<動き出す悪魔たち>
ダーズリー卿たちは、隠れ家である洞窟へと戻っていた。
ティモラは大事そうに、保護したばかりの「少年悪魔」の魔核を両手で包み込み、奥へと運んでいく。
「ダーズリー卿様、なんで奴の『体』をあそこに置いてきたんだ?」
ガードナーが不審そうに尋ねた。
「ふむ。あのままでは、あの少年が不憫に感じたのだよ」
「でもよ、わざわざ魔核だけ抜いて、奴が食い散らかした場所に死体を運び直すなんて、面倒なことをする必要はなかったんじゃねえか?」
「良いのだよ。これであの少年は、怪物に襲われた『悪魔の犠牲者』として、人間たちに弔われるだろうからな」
「なんだい、またダーズリー卿様のお節介が出たのかい?」
カテリナが愉快そうに顔を上げた。
「ああ。保護した奴の記憶を読み取って、可哀想だとか言い出してな……」
「ははは! ダーズリー卿様も物好きですな」
神父姿のデミトリも、いつものことだと笑っている。
「そういう所が、ダーズリー卿様の良い所じゃないか。あたしは嫌いじゃないよ」
魔核を安置してきたティモラが戻り、会話に加わった。
「どうじゃ? 少年の魔核は大丈夫そうか?」
ダーズリー卿が案じるように聞く。
「ええ。餌も周りに置いておいたわ。暫くすればそれを喰らって、体も再生させるでしょう」
「ふむ。大事な仲間だからな」
「でも、少し頼りなげでもあったよな」
「あら、彼は意外と魔力が高いわよ。少し修行すれば、優秀な戦士になるわ」
「魔力は、どの程度なのですか?」
デミトリが問いかけると、ティモラは妖艶に微笑んだ。
「……34万ってところかしらね」
「お! 結構あるじゃんか。こりゃ手合わせが楽しみだねぇ」
カテリナが舌なめずりをしてニヤリと笑う。
「戦闘狂のお前の相手は、流石に可哀想だぜ」
「お前に言われたくないね!」
ガードナーがふと思い出したように口を開いた。
「そういや、あの協力者らしき人間……まあまあの強さだったな」
「リピウス……と言っておったな」
ダーズリー卿もその名を反芻するように呟く。
「ダーズリー卿様がわざわざ名を聞くなんて。何か興味を持たれたのですか?」
ティモラが囁くように寄り添う。
「まあな。あの者とは、おそらく我らと会うのは三度目だろう」
「え? 俺はあんな奴と会った覚えはねえぞ」
「はて……私も……。あ! なるほどね」
ティモラは合点がいったように頷いた。
最初に渋谷で感じた不審な気配。そして、杏子と鉢合わせした池袋で微かに漂っていたあの気配。すべてはリピウスのものだったのだ。
「確かに、過去二回の気配はあのリピウスのものでしたね」
「なんだよ。渋谷で霊界にバレたのも、池袋に杏子が来たのも、全部あいつの仕業か? なら、やっぱり殺しておけば良かったんじゃねえか」
「ふん。あ奴とは、いずれまた会うことになるだろう。仕留めるのはその時で良い」
ダーズリー卿の断定的な言葉に、一同は静かに従った。
「とにかく、これで我ら貴族クラスは8人になった。できればあと二人は欲しいところだが、まあ、最低限の頭数は揃ったと言えよう」
「そうね。あとはC国の凛玲たちが上手くやってくれれば」
「確か先日、ERIとの間でトラブルになり、C国独自で『霊力無効化装置』の開発に着手し始めたと聞いていますよ」
「なら、そろそろ我々も乗り出すことになりそうだな」
「うふふ。意外と順調に進みそうね……」
洞窟の奥に、悪魔たちの不気味な笑い声が反響した。




