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完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


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第47話:もち、旅立ちの準備に戸惑う!?

 段ボールの山。開けられたスーツケース。玄関に立てかけられた、いつもの傘とは違う、新品のキャリーケース。


 これは……いったい何事であるか。


「もち、ここにはオヤツ入れて……」


 ご主人様が、真剣な顔で荷物の整理をしている。靴下の片方をくわえて走り去ろうとした吾輩は、その気迫に思わず立ち止まった。


「ご主人様よ……いったい何をしようとしているのだ?」


 しっぽをふるふるさせながら、部屋の中央で観察する。箱の中からは、ちゅ~る、ブラシ、お気に入りの猫じゃらし……え、まさか、旅の支度ではないか? この部屋の外へ? まさか……引っ越しか?


「いや、待て。ご主人は昨日も“出張だよ~”と言っておった。では、今回もその延長か? しかし、今回は様子が違う……」


 人間はよく、我々猫の前でひとりごとを口にする。実に便利である。じっと黙って見ていれば、だいたいの計画が明らかになる。


「うーん、もちのハーネスも新しいの買っといたほうがいいかなぁ……現地でお外にも出られるといいし……」


 現地!? 外!? 新しいハーネス!? 


「現地ってどこだ! 外ってどこだ! 吾輩はこの六畳一間の王であるぞ!」


 騒然とする頭を整理しようとしたそのとき、ご主人様がふと吾輩を振り返った。


「もち、来週から、旅行だよ。初めての、ふたり旅」


「……旅?」


 聞いたことのある単語ではあった。

 しかし、猫にとって“旅”などは非日常の極みである。そもそも我らが棲むべきは日向と押入れとごはんの器の三角地帯。

 旅路など無縁の話である。


 ご主人様は、しゃがんで吾輩の頭をなでた。


「動画投稿、バズってからいろんな人が声かけてくれてさ、今度ね、観光地の地域活性のキャンペーンで“もちと行く旅”って企画に呼ばれたの」


 耳がピクリと動く。観光地? キャンペーン? 吾輩がそこに行くのか?


「もちが人気者になったおかげで、旅費も全部向こう持ち。ホテルもペット可だって。だから……行こう?」


 目を細めるご主人様の顔に、嘘はなかった。むしろ、どこか申し訳なさそうで、それでいて嬉しそうな顔。


「……行くとは言っておらんぞ、吾輩は……」


 ぐるぐると、部屋を回る。キャリーバッグのにおいを嗅ぎ、ハーネスを見つめ、段ボールに詰められるちゅ~るの数を確認。

 ご主人の用意には、抜かりがない。


「ふむ……しかし、まてよ?」


 ハッと気づく。これまでの旅と違い、今回は――ご主人様と、一緒だ。


「吾輩が外に出る時、いつも怖くて縮こまる吾輩に、彼女はいつだって手を差し伸べてくれた……」


 思い返せば、動物病院のときもそうだった。

 ライブ配信、テレビ、取材、すべての新しい経験に、吾輩は不安でいっぱいだった。でも――彼女がそばにいれば、少しだけ、勇気が持てた。


「ご主人様よ、そんなに吾輩と行きたいならば……」


 おもむろに、足元にスリッと寄り添ってみる。


「……行ってやらんことも、ない」


「えっ……もち、もしかして……いいの? 行ってくれるの?」


 驚きと喜びが入り混じった声。ご主人様は吾輩をぎゅうっと抱きしめた。むぅ、少し苦しいが、まあ良しとする。


「ありがとう、もち……ほんと、ありがとう……」


 その日、ご主人様は嬉しそうに荷物を詰め終え、旅の予定表を眺めていた。吾輩はといえば――。


「……ふむ。外は未知であるが、未知とは、つまり好奇心の塊でもある」


 窓の外を見る。

 ベランダの向こうに、空が広がっていた。

 知らぬ土地、知らぬ風、知らぬ景色。そこには吾輩の知らぬ“ちゅ~る”が待っているかもしれぬ。もしくは、新たな爪とぎスポット。


「ならば、行ってやろう。ご主人様と共に――この旅路へ」


 とことこと、荷造りが終わった段ボールの横に並び、ちょこんと座る吾輩。そこへ、そっと置かれた小さな首輪と、新しい旅用のハーネス。


「ふっ……準備は整った」


 吾輩は胸を張って、ほんのり開いたキャリーバッグの中に自ら入った。


 驚くご主人様の声を聞きながら、毛布の上で丸くなる。


「待っておれ、世界よ。吾輩が、おぬしのちゅ~るを舐めに行く!」


 次回、第48話:「もち、初めての列車移動に揺れる」に続く!





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