<ヨルダ、降参する>
嘉助が挙げた根拠。それは、これまでの数々の助言内容が、霊界人や異世界人にしては「人間界の実情」に精通しすぎているということだった。
「封印システムに関しては良いとしましょう。ですが、解除時に発生する人間界での能力者犯罪の具体例、さらにはダーズリー卿の件が二回。そして今回のC国の件。これらはうちの元ハッカーが裏ルートで収集した極秘情報なのですが……老師の知人も同等の情報を得ているとなると、とても異世界人の仕業とは思えませんよ」
ヨルダは反論もできず、ただ黙って俯いていた。
「池袋の事件の際、老師もサンシャインにいらっしゃいましたよね?」
その言葉に、ヨルダはハッとしたように顔を上げた。
「これもうちの協力者が、サンシャインの監視カメラ映像を集めて解析した際に発見したんですよ。ヨルダ老師とデューク秘書官。そして――もう一人、ご一緒でしたね?」
嘉助は実際の映像資料を示しながら、静かに、だが確実に追及していく。
「この容姿には見覚えがあります。服装こそ違いますが、あの管理センターに同行した『異世界人の友人』じゃないですか? ……実は異世界人などではなく、人間だったのでは? そして、彼こそが悪魔を公園で迎え撃ち、人気の無いグラウンドまで誘い出して戦った能力者……そうですね?」
嘉助の淀みのない畳み掛けに、流石のヨルダも降参するしかなかった。
「はぁ〜……」
ヨルダは、身体の底から重いため息を吐き出した。
嘉助は何も言わず、じっとヨルダの次の言葉を待ち続けている。
「そこまで調べられていたとはのう……。正直に話すしか無さそうじゃな」
ヨルダは覚悟を決め、リピウスとの出会いから今日までの歩みを嘉助に語り始めた。ただし、彼の氏名や住所、能力の詳細といった個人情報だけは伏せたままにした。それだけはリピウスの許可なく、口にするわけにはいかなかった。
「え? そんな理由で封印が解けたのですか?」
「なるほど、それでシステムに関して詳しかったのですね」
「ふむふむ。そういうことでしたか……」
嘉助は時折感心したような声を上げ、熱心に耳を傾けていた。
「いやあ、驚きました。それで今日まで言い出せずにいたというわけですか」
一通り話し終えると、嘉助は改めて感嘆の声を上げた。
「しかし老師も人が悪いですよ。色々と事情はあったのでしょうが、もっと早くお話ししてくれていれば」
「すまんな。わしも何度も打ち明けようと思ったのじゃが……わしとしても、今の彼との関係を壊したくなくてのう」
「……老師にとっても、かけがえのない大切な関係だったのでしょうね。最近の老師を見ていると、分かる気がしますよ」
「うむ。リピウスに出会ってからは、わしもデュークも、彼と過ごす時間が最高のひと時じゃったからな」
老師の想いを受け止めつつも、嘉助は既に次の布石を頭の中で描いていた。
「ですが老師。やはり彼には『協力者』になっていただくのが、最善だと思うのですが?」
嘉助が思い切って切り出した。
だが、ヨルダはまだ躊躇っていた。一番恐ろしいのは、正体が露見することを嫌ったリピウスが全てを捨てて、完全に姿を眩ませてしまうことだ。
「リピウスという人は、それほどまでに他者に知られることを嫌っているのですか?」
「うむ。彼は元々の自分の生活環境を壊されたくないんじゃよ。能力者としての活動は、あくまで『リピウス』という人格の範疇に留めたい……ということじゃろうな」
「そうですか……。ならば『リピウス』としてなら、協力者になることも可能だということではありませんか?」
「まあ、それであれば道はあるかもしれんな。だが、それでは嘉助の方に不都合があるのではないかの?」
「少し、僕にも考えがあります。良ければ、一度リピウスさんと会わせてもらえないでしょうか? やはり直接お会いして、お話をさせていただきたいのです」
ヨルダは、一度リピウス本人に話をしてみるという約束を交わし、その日の対話を終えたのだった。




