第六章 第51話:「もち、CM出演が現実に!?」
【もち視点】
「吾輩を……テレビで再び拝みたいと申すか?」
朝、ぽかぽかの陽差しの中、いつものように窓際でまどろむ吾輩の耳に、とんでもない話が飛び込んできた。
「もち、CM出演の話来たよ……!ちゅ~るの、ガチのやつ……!」
ご主人様の顔がいつもより5割増しで興奮していた。
目なんてキラキラと星を宿しておる。
なにごとかと思えば、かの“夢の味・ちゅ~る”の企業様からCMの正式オファーが来たのだという。
「にゃ……にゃにぃ!?」
ちゅ~る……あの甘美なるペースト……。
それが山のように積まれ、しかも人間たちに囲まれて褒められながら舐められるとは……いや、ちょっと待て、これはただの夢ではないか?
バシッと自分のほっぺを舐めて確認する。……味がした。現実である。
「吾輩が……CMに? あの、テレビの中で、白い歯の人間たちに囲まれて、スローモーションでちゅ~るを舐める……?」
想像した瞬間、ゾクゾクと背筋に走る高揚感。そして、一方で――
「けど、あのライトとかカメラとか……また囲まれるのか?フラッシュの嵐とか、知らん人間に触られるのはちょっと……」
吾輩は繊細な猫である。興味もあるが、未知の現場はストレスの元。
ぐるぐる悩んでいると、ご主人様が急にしゃがんで目線を合わせてきた。
「ねえ、もち……嫌だったら無理しなくていいからね。あんたは、うちの大事な家族だから。どんなに有名になっても、それは変わらないから」
その言葉に、心の中で何かがふわっとほどけた。
……うむ。では、やってみてもよい。吾輩、やるなら完璧主義であるからな!
「にゃーん(ちゅ~るに免じて、やってやらんでもないぞ)」
心の準備は……7割。だが、よい機会である。吾輩の美貌とグルメな舌を、全国のちゅ~るファンに届ける時が来たのだ。
【みのり視点】
信じられなかった。
メールボックスを見返すこと、三度。
差出人は、某ペットフード大手の公式アカウント。
添付には丁寧な文面と、正式なCM出演オファー。――これが夢でなければ、とうとう“もち”が本当に、猫界のスター街道を歩き始めた証拠だ。
「はぁ……すごいなぁ、もち……。いつの間に、こんなにすごい存在に……」
嬉しい。誇らしい。
でも、少し不安でもあった。
テレビに出たら、きっと今以上に注目される。
今まではSNSの画面の中だけだったけれど、テレビという現実の世界に映るというのは、ちょっと重たい。
“私の手から、もちが離れてしまうような気がして。”
CMの条件は、ロケ地での数日の滞在、撮影に向けた事前のスケジュール確認、それに環境ストレスを減らすためのサポートチームの同伴など、配慮はとても細やかだった。
でも一番大事なのは――もちがどう思っているか、だった。
だから、膝にのってきたもちの顔をまっすぐ見て言った。
「嫌だったら、断るからね。あんたが嫌なことは、しなくていいんだよ」
すると――
「にゃー(まぁ……今回はよかろう)」
……今の「にゃー」は、間違いなく了承だった。なんて頼もしい家族なんだろう。
「ありがとう、もち。がんばろうね。うちらのペースで」
こうして、わたしともちの“新しい旅”が、また始まろうとしていた。
――その夜――
ごはんのあと、いつものようにソファに一緒に座って、テレビから流れるニュースを眺めながら、何気ない時間が流れる。
CMのことを考えると不安もある。でも、もちとならきっと乗り越えられる。
なにより――
「一緒にここまで来られたんだもんね。次も、きっと、大丈夫」
もちの背中をぽんぽんと撫でると、ゴロゴロと満足そうに喉を鳴らした。
「吾輩は……この人間と共にある限り、何処へでも参る所存である」
たとえ、それがCM撮影という未知の世界でも――ちゅ~るのためなら、吾輩、やってやるのだ!




