第57話:「もち、久しぶりの“あの音”にざわつく!?」
【もち視点】
それはある静かな昼下がりであった。
吾輩はお気に入りの窓辺、ふかふかのクッションの上でまどろんでいた。春の陽だまりのような、ぽかぽかとした温もりが身体を包み込み、「このまま溶けてもいいにゃ……」などと考えていた矢先——
「ピンポーン」
にゃっ!?
全身の毛が逆立つようなあの音! それは、まごうことなき「宅配便チャイム」ではにゃいか。
どきゅん、どきゅん……と心臓が跳ねる。
一気に背筋が伸び、我が耳はレーダーのようにピンと立つ。
久しい。
じつに久しぶりである、この緊張感。
かつては毎日のように鳴っていたこのチャイム。
動画でちゅ~るを紹介したり、コラボ品のサンプルが届いたりと、吾輩は「箱開けの猫」として名を馳せていた。
だが、最近は撮影をお休みにしておったからな。
この音が、しばし遠のいていたのだ。
「も、もち~! ちょっと待っててね、ドア開けるから!」
にゃぬ、みのり殿の声もやや浮き足立っている。
まさかまた視聴者からの贈り物か?
それとも……いよいよ撮影再開の予感か?
吾輩はクッションから飛び降り、ドアの方へスタスタと歩いていく。
だがドアの前に出ると、既にみのり殿が段ボールを受け取っていた。
中くらいのサイズ。
ガムテープでしっかり封がしてあり、外箱にはなんと「〇〇テレビ」とロゴがあるではにゃいか!
テレビ……だと……!?
【みのり視点】
「え、またテレビ局から? なにこれ……取材じゃないよね……?」
箱を持ち上げた瞬間から、胸がざわついていた。
番組名も、差出人の名前も書かれていない。
宛名はしっかり私の名前と住所。
以前お世話になった番組からの何かかと思いきや、中身にはこんな一文が。
——《前回の放送を観て感動しました。もしよければ、こちらを動画でご紹介いただけないでしょうか?》
その文言と共に入っていたのは、オリジナルデザインの猫用おもちゃ、ちゅ~るの新フレーバー(!?)、そして……手紙と小さなカメラだった。
「……これ、どういうこと?」
宛名は不明。
番組のロゴ入りの箱に入っていたけど、正式な案内状もない。
あまりに唐突すぎて、私の中で一気にいろんな感情が渦巻き始めた。
もう撮影は、しばらくお休みにするって決めたばかりなのに。
なのに……こんなふうに期待されると、心が揺らいでしまう。
背後で、もちが段ボールをくんくん嗅いでいる。
「もち、どう思う?」
もちがぴたりと止まって、私をじっと見つめた。
その瞳が何かを問いかけているようで……私は思わず笑ってしまった。
【もち視点】
吾輩は箱をにおい、そして「ちゅ~る」の気配を感じた。
ちゅ~るか……
にゃんと心惹かれる響きである。
しかし、それと同時に、にゃにかが心の奥で引っかかる。
撮影のたびに見ていた、みのり殿の疲れた目。
夜遅くまで動画編集をしていたあの姿。
それらは全て、吾輩の「ちゅ~るタイム」の裏で起きていたものだった。
箱の中にあるのは、ただの贈り物ではにゃい。
それは「再び動き出せ」という無言のメッセージ——かもしれにゃい。
吾輩は、そっと箱の横に座り込む。
「みのり殿、焦ることはにゃいにゃ。吾輩は、そなたとゆっくり考えたいにゃ」
もちろん吾輩は猫であるから、言葉にはできにゃい。
ただ、じっと見つめるだけだ。
だが、みのり殿はその目をまっすぐに返してくれた。
「……そうだよね。焦らなくていいんだよね、もち」
その声に、吾輩はごろりと寝転がり、お腹を見せた。
これは「信頼」のしるしにゃ。
【みのり視点】
もちがころんと転がって、ふにゃっとした表情でこっちを見ている。
ああ、この子は本当にすごい。
言葉はしゃべらないけど、すべてをちゃんと感じてる。
「ありがとう、もち」
私はそっともちの額にキスをした。
テレビの音も、チャイムの音も、カメラのシャッター音も——
全部、もちとの時間の調味料であって、主役じゃない。
主役は、いつだって私たちのこの暮らしだ。
箱の中身を片付けながら、私は思った。
焦らず、ちゃんと考えてみよう。
今の自分が、動画を撮りたい理由は何なのか。
それが「楽しいから」じゃなければ、またもちと一緒に休んでもいい。
でも、もしまた“あの音”をワクワクと感じられる日が来たら——
そのときは、もちと一緒に、また一歩踏み出せたらいいなって。
次回、第58話:「もち、そっと背中を押すとき」に続く!




