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<捜査官、篭絡される>

翌日、配下の捜査官たちが到着すると、ジャネットは嘉助の事務所に顔を出した後、そのままERIへと乗り込んだ。

ERIでは主任研究員のコスタ以下、主だった霊界人スタッフが揃って出迎えた。


「いやあ、公安庁の皆さん! わざわざ人間界までお越しいただき、誠にありがとうございます!」

満面の笑顔でコスタが挨拶する。

「うむ。我らも役目だからな。早速だが、色々と確認させてもらうぞ」

ジャネットも、ERIの予想以上の歓迎ムードに気を良くしたようだ。


「はいはい、まずはこちらへ」

コスタはジャネットたちを、広々とした会議室へと案内した。

室内には既に整然と机や椅子が配置され、冷たい飲み物まで用意されている。さらに、壁際には大量の書類が完璧に仕分けされた状態で積み上げられていた。


「へえ……ここまで準備できているとはね」

捜査官の一人が、感心したように声を漏らす。

「でも、この書類の量は半端じゃないですよ。これを我々だけで確認するんですか?」

別の捜査官が、積み上がった「紙の山」を見て不満を漏らした。

「当然だ! 我々が如何に有能かを見せてやろうではないか!」

ジャネットは意気揚々と、上座に用意された席へと進んだ。


書類は、主要国との契約書、機器の貸与リスト、資材の収支報告書などに細かく分類されていたが、どれも膨大な量だった。捜査官たちはそれぞれ担当の束を席に運び、一枚一枚内容の精査を開始した。


その間も、ERIの研究員たちは入れ替わり立ち代わりやってきては、お茶を差し替え、質問に答え、至れり尽くせりのサービスを続けた。

特に食事が好評だった。朝昼はERIの食堂で豪華なメニューが振る舞われ、休憩時間にはコーヒーと共に「人間界で評判の銘菓」が供された。


初めて人間界へ来た捜査官たちにとって、これらは未知の衝撃だった。噂に聞く以上の美食に、彼らは一様に感動を覚えた。

「ううっ、俺、この任務を引き受けて本当に良かったよ……」

感激のあまり涙ぐむ捜査官まで現れる始末。もちろんジャネットも、満足げに銘菓を頬張り、香り高いコーヒーを楽しんでいた。


夜になれば「歓迎会」と称し、ロサンゼルスでも有名な三ツ星レストランへ招かれ、最高級の料理が振る舞われた。この時点で、ジャネットたちは完全にERIの術中に嵌まったと言ってよいだろう。


以降、捜査官たちは資料の山と格闘しつつも、すぐに「休憩タイム」と称してお菓子を食べ、ERIの研究員たちと楽しげに談笑する毎日を過ごした。


そして、一週間が経過した。

そこまでの集計報告を受けたジャネットは、目の前の現実に唖然とした。


(……全く、問題なし。怪しい点が一つも見当たらないというのか?)


捜査官たちは疑問点が出るたびに研究員から丁寧な説明を受け、納得しては完了印を押していった。もちろん、その傍らには常に銘菓と飲み物があった。

結果として、全ての書類において正規の手続きが踏まれていることが証明されてしまったのだ。


(こ、これでは……こんな報告をしたら……!)


ジャネットは副総監から強く言い含められていた。今回の任務の本質は、監視員やERIの「不正」を見つけ出し、糾弾することにある。

「全て問題ありませんでした」などと報告すれば、彼女の出世街道は瞬時に閉ざされるだろう。


ふと見れば、作業を終えた捜査官たちは既に寛ぎ始めており、ERIのスタッフと「次はどこのお菓子を取り寄せようか」などと盛り上がっている。

ジャネットは一人、血眼になって報告書に目を通し、何とか「粗」を見つけようと必死に抗った。しかし、口から出るのは重いため息ばかりだった。


その頃、天界でも密かに公安庁に対する内偵が進められていた。

主導したのは、ゼルからの提案を受けたミカエル一派である。

彼らは副総監の周辺を徹底的に洗っており、既に確たる疑惑の数々を掴んでいた。


(やはり副総監は脇が甘いな……)

ゼルは手元の報告書を確認し、静かにほくそ笑んだ。

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