表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/227

<変わりゆく世界で>

ここは日本の監視員本部。

嘉助は事務所の監視長席で椅子に深く体を預け、考えに耽っているようであった。

(……もう半年が過ぎたのか)

そう思うと、感慨深いものがあった。


この半年間は、嘉助たちにとっても地獄のような毎日だった。


それなりに準備はしてきたつもりだった。霊界に働きかけ、多少強引な手を使ってでも多くの資材を人間界に回させ、人間に使用させる許可まで得ていた。それが功を奏し、想定よりは迅速に対応できたと考えている。

ERIと協力者たちも、嘉助の期待以上に働いてくれた。


一番の懸念だった各国首脳も、「目覚めの日」に起きた大惨事を目の当たりにして即座に動き出した。これによって、早期の鎮静化へと舵を切ることができたのであった。


しかし、嘉助たちの負担も想像以上に大きかった。


「嘉助ぇ……」

ヨタヨタと頼りない足取りで、杏子が事務所に入ってきた。流石の彼女も疲れ切り、ヘロヘロの体だ。

「ご苦労様、杏子」

嘉助は体を起こし、相棒を労った。


「もうダメ。絶対ダメ、もう休む。誰が何と言っても休むからな……」

そう言い捨てて、杏子は応接用のソファに倒れ込んだ。

「はいはい。だいぶ落ち着いてきたんだ。少しは休めるだろうよ」

嘉助は苦笑いしながら、泥のように眠り始めた杏子を見守った。


* * *


~ 天界・システム管理センター ~


あの事件以降もシステムの点検は続けられたが、ついに「原因」らしき痕跡は見当たらなかった。

システムは嘘のように、あれ以来安定稼働を続けている。ただ唯一変わったのは、あの日から霊力封印の設定が「霊力使用率100%」に固定されてしまったことだ。


また、人事面では上層部が総入れ替えとなった。

所長と副所長は事態の責任を取って降格、他部署へ転属となった。もっとも、二人の就任以前から潜在していた問題であると認識され、処分は比較的軽いもので済んだ。

一方で、問題を認識しながら隠蔽していた運用管理部長とメイン担当者2名は、懲戒免職および幽界での禁固刑という重い処分が下った。


現在は他部署から新しい所長・副所長が配属され、あの調査を率いたチーフエンジニアが運用管理部長に昇進した。

新所長の人選に関してはヨルダに対し、「システムの問題を鋭く指摘した、あの知人エンジニアをぜひ抜擢したい」と熱烈に求めてきたが、ヨルダはその存在を煙に巻くのに大変な苦労を強いられた。


* * *


~ 天界・四仙会の演説 ~


「皆さん! 今回の人間界での異変を見てどう感じられたか! 我々は何度も警告してきました。しかし、我々の声を無視した者たちが、このような悲惨な事態を招いたのです!」


聴衆から沸き上がる歓声を制するように、四仙会の議員たちは言葉を強める。

「しかも、これで終わったわけではない! 人間界の人口問題は放置され、霊界の失業問題も解決の兆しがない。再度、我々に力をお貸しください! 四仙会は必ずや、皆様の声に応える改革を成し遂げる所存です!」


ひときわ大きな歓声が上がる。

(ふふふ。これで次の選挙では2倍、いや4倍の支持を得られるだろう。その時は……)


* * *


~ 人間界・悪魔たちの洞窟 ~


一方、ある洞窟内では、不満を募らせる悪魔たちがいた。

「おい! どうなってるんだ。半年経っても何も始まらないじゃないか」

「それどころか、最近じゃ混乱も収まってきているじゃないの」

「あーもう、やってられないわ。アタシたちが直接引っ掻き回してやりたいわよ」


「まあまあ、まだこれからですよ。もう少し……」

「うるさい! その『もう少し』ってのを何度待たされてるんだよ!」

「ふん。わしは800年も待っていたんだ。さらに1年や2年待たされたところで、どうだと言うのかね?」


最後はダーズリー卿の冷徹な一言に、悪魔たちの不満も一旦は収まったようだった。


* * *


~ リピウスの自宅 ~


その頃、リピウスは小さな庭の手入れをしていた。

「ホイ!」「ホイ!」と軽やかなテンポで掛け声をかけながら、何やら作業をしている。

その傍らでは、お隣の小学生になった男の子が、興味深げにしゃがんで見つめていた。


そこにお隣の奥さんが出てきた。男の子は母親に駆け寄り、「ねえねえ、お隣のおじいさんが変なことをしてるんだよ!」と手を引っ張った。

奥さんは「変な」という言葉に反応し、子供を目で叱りながら、リピウスと目が合うと愛想笑いで会釈をした。


リピウスも笑顔で挨拶を返したが、その間も作業の手は止めない。

彼が手のひらをスッと上に動かすと、庭のドクダミが地下茎ごとスルスルと土から抜け出し、横に置いたビニール袋の中へ吸い込まれるように入っていった。


「あら? ドクダミ退治ですか?」

流石に奥さんも、その光景に気づいたようだ。

「ええ。この時期に根絶やしにしておかないと、これから繁茂して大変ですからね」

笑いながら答える間も、ヒョイヒョイとドクダミが袋の中に溜まっていく。


それを見て、男の子が「ねえ、お母さんもあれやってみてよ!」とねだったが、奥さんは苦笑いするしかない。

「そうね……。今度おじいさんにやり方を教わってからね」


そこには、どうにも平和な日本のひとときが流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ