表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/101

第52話:「もち、旅立ち前夜の大あくび」

 吾輩は、猫である。

 名前はもち。今夜も、六畳一間のアパートのタワーの頂上にて、威風堂々、毛繕いをしている。……が、実は心中、ちょっとばかり、そわそわしておる。


「もちー? リュックにちゅ~る詰めたからね。あと、毛布と……あっ、カリカリも持って行かなきゃ……」


 キッチンの片隅で、我がご主人様・みのりが、ややテンパり気味に旅行の準備を進めておった。


――明日、吾輩たちは「コラボ撮影」のため、小旅行に出るのである。


 目的地は、SNSで人気の猫系動画クリエイターが集う、温泉地某所。

 しかも泊まりがけ。初の“オフライン合同撮影会”だとか。なんでも、「人気猫同士の夢の共演」でバズると評判らしい。


「……こんな小汚いアパートから出て、温泉街の旅館だなんて……夢みたい」


 そう呟くみのりの背中は、期待と不安が入り混じっておった。


(まあ……無理もない)


 彼女は元々、ただの社畜OLで、SNSに吾輩の写真を軽い気持ちで投稿していたのがきっかけだった。それがまさか、ここまでの反響になるとは、吾輩とて想像しておらなんだ。


 部屋の一角には、最近購入された簡易ライトやスマホスタンドが並ぶ。以前は洗濯物の山で埋もれていたスペースだ。変わったなあ、と吾輩はしみじみ思う。


「……あとは、もちのキャリーバッグと、動画用のSDカード……あっ、モバイルバッテリー忘れてた!」


 吾輩はぽてぽてとタワーを降り、彼女の足元へ歩いてゆく。

 足にスリッと身体を擦り付ければ、彼女がちょっとびっくりして顔を覗き込む。


「もち……なに? なんだか、落ち着いてる?」


「にゃ(心配いらぬ)」


 吾輩はしっぽをくるりと巻いて、あくびをひとつ――


「ふぁぁぁぁ……」


 ご主人の前で、特大の、実に見事なあくびを披露した。


(どうだ、安心したであろう?)


 するとみのりは、ふっと笑った。


「……うん、なんかちょっと、元気出た。ありがと、もち」


 吾輩は誇らしく胸を張った。

 猫は言葉を使わずして、安心を与えるのが得意なのだ。


◆ ◆ ◆


 夜も更けて、みのりは布団の上でスマホをぽちぽち。

 どうやら旅先の天気や、コラボ相手の猫の情報を確認しているようだ。

 画面には、吾輩と同じくらい可愛い……いや、まあ、そこそこ可愛い猫たちの写真が並んでいた。


「うーん、みんな衣装とか小物とか凝ってるなあ……もち、なにか着てみる?」


「にゃ(却下である)」


 吾輩は即座に顔を背けた。服など、吾輩の高貴な毛並みに不要! あくまで“素のもち”こそが視聴者に愛されている所以なのである。


「だよねー。やっぱり、もちのまんまでいこうか」


 みのりはそう呟いて、スマホを閉じた。部屋には静けさが満ちる。


「……明日、頑張らなきゃなぁ」


 彼女の小さな呟きが、夜の空気に溶けた。その声が少しだけ震えていたので、吾輩は布団に乗って、彼女の胸元に丸くなる。


「にゃ(吾輩がついておるぞ)」


 そっと肉球で、彼女の手に触れる。


 するとみのりは、吾輩の額を撫でながら微笑んだ。


「うん……ありがとう、もち。頼りにしてるよ」


◆ ◆ ◆


 布団の中はあたたかくて、すこしだけ緊張していた吾輩の心も、ほぐれていった。ご主人様と一緒なら、大丈夫――そう思える。不思議な魔法のようなものである。


 明日は早起きして、駅まで向かい、電車に乗って、知らない土地へ。知らない猫と、知らない人たち。いつもの六畳間ではない、外の世界。


(怖い、という気持ちがないわけではない)


 だが、吾輩はもう“ただの猫”ではないのだ。

 ご主人様を救うために立ち上がった、“猫界の恩返し戦士”――それが吾輩、もちである。


「明日はちゅ~る、いっぱい食べられるかなあ」


 みのりの寝言のような呟きに、吾輩は小さく「にゃ」と返した。


 その夜、吾輩はちゅ~るの山に埋もれて眠る夢を見た。


 そのすべてがご主人様と、明日を笑って迎えるために――。


 次回予告:

 もち、初めての“合同コラボ撮影”に挑む」

 人気猫クリエイターが一堂に会す温泉旅館。

 ちゅ~る争奪戦!? もち、試される猫力にゃんりょく! お楽しみに!

挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ