第46話:「もち、奇跡のコラボ依頼が舞い込む!?」
【みのり視点】
まさか、まさか、まさか……。
「ほんとに……? これは、ドッキリ……じゃないよね?」
その日、わたしは部屋のど真ん中で正座していた。手にはスマホ。震える指で画面をスクロールしては、何度も目を擦る。
届いたのは、あの有名チャンネル『チョビ旅にゃんず』からのメッセージ。
「もちちゃんと、ぜひコラボを!」
「猫と一緒に神社や温泉街を旅する特別企画、出演しませんか?」
現実味がない。なさすぎる。
「ご主人、テンパってるにゃ?」
横でころんと丸くなっていたもちが、不思議そうに首を傾げる。
「そりゃテンパるよ! だって、チョビ旅にゃんずって、猫動画界のレジェンドみたいな存在だよ!? 登録者100万人超えてて、猫たちの旅に泣かされる人、続出って話題になったチャンネルだよ!?」
「にゃふーん……おいしいの?」
「もうっ……!」
思わず笑ってしまった。
けれど、その緊張も吹き飛ぶような出来事がさらに続く。
メールのやり取りを経て、Zoomでの打ち合わせが決定。しかも、もちも同席を希望されている。
「えっ、画面越しに!? もち、ちゃんと挨拶できるかな……いや、そもそも映像に映るかな? 逃げないかな? 寝ないかな? くしゃみしないかな……!?」
準備はバタバタだったけれど、当日、もちがやってくれた。
カメラに映った瞬間――なぜか、伏し目がちに前足を揃えて“座禅ポーズ”をとった。
その神々しさに、先方のチームも大爆笑。
「ほんとに“もち様”だ……!」
あっという間に場が和み、企画の概要が語られた。
猫と人が一緒に、猫スポットを巡る旅。
旅にゃんずのチャンネル10周年を記念する大型プロジェクトの一環で、もちを“特別ゲスト猫”に迎えたいとのことだった。
「視聴者から“あのもちちゃんと旅が見たい”って声、すごく多くて」
「ほんとに……? うち、ただの庶民派アパートの一室なんですけど……」
「そこがいいんです。もちちゃんの自然体と、ご主人の飾らないやりとりが視聴者の心を動かしたんですよ」
その言葉に、胸が熱くなった。
あのとき、捨て猫だったもちを抱き上げて――
はじめて一緒にお風呂に入って、必死に鳴かれて――
夜な夜なスマホで動画編集して、寝不足でふらふらになった日々――
全部が、報われた気がした。
「よろしくお願いします……!」
わたしは深く頭を下げていた。
画面の向こうで、チョビくんがあくびをしていた。もちもそれを見て、なぜか同じタイミングであくびをしている。
やっぱり、猫は猫同士、通じるものがあるのかもしれない。
【もち視点】
「ふぁあぁ……Zoomとやらも、悪くないにゃ……」
吾輩はあくびをひとつ。
やけにテンションの高いご主人を眺めつつ、カリカリを一粒くわえてカーペットの上で転がる。
なんだかよく分からないが――
どうやら“旅”に出るらしい。しかも“ちゅ~る”付き。いや、もしかするとご当地ちゅ~るが存在する可能性も……。
「旅って、おいしい?」
ご主人はくるりと振り向いて笑った。
「たぶん、おいしいよ。ごはんも、思い出も、いっぱいあるはず!」
――それなら、行ってやるにゃ!
いつだって、吾輩の仕事はひとつ。
ご主人のそばにいて、日常を面白くすること。
今回のコラボも、ただの通過点にすぎないにゃ。
テレビのその先へ。旅のその向こうへ。ちゅ~るの最果てまで――
「吾輩は、もち! その名に恥じぬ、猫の冒険家となるにゃ!」
――と、さっき決めた。
【みのり視点】
その夜、ふたりでコタツにもぐりながら、これからの旅の話をした。
「ちゃんと、バス移動できるかなぁ」
「にゃっふ(たぶん、寝る)」
「外でカメラ回ってても、暴れないでね?」
「ふんにゃ(ちゅ~る次第)」
「……やっぱ、ちゅ~るは切り札だなぁ……」
旅の準備は、これからだ。
だけど――
“もちと一緒”なら、どんな未来も、ちょっと楽しくなる気がする。




