<またもあいつか>
2日後、ティモラからカテリナに関する情報が報告された。
広場にはダーズリー卿の他、ガードナー、ティモラ、デミトリ、御剣、ソルダー、凛玲と貴族クラス全員が集まっていた。
ティモラは現地で、現場を遠巻きに見ていた者達からスマホ映像等を入手していた。それらを整理してスクリーンに映し出しながら、カテリナが何者かと戦っている姿を説明した。
「またあのクソガキじゃないか!」
ガードナーが叫んだ。
遠目で解像度も悪く、カテリナと戦っている男の姿も現地人のような風体をしていたが、ガードナーにはリピウスだと分かったようである。
「あ・あいつが……あいつが……」
ガードナーの言葉を聞いて、御剣君が少し怯えるような目をしながらも映像を睨みつけている。
彼にしてみれば、生まれたてとは言え、初めての戦闘で危うく止めを刺されそうになった相手である。未だにあの時の恐怖は、魔核の奥底から消えていなかった。
傍らで凛玲と呼ばれた女性型の悪魔が、御剣君の頭を『よしよし』と撫でてあげている。
「あれが例の人間ですか? でもカテリナなら、あの程度の人間は簡単に仕留められたはずですよね」
デミトリが冷酷そうな目をして、映像を見ながら呟いた。
「ふん。どうせ相手が格下と見て、いたぶりながら楽しんでいたんだろうよ。そういう所があ奴の甘さなんだよ」
ガードナーは吐き捨てるように言い放った。
その後、大きな爆発と共に映像には杏子が現れた。
「おっと! ここで例の赤髪の魔女だね」
ティモラが後から乱入してきた杏子を指して言う。
「そしてすぐ次元結界を張ったようです。突然3人の姿が消えたと、目撃者全員が証言していますので」
ティモラの説明を、ダーズリー卿は映像をじっと見つめながら聞いていた。
「またあの女の次元結界か!」
ガードナーが、いかにも悔しそうに叫ぶ。
「そうね。カテリナ一人では、あの結界は破れないでしょうからね」
ティモラの言葉に、他の者達も頷いた。
「それにしても、毎回毎回出てくる、あのリピウスって奴は何者なんだ?」
「今のところ、人間の協力者であろうという事しか分かりません」
すると、ダーズリー卿が静かに口を開いた。
「あ奴は最近、協力者になった者らしい。霊力も現時点で人間としては第4位。総合力としては最強の能力者だと言われているそうだ」
「え? どこからそんな情報を?」
デミトリが驚いて聞き返してしまった。それを、ダーズリー卿はギロリと睨み返した。
「馬鹿だねデミトリ。例のお方からに決まっているだろうが」
ソルダーが言った。
ソルダーは200年前に、デミトリと共に仲間になった悪魔である。
ソルダーは生前から霊魂の研究をしており、その先駆者である生前のダーズリー卿を崇拝していた。
ダーズリー卿の研究成果を元に独自の研究を進めていたところ、やはり学会から異端扱いされて苦悶の内に自殺したが、死にきれずに悪魔化したのであった。
そして憧れのダーズリー卿の元に仕える事となり、現在はC国での研究施設で副所長として連絡係を務めていた。
「凛玲と御剣は知らないだろう。少し説明しておくかな」
意外とダーズリー卿の優しげな声が響いた。
(ちぇっ! ダーズリー卿様は、あの二人には妙に優しいよな)
ガードナーが心の中で、少し忌々しく思っていた。
凛玲は10年前に、ダーズリー卿達がC国進出を計画し、下見に来ていた際に偶然生まれた上級悪魔であった。
C国は貧富の差が激しく、差別意識もかなり強い国であった。そんな中、凛玲は辺境の少数民族出身で、地方の中核都市に出てきたものの、虐げられる毎日を送っており、富裕層のつまらない遊びで命を失うことになってしまった。
しかし、持ち前の強気な性格のためか、死を迎える寸前で復讐心が燃え上がり、そのまま悪魔化した経緯があった。
凛玲は即座に復讐を成し遂げて市中に潜伏している所を、ダーズリー卿に見出されて保護された。
以降、ダーズリー卿の教えを受けながらC国政府の中枢に潜入し、現在では最高権力者の側近として重用されるまでになっている。
「我々には、強力な支援者がいる」
「それはC国政府の者達ですか?」
御剣の言葉にも、ダーズリー卿は目を細めて答える。
「いや、それだけではないぞ。もっと人間界全てを掌握できるほどの、地位に居る者たちもいるのだ」
凛玲と御剣は、ダーズリー卿を敬愛の目で見つめ続けている。
一通り説明が終わると、ダーズリー卿は全員の顔を見まわして言った。
「奴らの事は、上の者達に当面任せる事とした。我々は再度計画の速度を上げ、来るべき日へと突き進むのだ!」
ダーズリー卿の言葉に、全員が平伏して応えた。




