<深層の少女>
紫音が霊糸を伸ばすと、リピウスがそれを自分の霊糸で包み込んだ。
「なんか、すっごく不快な感触なんだけどね」
紫音は凄く嫌そうな顔をしてリピウスを睨んでいる。
「お! 興奮しちゃったか?」
リピウスが言った途端、バゴン! と後頭部に鈍痛が走った。
紫音が拳で後頭部を殴ったようだ。
「馬鹿言ってないで、サッサとやるわよ」
「痛いな〜。乱暴なんだからな。じゃ、行くよ」
そう言うと二人はタイミングを合わせながら、霊糸をソフィーの胸の辺りへと伸ばしていく。
そして、まずは霊魂の表層へと入る。
「大丈夫だろ?」
「この辺はね」
会話しつつも、霊糸をソフィーの霊魂の中へと進ませていく。
すると突然、嵐の中へ突っ込んだような激しい抵抗が始まった。
「ほら! だから言ったじゃない。こんな状態で先へは進めないわよ」
「待ってろよ。今防御するからな」
リピウスが言うと、紫音の感触が楽になった。
「どうだ? 大丈夫だろう」
「ま・まあまあね」
リピウスがマインドバリアのような物を張ったのか、紫音には嵐のような抵抗は感じなくなった。
そのまま二人は中層を突き進んでいく。
まだ嵐の真っただ中であったが、リピウスが防御しながら慎重に進むため、紫音はさほどの抵抗も感じずに進む事ができた。
「さて、俺はここまでだな。後は頼むな」
リピウスがそう言うと、バリアを解いたようであった。
しかし先ほどとは違い、紫音は何の抵抗も感じなかった。
「ここは深層?」
「ああ、深層部についたよ。静かなもんだろう」
紫音は何か言いかけたが、言葉を飲み込むと深層部深くへと入っていく。
それをリピウスは確認すると霊糸を解いた。
そして、ソフィーを包んでいたラヴィの水玉を氷で覆いつくした。
「お! すげえ!」
ジェームスが驚きの声を上げた。
「これでだいぶ冷えるだろうよ」
リピウスの声に、ラヴィが感謝の礼を返した。
その間も紫音はソフィーの深層部深くへと入り込み、ついにソフィーの核に接触した。
それは紫音には、膝を抱えて泣いている幼い少女の姿に見えている。
『ソフィー、貴方は何故泣いているの?』
紫音が優しく声を掛ける。
『……』
しかし、少女からの返事は無い。
『悲しい事が有ったのね?』
『……』
『ねえ、私に話してくれない? お話すれば、少しは楽になるわよ』
『亡くなっちゃったの……』
か細い声で少女が答えた。
『大事な人が亡くなったのね』
紫音の言葉に、少女は小さく頷いた。
『でも、このままだと、大事な人の魂も救えなくなってしまうわ』
『!!!』
返事は無いものの、少女は反応し紫音の方を見つめてきた。
『ねえ、私と一緒に、大事な人を弔ってあげない?』
『……』
少女からは何も返事が無い。再び両膝の間に顔を埋めてしまった。
『おーい! ソフィーの仲間達も、心配しているぞ! 早く戻って来いよ〜!』
突然、リピウスの声が響いてきた。
『仲間達?』
再び少女が顔を上げて呟いた。
『ソフィーお嬢! 俺たちを置いて行かないでくれよ!』
『ソフィー姉さん! もう戦いは終わったんだ。俺たちと一緒に帰ろう!』
ソフィーの仲間達からの声も聞こえてきた。
少女には明らかに戸惑いが見られた。
『ねえ、貴方にはまだ多くの仲間が居るわ。一緒に帰りましょう』
その後もソフィーの仲間達からの声が続き、紫音もカウンセラーとして、可能な限りの話術で少女の心を解していった。
そして少女は、ようやく涙を拭いて立ち上がった。
『さあ、私と一緒に帰りましょうね』
紫音が手を差し出すと、少女はその手を取り、一緒に歩き出した。
そして深層の縁まで来ると、紫音は少女の頭を撫でながら聞いた。
『どう? もう大丈夫かしら?』
少女は黙ったまま頷いた。
『そう、じゃあまた後で会いましょうね。あなたは仲間の元へ行ってあげてね』
そう言って紫音はソフィーの深層を離れた。
中層に入っても、そこは既に嵐も収まり、静寂が訪れていた。
少女も再び深層の奥へと進み、間もなく消えていった




