<巨大な魔力>
その頃、リピウスはまだ街に悪魔が出現し始めたことを知らずにいた。
舞が悪魔との死闘を演じた数日後、リピウスは久しぶりにヨルダ爺、デュークと共にサンシャインシティを訪れていた。
午後の水族館を満喫した三人は、せっかくだからと高層階のレストランで夕食を摂ることにした。
「今回はわしがご馳走しようぞ」
ヨルダ爺は、久しぶりにリピウスとのんびり過ごせてすこぶる上機嫌であった。
「お! ヨルダ爺、おいらもいいのか?」
「もちろんじゃ。デュークにも色々と頑張ってもらっておるからな」
「大丈夫なのか? 人間界の食事って、霊界相場だとメッチャ高いんだろ?」
リピウスは以前デュークから聞いた物価の違いを思い出し、少し心配そうに尋ねた。
「大丈夫じゃよ。リピウスのおかげでわしの年金も増額されたし、講演の依頼も増えての。久しぶりにウハウハなのじゃよ」
ヨルダ爺が懐を叩いて楽しそうに笑う。
三人は59階にあるシーフード・イタリアンのレストランに入った。
宝石のような夜景を眺めながら、一人1万円は下らないコース料理を堪能する。話題はもっぱら、先ほど水族館で見てきた魚たちの生態についてだった。
「リピウスは随分と魚に詳しいんじゃのう」
「そりゃ、家の水槽でイソギンチャクやクマノミを飼ってるくらいだからな」
デュークは、一般家庭にしては立派すぎるリピウス宅の水槽を思い出しながら頷いた。
「デュークは何度か、リピウスと水族館巡りもしたんじゃったな」
ヨルダ爺は少し羨ましそうな顔をしている。
「ヨルダ爺も今度は葛西臨海水族館にも行こうぜ。あそこが一番好きなんだ」
リピウスは大好きな魚の話に花を咲かせ、実に嬉しそうだ。
食後のコーヒーで料理の余韻に浸っていると、突然異変が起こった。
――ドォォン!
重い衝撃が走り、空気が小刻みに震え始めた。
リピウスたちだけでなく店内の客も一斉に反応し、不安げに辺りを見回している。
「ヨルダ爺、今のは?」
『魔力じゃな。恐ろしく強大な魔力じゃ……』
ヨルダ爺が緊迫した念話で応じる。
『おい! あんな魔力、おいらも初めてだぞ!』
デュークも念話で叫んだ。
リピウスは残りのコーヒーを飲み干すと、鋭い眼光で立ち上がった。
「とりあえず出よう」
会計を素早く済ませ、三人は近くのエレベーターへ急いだ。
エレベーターには三人以外乗っていなかった。
「どうじゃ、何か探知できたかの?」
「ダメだ。おいらの探知機には何も出てこない!」
デュークは範囲を最大に広げていたが、魔力の反応を捉えきれない。
「俺もダメだ。ビルの中だと感度が鈍る。一旦、外に出よう」
リピウスの最大探知範囲は2kmあるが、遮蔽物の多いビル内では500m程度まで落ちていた。
4階でエレベーターを降りると、リピウスは屋上広場へ向かって駆け出した。広場へ飛び出すと同時に、範囲全開で魔力探知を放つ。
「どうじゃ!?」
遅れて駆け込んできたヨルダ爺が叫ぶ。
「……見つけた。北東1.2km先。巨大な魔力を感じる!」
リピウスが指差す方角は闇に包まれて何も見えない。
「ヨルダ爺、どうする?」
ヨルダ爺が嘉助に連絡を入れようとした、その瞬間。
「まずい! 動き出した、こっちに来るぞ!」
リピウスの叫びにデュークが探知機を見やる。数秒後、巨大な魔力が探知範囲に強引に割り込んできた。
「ゲッ!? 凄いスピードだ、こっちに直進してくるぞ!」
「人の多い方へ向かってきている……! 非常にまずい状況じゃ!」
ヨルダ爺も顔色を変えた。
「ヨルダ爺たちは避難して。俺が、あそこで食い止める!」
リピウスはそう言い残すと、弾かれたように北東へ走り出した。そして迷うことなく4階の高さから広場へ飛び降り、向かって来る魔力の方へと姿を消した。
「ど、どうするヨルダ爺!」
「う、うむ……」
想定外の事態に、百戦錬磨の二人はただ立ち尽くすしかなかった。




