<ダーズリー卿再び>
たった今リピウスがいた場所に、凄まじい衝撃が走った。
グラウンドの土が激しく舞い上がり、渦巻いている。
「こ、これは……!」
リピウスが唖然として見つめる中、薄れていく土煙の向こうから、大柄な男の姿が浮き彫りになってきた。
(なぜだ……。なぜ直前まで気づかなかった!?)
リピウスは戦闘中、常時フルパワーで魔力探知を展開していたはずだ。しかし、攻撃を受けるその瞬間まで、敵の接近を微塵も察知できなかったのだ。
リピウスは、眼前に立つ男を凝視した。
(この男は……間違いない)
過去に二度、その姿を見ている。ダーズリー卿の傍らに控えていた従者、ガードナーだ。
「へっ! 流石に避けるかよ」
吐き捨てるように男が呟く。
その背後から、さらに不気味な声が重なった。
「おお、可哀想にのう。こんなに怯えて……。大丈夫だ、わしらが守ってやるからな」
ガードナーの後ろを覗き込むと、そこにはあの初老の男がいた。
男は、さっきまでリピウスが追い詰めていた少年悪魔を、愛おしそうに抱きしめている。その横には、大柄な女悪魔・ティモラの姿もあった。
「ダーズリー卿! なぜお前たちがここに!」
思わずリピウスの声が漏れた。
「おや。わしらのことを知っているようだな」
怪訝そうな表情でダーズリー卿がリピウスを見やる。
「こいつ、霊界人か?」
ガードナーが問うと、ティモラが即座に否定した。
「いいえ、生身の臭いがする。そいつは人間よ」
「なら協力者か。まあどっちでもいい。始末しておくかい?」
ガードナーが軽く後ろに視線を送りながら尋ねる。
「いや、今回はこの子を保護しに来ただけだ。じきに例の野蛮な魔女も来るだろうしな」
「そうですね。ガードナー、引き上げるよ」
ティモラの合図に、ガードナーは不服そうに首を振りつつも、ダーズリー卿の傍らへと移動した。
「わしはダーズリー卿。……おぬしは?」
少年悪魔をティモラに預け、ダーズリー卿が静かにリピウスを見つめた。
「……リピウスだ」
その問いに、抗うことができなかった。
答えずにはいられない、得体の知れない圧迫感に気圧されたのだ。
「リピウスか……。覚えておこう」
ダーズリー卿がそう告げた瞬間、彼らを黒い靄が包み込み、そのまま霧散するように消えてしまった。
(クソッ……! なぜ俺は動けなかったんだ!)
終始、圧倒されていた。
反撃どころか、身動き一つ取れずにただ見送るしかなかった自分に、リピウスは激しい嫌悪感を抱いた。
と、そこへ急速に接近してくる強大な霊気に気づく。
(……杏さんだな。今会うのはまずい)
リピウスは空間に手を翳し、開いた「穴」の中へと滑り込むように姿を消した。
数秒後、誰もいなくなったグラウンドに、杏子と清君が到着した。
「……もう、誰もいませんね」
「少し遅かったようだな」
杏子は悔しそうに辺りを見回した。
「直前まで、魔力の点が四つ、霊気が一つあったはずなのですが」
痕跡すら残さない鮮やかな消え際に、杏子は唇を噛み締めながら、撤収の指示を出した。




