキを、デュークが予想通りの反応を示しながら美味しそうに食べている様子を見て、実に楽しそうである。
「ふ〜ん……。確かにそうだな。ヨルダ爺のおかげで少しは給与も増えたけど、やっぱ人間界で見たら薄給だからな……」
まじまじと食べかけのケーキを眺めながら、しみじみとした声で呟いている。
そんな他愛も無い会話を楽しんでいると、リピウスがいきなり笑い出した。
「おいおいどうした?」
急に笑い出したので何事かとデュークが聞くと、リピウスは部屋の隅にあるテレビを指さしている。
デュークがテレビを見ると、そこにはマイクを持ったスーツ姿の男性が、何やら声を張り上げていた。デュークが怪訝な顔を向けていると、
「今は衆院議員選挙の真っ最中なんだよ。今映っているのは、政権与党、ようは日本で一番力を持っている政党の議員が演説している場面だな」
「ふ〜ん……。選挙をやっているんだ。リピウスも選挙には興味があるのか?」
デュークは少し意外そうな表情をしている。リピウスは選挙などには興味が無いと思っていたようだ。
「おう、興味あるぞ。てか結構毎回、選挙では投票に行っているからな」
「で、なんで笑っていたんだよ」
デュークの問いに、リピウスは何か思い出したのか、また笑い出した。
「あはは。いやね、今この人がネットで有名なんだよ」
「ネットで?」
今映っているのは民自党の若手議員と言われているが、現在30代後半になった見た目は爽やかなイケメンという風体で、スラッとした体つきも相まって、おばさん有権者からは圧倒的な人気を誇っている議員であった。
今回も他の候補者の応援に駆けつけて、特徴的な演説で場を盛り上げているようだ。
「この人は鷲見純二朗っていう若手議員なんだけど、初当選以来おばちゃん達に滅茶苦茶人気でね。いまじゃおばちゃんだけではなく、自分の選挙区では敵なしの無双状態なんだよ」
「なんだ、凄い人なんじゃないか」
「まあね。でもね、この人は見た目で得しているだけで、言っている事はどうも中身の薄い、フワッとした内容が多いのだよ。それに独特の言い回しをするので、『鷲見構文』と呼ばれて、ちょっとネットでは揶揄するような動画も多くてね。と言っても悪意は無くてね、ある意味皆から可愛がられる人気者なんだよ」
「へぇ〜……。それで今何か面白い事を言ったという事か?」
「ああ。独特の『鷲見構文』だね。それが聞きたくてテレビを点けていたんだからな」
デュークはまたテレビの方に注目して、なんて言っているのか耳を立てた。
『皆さん! ここが勝負どころだと思っています。
選挙には毎回、山場というものがあるのです。
その山場に今、差し掛かっていると言えます。
つまり、今が勝負どころだという事なんです!』
「ぶっ!!!」
急にデュークが噴き出した。
リピウスも大口を開けて笑い出している。
「な・なんだよこいつ。滅茶苦茶真面目な顔をして、なんか普通の事を特別な事のように繰り返したぞ」
「あははは。それが鷲見構文なんだよ。彼は真面目なんだと思うし、重要な事を言っているという認識なのだと思うけどね。聞いている方は……なんのこっちゃ???だよね」
リピウスは笑いながら解説している。
「ん? そう言えば、この間の妄想話で、お前『救世主ってのは、今はパッとしない政治家』とか言っていたよな。まさかこの人が?」
デュークは先日のリピウスの話を思い出しながら、不思議そうな顔をして聞いてきた。
「うふふふ。この人が救世主だと思うか?」
リピウスは吹き出しそうになるのをこらえながら聞き返した。
「ん……。いや、それは無いか」
デュークは暫く考えてはいたが、この人では無いとの結論に達したようだ。
「だろ。って、まあこの人が突然覚醒して、世界中の人々の心を動かす演説でもしたら、それはそれでドラマティックな展開とも言えるけどな……。まあ、無いな」
相変わらず楽しそうにリピウスは笑っている。




