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完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


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第79話:「もち、はじめて“ご主人の夢”を知る」

【もち視点】


 ご主人が最近、よく“ノート”というやつにペンで何やらぐにゃぐにゃ書き込んでおる。

 吾輩がちょっかいを出そうと、ページの上に前足をちょこんと乗せても──


「だーめ、もち。ここは今、大事なとこだからね」


 と、すっとかわされてしまうのだ。ちぇっ。


 ご主人、少し前まで朝から晩までバタバタしておったが、最近は何やら“静かに忙しい”というやつに変わってきたようである。

 撮影も前よりは減った。

 吾輩が「おやつちょうだいにゃ」と鳴いても、スマホを構えるのではなく、本当におやつをくれる率が上がったのだ。これは良い変化である。


 それに、吾輩にはわかる。ご主人、なんだか前よりも……いい顔をしておる。


 その日の晩、ご主人は珍しく、PCを閉じてから、吾輩の横にどかっと腰を下ろした。


「ねえ、もち」


 吾輩の耳がぴくりと動く。

 何だろう。おやつの話か? それともあのふわふわ毛布を新調する話か?


「私ね、子どもの頃から“絵本作家”になりたかったんだ」


……ほう?


【みのり視点】


 もちが小首をかしげるように、私の膝の上を見上げていた。

 私はなんとなく、黙っていられなくなって、ぽつりと口を開いた。


「ずっと昔、小学校のときだったかな。国語の授業で絵本を作るって課題があって……それがすごく楽しくて」


 あのとき、私は動物のキャラクターを主人公にして、小さな冒険の話を描いた。

 色鉛筆で一枚一枚塗って、クラスで発表したら、先生も友達も「かわいいね」って言ってくれた。

 あのとき感じた、胸がじんわり温かくなるような気持ち──忘れられなかった。


「でも、大人になるにつれて、“現実を見なさい”って言われてさ。夢なんて、どこか遠くに置いてきちゃってた」


 社会人になって、毎日が数字と時間に追われて、気づけば“やりたかったこと”なんて自分でも見えなくなっていた。


 だけど。


 もちと出会って、動画を投稿するようになって、誰かに「癒された」と言ってもらえて──

 そのたびに、あのときの温かい気持ちがよみがえってきた。


「もちはさ、私の中に眠ってた“夢”を、呼び起こしてくれたんだよ。気づいたら、もちを主人公にした絵本の構想、ノートに描き始めてた」


 私はリビングの棚から、さっきまで書いていたノートを開いて、もちの目の前にそっと広げた。


【もち視点】

 

 ご主人が差し出したノートには、なんと──吾輩の似顔絵が描かれておった!


「ちいさなねこ もちのぼうけんってタイトルにしようと思っててね。田舎の町に住む、小さな猫が、ある日不思議な旅に出るの」


 ページをめくるたびに、吾輩が山を越え、川を渡り、ときにはしゃべるカエルと友達になり──

 最後には“帰るべき場所”の大切さを知る、という、ほんわかした絵本のラフスケッチが続いておった。


 吾輩、しばし見入ってしまったぞ。


 それは、まるで吾輩たちが本当に歩いてきた日々のようで──

 いつの間にか、ご主人は吾輩との日々を“物語”に変えていたのだ。


「絵はまだまだだけど、少しずつ形にしていけたらいいなって思ってる。仕事にするかはわかんないけど……夢は、見ていたいじゃん?」


 ご主人の目が、どこか遠くを見つめていた。


 吾輩は、そっとその手に額をすり寄せた。

 夢とか現実とか、よくわからぬが……吾輩は、ご主人が嬉しそうにしておるのが、いちばん嬉しいのだ。


【みのり視点】


「ありがとう、もち。いつもそばにいてくれて」


 私は、もちのあたたかい額にそっとキスをした。

 この子は言葉を話せないけど、全部、わかってくれている気がする。


「少しずつでも、やってみようかな。もちの絵本」


 絵を描く手はまだまだ拙い。

 でも、心は確かに動いていた。

 私は、また“夢”を見ていいんだ。もう大人だけど、誰に笑われたって、いい。


 もちがくれる時間と、物語のかけらを、私は一つひとつ大切に紡いでいきたい。


 この子と一緒に、前へ進んでいくために。





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