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完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


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第78話:「みのり、新しい“働き方”を探しに行く」

 朝。

 目覚まし時計が鳴るより少し前に、私はふと目を覚ました。


 隣で寝息を立てていたもちが、ふにゃっと小さく伸びをする。その姿を見て、ふわっと頬がゆるんだ。


 ここ最近の朝は、少しずつ“会社員時代”と違う感覚が身についてきている。

 起きてすぐメールチェック、出社の準備、時間との戦い──。

 そんな生活から解放されたはずなのに、何かが足りない気がして、心がざわつく。


 私はカーテンを開け、朝日を取り込んだ。

 部屋の中に、やさしい光が差し込む。

“もち”、あの猫は、この小さな部屋に来てから、どれだけの希望と変化を運んでくれたんだろう。

 動画投稿も、ここまで続けてこられたのは、もちがいたからだ。


 だけど。


“動画投稿だけでは生活は難しいかもしれない”──


 そんな現実的な考えが、最近ふとした瞬間に私の脳裏をよぎるようになっていた。


 このままで、本当に大丈夫なんだろうか?



 その日の午後、私は近所のカフェに向かった。ノートパソコンと手帳をカバンに入れて。

 とくに予定があったわけじゃない。ただ“自分が今後どう働いていくべきか”を、静かに考えたかった。


 カフェには数人のフリーランス風な人たちがいて、各々仕事をしている様子だった。

 私はラテを頼んで、窓際の席へ座り、パソコンを開いた。


──クラウドソーシング、動画編集代行、SNS運用、猫関連のコンサル、ペット系コラム執筆、キャラクターライセンス、グッズ販売……。


 検索ワードの履歴が、迷いの軌跡のように並んでいる。

 でも、どれもしっくりこない。なんというか……やりたい”じゃなくて“できるかもしれない”止まりなのだ。


 私は手帳に、ふとペンを走らせた。


「自分の強みは?」

「やりたいことは?」

「何のために働くの?」


 問いを並べながら、胸が少しだけ締めつけられる。

 あの日、会社を辞めると決めたときは、もっと清々しかったのに。

 自由になるって、こんなにも心細いものだったっけ?



「すみません、隣のお席いいですか?」


 ふと、声をかけられた。

 顔を上げると、女性が一人、にこやかに立っていた。


「はい、どうぞ」


 その女性は、スーツではないけれどきちんとした服装で、ノートパソコンを持っていた。

 隣の席に座ると、カフェの静かな空気に自然に溶け込んでいった。


──しばらくして、その女性がまた声をかけてきた。


「お仕事中でしたか? ちょっと、話しかけても大丈夫ですか?」


 私は一瞬戸惑ったが、うなずいた。


「大丈夫ですよ。何かありました?」


「実は、ちらっと画面が見えてしまって……もちチャンネル”の方ですよね?」


 心臓が跳ねた。


「あ、はい……そうです。ご存知なんですか?」


「ええ、子どもが大ファンで。私も毎週癒されてます。お会いできてうれしいです」


 その人は、にっこり笑った。

 まるで旧友に再会したような温かい表情だった。


「実は私、在宅ワークを支援する小さな団体で働いていて。個人で活動してる方の相談も受けているんです。もしよかったら、簡単にお話ししてみませんか?」



 そのまま、カフェで小一時間、話をすることになった。


 彼女の名前は藤崎さん。かつて大手企業でバリバリ働いていたが、子育てをきっかけに退職し、今はフリーランス  支援やキャリア相談の仕事をしているという。


「会社にいると、自分で決められることって限られちゃうんですよね。でも、辞めたら辞めたで、今度は全部が自分次第になる。それって、すごく大変なことなんです」


──そう、今まさに私が感じていた“空白”を、藤崎さんは的確に言い表してくれた。


「みのりさんは、“もち”という素晴らしいパートナーと、魅力的なコンテンツを持ってます。でも、その才能を活かすには、きちんと“仕事としての設計”が必要です」


「設計……ですか?」


「はい。たとえば、どのくらい収益を得たいのか、どこまで自分でやって、どこから外部に頼むのか。自分の役割を再定義することが、長く続けるための鍵になります」


 その言葉を聞いたとき、胸の奥にすとんと何かが落ちた。


 私は、今まで“もちを映すこと”にばかり意識が向いていた。

 けれど、「みのり」という一人の個人が、どう働き、どう生きるかを考える視点が、すっぽり抜け落ちていたのだ。


「……私、もちを通じて、誰かの心を癒せたらって思ってたんです。だけど、今は数字や再生回数に追われて……自分のこと、忘れてたかも」


 藤崎さんは、あたたかくうなずいた。


「一度、じっくり棚卸ししてみるといいですよ。“もち”と一緒に、みのりさん自身の未来も描いてみてください」



 その夜、私は家に帰って、もちの寝顔を見つめながら、手帳を開いた。


 新しいページに、こう書いた。


「もちと私、これからの働き方を一緒に考える」


 もちがふにゃっと寝返りをうち、私の指に小さく手を重ねてきた。


──この小さな命と、一緒に歩んでいく未来を、今度こそ、自分で選びたい。




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