<交渉成立>
嘉助も確かに人工知能と言う技術は聞いていた。それはコンピュータ技術を用いて、自律的に思考して行動する、ロボット等に使われている程度は知っている。
しかし、それを霊力に適用するとなると、どうしても理解の範疇を出てしまった。
「まあ詳しい仕組みとかは、ちょっと理解できそうも無いですが、とりあえずは、そう言う物であると言う事で、話を進めましょう」
不承不承と言う感じではあるが、とにかく話を進める事に、嘉助はしたようだ。
「でね、社宅にセバスかメイさんをある程度常駐させておけば、二人なら俺に随時連絡ができるようになるぞ。なにせ二人は俺の分身だからな」
リピウスとセバス、メイさんは、ネットワークを介して常時接続されており、ネットワーク範囲であれば、何処に居ても連絡を取り合う事が可能であった。
「はあ……なるほど。つまり、社宅の部屋にスマホを置いておき、セバスさんかメイさんが連絡を受けられるようにしておくと、言う事ですね?」
「そうそう。ま、時々二人共協力してもらう事もあるけど、空き時間はどちらかを詰めさせておけると思うぞ」
「セバスさんとメイさんって、常時稼働しているのか?」
杏子はまだ理解不能状況から脱していない。
「スリープモードに入る時も有るけど、まあ常時稼働も可能だぞ。空き時間はだいたい訓練室で学習しているけどね。学習なら社宅でもできるからな」
嘉助は再び考え込んでいたようだが、ふと顔を上げると杏子の方に目で問いかけた。
「あ! う・うん。まあ良く分からないけど、連絡が随時可能になるなら、条件はクリアできるんじゃ無いか? 知らんけど」
デュークは思わず(知らんのかい!)と突っ込みを入れたくなったが、我慢した。
「そうですね。ではこれで、協力者としてのこちらからの条件は、クリアできたと考えて良いでしょう」
嘉助の言葉にリピウスも頷いた。ヨルダ爺とデュークもホッとした表情をしている。
「それと、その書類には記載していませんが、リピウスさんには、我々が保持している戸籍情報を1つ融通する予定です。こちらの都合上、アメリカ国籍にはなりますけどね」
「お! そんな事ができるのかね?」
ヨルダ爺が驚いたような声を上げた。
「まあ、人間界的には違法戸籍なんですけどね。我々が人間界で活動するにあたり、どうしても戸籍情報が必要な時も有りますからね。幾つかは用意してあるんですよ」
嘉助は最大限の譲歩案を提示した。協力者はあくまでリピウス名義であり、リピウスに仮の戸籍を提供して、素性は全て隠蔽した状態にすると言うのである。
「ただし条件があります。ヨルダ老師には保証人になっていただきますよ」
嘉助はヨルダ爺をジッと見つめて了承を求めた。
「うむ。当然じゃろうな。わしに異存は無いぞ」
ヨルダ爺も嘉助を見つめて、しっかりと答えた。
その後、具体的な報酬と協力者としての勤務時間等の内容を詰めた。
当初は協力者として、固定の手当て支給で、それ以外に案件単位での個別報酬を加算する内容であった。
しかし、ここまでの話で常勤協力者としては難しいので、非常勤扱いとして、報酬は案件単位とする事に変更した。
それは、ある程度リピウスにとっても、受け入れやすい内容であった。
「つまり、非常勤扱いで、週1回日本の定例会議に顔を出せば良いのだね?」
「はい。後は案件単位に個別報酬と言う事にしましょう。リピウスさんの場合は、たぶん幾らでも仕事は有りますからね。勿論受けるか、受けないかはリピウスさん次第と言う事です」
「社宅の費用は?」
「それは無償貸与しますよ」
「それなら俺も問題無いぞ!」
「おいおいリピウスよ。おまえは既にリピウスとしての活動拠点として別宅が有るじゃ無いか。わざわざ社宅を提供される必要があるのか? それに既に偽装した戸籍も持っているじゃ無いか」
デュークは軽い気持ちでリピウスの別宅と戸籍について言ってしまった。
リピウスは一瞬だけ(余計な事を……)と言う顔をしたが、すぐに表情を戻して説明した。
「デュークよ、それはそれ、これはこれなんだよ。勿論嘉助さん達には別宅と別戸籍は申告するつもりだったさ。でもERIも提供してくれるなら、その方が何かと便利でも有ると思うのだよね」
「おや、そんなものまで既に用意されていたのですね。いや〜老師の様子から色々用意周到な人だとは思っていましたけど、想像以上でしたね。でも、それもまた良いでしょう。リピウスさんの言う通り、我々が提供する分も自由に活用してください。その方がお互いに良さそうな気もしますからね」
嘉助はそう言って杏子の方にチラッと視線を送った。それを受けて杏子もほんの少しだけ頷いて答えた。
こうしてリピウスは正式に、非常勤ではあるが霊界の協力者になる事に決めた。同時にERIの非常勤職員の肩書も得ることになった。




