<リピウスへのご褒美>
久しぶりに、ヨルダ爺とデュークの二人がリピウスのもとを訪ねてきた。
リピウスはさっそく二人をいつものテーブルに招き入れ、歓待した。
「いや~、ヨルダ爺。久しぶりだな」
「ほっほっほ。リピウスは相変わらず元気そうで何よりじゃ」
「まあ、リピウスは『あの日』の直後からずっと元気だったけどな」
『目覚めの日』以降、ヨルダ爺は事後処理で多忙を極めていた。デュークも秘書官としてヨルダ爺を支えるため、共に霊界と人間界を飛び回る日々が続いていたのだ。
そんな中、リピウスは今までと変わらず家に引きこもり、メイさんと調べ物をしたり、戦闘訓練をしたり、あるいは「訳のわからないこと」をして過ごしていた。
「しかし、思ったより早く混乱が収まったな。霊界も落ち着いたのか?」
「うむ。これもリピウスのおかげじゃよ」
「そうなのか?」
「確かに、リピウスの『薄情な意見』のおかげと言えば、言えるけどな」
「なんだよ、薄情な意見って!」
デュークが呆れたように肩をすくめる。
「だってお前、いきなり『いっそ人間界の封印を全部解除しちまえばいい』なんて言ってたじゃないか」
「あー、あれか。だって解除者が増えたらどうしようとか、もう隠しきれないとか騒いでいたからさ。それなら開き直って、先に解除してしまえばいいと思ったんだよ」
「じゃが、その全解除を前提に嘉助たちが対策に奔走したおかげで、鎮静化が早まったのは事実じゃ。やはりリピウスの手柄だよ」
ヨルダ爺の言葉に、リピウスは照れくさそうにコーヒーを啜った。
「ああ……。やっぱり、ここでコーヒーを飲みながらのんびりするのが一番だな」
「まったくじゃのう。生き返るようじゃて」
「まあ、ヨルダ爺は死なないけどな」
「リピウスのそういう嫌味すら、おいらには心地よく聞こえるぜ」
三人の間に、穏やかな時間が流れる。
「そうじゃ! 忘れておったが、リピウス。何か欲しい物はあるかな?」
ヨルダ爺が、いつものように唐突に切り出した。
聞けば、今回の事態を収拾したヨルダ爺と、助言を与えた「知人」に対して霊界の環境庁が非常に感謝しており、ぜひお礼をしたいと申し出てきているらしい。
「まあ、内心はわしの知人とパイプを得て、更迭した所長の代わりに迎え入れたかったようじゃがな」
「え? それって俺のことか?」
「そうじゃよ。なんなら今からでも所長になるかの?」
「ヨルダ爺、悪い冗談はやめてくれよ。人間である俺が霊界の所長になれるわけないだろう」
「ほっほっほ。そうであったな。じゃが、形だけでもお礼をしたいと言うておるんじゃ」
「うーん……お礼って、霊界の物をだよな……」
しばらく考え込んでいたリピウスだったが、ハッと思いついたように顔を上げた。
「そうだ! メイのメモリをバックアップする装置が欲しいぞ!」
「なるほど。確かにそれはあった方が良いじゃろうな」
「うん。最近は戦闘訓練も激しくなっているから、メイが故障しないか少し心配だったんだ。予備機を借りているからいざという時は何とかなるけど、やっぱりバックアップは確保しておきたいからな」
「メイさんは一般用の義体じゃからな。本格的な訓練には向かないかもしれん」
ヨルダ爺は少し考えた後、力強く頷いた。
「うむ。義体用のバックアップ装置は環境庁に用意させよう。それと……戦闘用義体も、わしからの褒美として別途提供しよう」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
たまらずデュークが割り込んだ。
「メイさんだけでもアウトなのに、これ以上霊界の装置や戦闘用義体まで提供するなんて、完全に大アウトだろうが!」
「ほっほっほ。デュークは心配性じゃの。大丈夫じゃよ、リピウスなら」
「やったー! デューク、俺は大丈夫だぞ。なんせ引きこもりだからな!」
「いやいや、お前が『大丈夫』って言う時こそ、おいらは一番怖いんだよ……」
「まあまあ。とにかく、褒美は決定じゃ。近いうちにデュークに届けさせよう」
ヨルダ爺は、孫を喜ばせる祖父のように、実に楽しそうに笑うのだった。




