第53話:「もち、初めての“合同コラボ撮影”に挑む」
吾輩はもち。
名を馳せし猫動画界の、まぁまぁバズった存在である。
しかし今日、吾輩はそれどころではない。なにせ、全国の人気猫クリエイターが一堂に会す“合同コラボ撮影会”なるものに招かれたのだ。
場所は、古びたが情緒ある温泉旅館――だが猫にとって、そんな風情など些末な問題である。
「うぅ…何この空気…猫密度、高ッ…!」
ご主人・みのりがキャリーバッグを抱えながら、すでに圧にやられている。入口前には、カメラを首にぶら下げたスタッフ、スマホを構えた飼い主たち、そして――にゃあにゃあ鳴き交わす猫たちが勢ぞろい。
「ほら、もち。ここが今日の会場だよ。…あぁ、胃が痛い…」
吾輩もキャリーバッグから顔を出すと、さっそく数匹の猫に目をつけられた。特に目立つのは、SNSでバズりまくってる“スコティッシュのスコまる様”と、まんまるもふもふ白猫“しらたま姫”。
なんというオーラ。
アイドル猫って、本当にいるのか……と、我ながら動揺してしまう。
【みのり視点】
「えっと……はじめまして、“もち”の飼い主、みのりです……」
すでに場の空気に呑まれ気味の私は、挨拶だけで体力ゲージがゴリゴリ削れていく。周囲には業界歴の長そうな飼い主さんたちがズラリ。
ライトやマイク、SNS用のポータブル背景など機材もバッチリ。
「もちちゃん、最近すごいバズってますよね~」
「うちの子、あの“冷蔵庫裏探検回”に大爆笑でした!」
お、おぅ…ありがとうございますぅ……。
なぜか飼い主界隈で“撮影技術”や“編集スタイル”を褒められ、ますますプレッシャーが重くなる。
「みのりさん、今回の合同コラボって、人気順で“ちゅ~る対決”の主役回あるらしいですよ?」
なにそれ怖い。完全に体育会系ノリじゃん。
【もち視点】
「やぁやぁ、君が“もち”かね?」
優雅に近づいてきたのは、あのスコまる様である。
ふわふわの耳、堂々たる足取り、しかも声まで低音でかっこいい。
「SNSの世界じゃ有名だよ。君の“段ボールハウス破壊事件”、拝見させてもらったさ」
うっ、それは黒歴史なのでは……。
「今回は一緒にちゅ~るレビュー対決だってさ。頑張ろうじゃないか」
そうして始まった“ちゅ~る対決”。
猫たちがズラリと並び、テーブルにずらりとご当地ちゅ~るが並ぶ。北海道ホタテ味、博多とんこつ風味、信州りんごチキン、などなど。
だが、対決といっても暴力は禁止。
いや、そもそも吾輩たちは猫である。
審査基準は、「どれだけうまそうに食べるか」「表情が豊かか」「動画映えするか」……そんな曖昧で高度な判定。
カメラが回る。ライトが照らす。
「3、2、1……よーい、ちゅ~るっ!!!」
出されたのは、吾輩未経験の「近江牛風味ちゅ~る」。
ご主人が緊張の面持ちで手を差し出す。
吾輩、いざ勝負である――!
【みのり視点】
「いけ、もち……食べろ……可愛く!かわいく食べてぇぇ……!!」
心の中で叫ぶ私。
だがその声援が通じたのか、もちがゆっくりと、しかし確実に近江牛ちゅ~るに舌を伸ばす。
ぺろ……ぺろぺろ……。
「あぁ~っ、うっとり顔いただきましたー!」「あの眼閉じのタイミング、最高です!」
スタッフたちがざわつく。まさか……これは、もしかして……。
「エントリーNo.7“もち”! 会場賞、最多『いいね』賞、同時受賞です!」
拍手がわく。しらたま姫もスコまる様も優雅にたたえる。
もちが……うちのもちが、バズり会場で優勝してる……!!
【もち視点】
ふぅ……吾輩、やってやったである。
だが、栄光などよりも――ご主人の笑顔こそ、吾輩のちゅ~るである。
「もち~っ、すごいよ~っ!うちの子、天才だよ~っ!」
ぎゅうっと抱きしめてくるご主人。
いつもよりちょっと涙ぐんでたのは、きっと照明のせいである。
吾輩の名はもち。
かつて捨て猫、いまや、合同撮影会のちゅ~る王者である!
次回、「第54話:もち、帰宅後の静けさに包まれる(そして反省)」
ちゅ~るは、勝利の味。だが、平穏もまた、ごちそうなのである。




