<既に裏は取れていた>
嘉助は全面的に調査に協力することを約束し、明日からの本格調査に向けて、監視員本部とERIの資料などを提出できるよう手配を済ませた。
今回の調査には、ジャネットと共に5人の捜査官が対応する。彼らが明日人間界に到着した後は、まずERI内部の調査から開始することになった。
ジャネットを明日までの待機所として社宅へ案内し、事務所に戻った嘉助は、すぐに杏子を呼んだ。
「おい! なんであんな小娘、さっさと追い返さなかったんだよ!」
杏子は完全にお怒りモードであった。
「追い返したところで、もっと手強い捜査官が来たら余計に厄介じゃないか」
「……まあ、確かにあいつ程度なら、転がすのも容易いだろうけどな」
杏子も嘉助の指摘に、小物感あふれるジャネットの顔を思い出し、毒気を抜かれたようだ。
「でも、このまま好き勝手やられるのも癪なんだけどな」
「当面はやらせておけばいいよ。こっちだって黙って見ているだけじゃないからね」
嘉助がニヤリと不敵に笑う。
「なるほどね。まあ、そういうことなら我慢もするか」
杏子も嘉助の真意を察したようで、ジャネットに対する憐れみの表情を浮かべて微笑んだ。
すぐさま嘉助は霊界学園へと連絡を入れ、学園長に会うため学園へ向かった。
杏子もERIへと向かい、明日からの調査に関する下打ち合わせを行うことにした。
その頃、ジャネットは社宅の一室で、任務完了後に天界への道が開ける夢を見ながら、ぐっすりと眠りについていた。
嘉助が学園長室に入ると、そこには学園長の他に、閻魔とヨルダ老師も顔を揃えていた。さらに、学園長と懇意にしている若手評議会議員のゼルも同席している。
「おや、皆さんお揃いでしたか」
嘉助が飄々と入っていくと、軽い挨拶を交わした。
「相変わらずだな、嘉助は」
学園長が嘉助をソファへと招く。
「で、今回は公安の動きに関してだろ?」
嘉助が腰を下ろすなり、学園長はその来訪理由をズバリと指摘した。
「おやおや、既にお見通しのようですね」
嘉助はやれやれと首を振る。
「まあ、我々も何かと情報の網は広げているからな。特に『あの4人』に関連することにはな」
閻魔が髭を捻りながら、当然だと言わんばかりの顔をしている。
「やはり、四仙会絡みでしたか」
嘉助の問いに、学園長はゼルの方へ視線を送った。
「はい。学園長から指示を受け彼らを見張っていたところ、最近、公安庁の副総監を頻繁に接待に連れ出しておりましてね。何かを企んでいると睨んでいました」
「なるほど。確かに調査に来た者は、副総監直々の指名で来たと自慢していましたよ」
「ハハハ、直々か。まあ嘉助も分かっているだろうが、人間界での調査なんてまともなエリート官僚は引き受けんよ。結局、無名の下級管理官辺りを送り込んだんだろうな」
学園長も愉快そうに笑みを浮かべる。
「で、四仙会は何を企んでいるのです?」
「はい。まだはっきりとは分かりませんが、彼らの言動から察するに、恐らく人間界の混乱状態をさらに助長させるためと思われます」
ゼルが答えた。
「ふーむ……。嘉助らが余りにも鮮やかに混乱を鎮めたので、お前たちを排除したいのじゃろうて」
老師の言葉に、一同も深く頷く。
「あの節は老師に色々助言をいただき、本当に助かりました」
「全くですな。あの大事件がこの程度の混乱で収まったのは、全て老師の活躍によるものですからね」
閻魔は当時を思い出し、しみじみと語った。
「いやいや、それを言うなら、閻魔が即座に死神を総動員させて嘉助たちを支援させたのも大きかったであろうよ」
老師の言葉に、閻魔は「いやいや」と謙遜して首を振る。
「……もう一つ、気になることもあります」
ゼルが話を戻した。
「どうも彼らは、悪魔討伐をさせたくないようですね」
その言葉に、室内の空気が一変した。
ゼルによれば、監視員から「悪魔多発の兆しあり」と報告されているのに対し、彼らは「人間界のことは人間界で対処すべき」と主張。天界が悪魔討伐令を出さないよう、終始牽制しているというのだ。
「それが彼らにとって、何の益があるというのじゃろうな……」
老師が怪訝そうに首を捻った。
「なるほど。それでダーズリー卿出現に対しても、天界の動きが鈍かったのですね」
嘉助は全ての点がつながったように、深く納得して頷いていた。




