表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/101

第83話:「もち、動物病院でプロフェッショナル対応!?(ただし無表情)」

「……さて、もち、準備OK?」


 キャリーバッグのファスナーを静かに開けると、中からひょこっと顔を出したもちが、すん、と鼻を動かして空気を確かめた。

 もちの顔は、いつも通りまるで能面のように感情が読めないが――たぶん、というか絶対に、心の中では『また病院にゃか』とでも思っているに違いない。


「もち、半年ぶりの健診だからね。今日は血液検査もあるけど…きっとすぐ終わるよ」


 そう言い聞かせながら、私はバッグをそっと抱えて玄関へ向かう。

 春の日差しはやさしく、駅までの道には桜の花びらがひらひらと舞っていた。

 もちがキャリーバッグの小窓からじっと外を見ている。

 興味津々なのか、ただ風に揺れる花びらを“敵”だと認識しているのかはわからないけれど、その静かな観察モードがちょっと面白くて、私は思わず笑ってしまった。


 動物病院に到着すると、受付のスタッフさんが「あっ、もちちゃんですね!」とすぐに声をかけてくれた。

 もうここではすっかり有名猫である。


「SNS見てます~。この間の“ちゅ~る食レポ”動画、うちの猫も真似してましたよ」


「ありがとうございます~、あれ、編集にめっちゃ時間かかりました……」


 などと話しているうちに、診察室から呼ばれた。


「こんにちは~、もちちゃん、元気にしてたかな?」


 獣医の先生がにこやかにキャリーバッグを開ける。

 中から姿を現したもちの表情は――


 無。


 まるで感情というものを捨てた修行僧のようなその顔に、先生も思わず笑ってしまった。


「うん、今日も落ち着いてるねぇ……っていうか、貫禄がすごいなあ」


 体重測定も、心音チェックも、触診も、もちにとっては「なんのことにゃ」という顔で淡々とこなしていく。


「爪もきれいに研げてるし、毛並みも良好。さすが、しっかりケアされてますね」


「ほんとですか?最近、毛玉吐く回数がちょっと増えたかなと思ってたんですけど…」


「それは年齢的なものもありますからね。少しずつ、消化力が落ちてくる時期です。おやつの内容やブラッシングの頻度を調整してあげてください」


 ふむふむ、と私はスマホのメモ帳にメモをとる。

 一方その頃のもち――


 診察台の上で、まるで置き物のように微動だにせず。


「この落ち着きっぷりはすごいですよ。まるでプロの猫モデルですねぇ」


 先生が感心している間、もちの耳がぴくりと動いた。

 本人、満更でもなさそうだ。


 いよいよ苦手な血液検査の時間。私は心の中で(頑張れ…もち…)と祈っていたが――


「じゃあ、ちょっとチクっとしますよ~」


 先生の声に合わせて、スタッフさんが手際よく前脚を固定する。


「……ん」


 もちが、かすかに声を漏らした。

 それだけだった。


「うわ、泣かないんだ……すごい、我慢強い」


「もち……アンタ、すごいよ……」


 私は思わずバッグからちゅ~るを出して、診察終了後のごほうびにと準備をする。


 診察がすべて終わり、待合室に戻ったもちの顔は――


 やっぱり無表情。


 だけど、どこかちょっとだけ誇らしげで、「我輩、やりきったにゃ」と言っているようにも見える。

 キャリーバッグの小窓から顔を出して、病院内をくるりと見渡す姿は、まるで“現場監督”のようでもあった。


 帰り道、私はもちに語りかける。


「もち、ほんとにお利口だったよ。先生もびっくりしてた。やっぱりあんた、プロだね。プロ猫」


 もちが「にゃあ」と一声だけ、短く鳴いた。


 それが「当然にゃ」と言っているようで、私はつい笑ってしまった。


 家に戻ってからもちに用意したのは、ちょっとだけ奮発した“ごほうびちゅ~る”。

 もちはそれを丁寧にぺろぺろと舐め、満足そうに丸くなって寝てしまった。


 その寝顔を見ながら、私はそっとつぶやいた。


「元気でいてくれて、ありがとう。今日も、明日も、その先も。ずっと一緒にいようね」


 そして――


 もちの尻尾がぴくりと動いた。


 それはまるで、照れくさそうな返事のように思えた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ