表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/101

第40話:「もち、ちいさな出会いを受けとめる」

【もち視点】


 吾輩の名はもち。

 現在、動画投稿界のスターダムをもふもふと駆け上がっている白猫である。


 吾輩の寝姿や食べる姿、時折お腹を見せて転がる様子までもが人間界で“癒し”と呼ばれているのだから、これはもはや責任重大である。


「にゃふっ……(ふむ、今日も世界は平和である)」


 ご主人の枕元でごろりと転がり、すぴすぴと鼻を鳴らしていたその日。

 事件は静かに、しかし確かに吾輩の世界に降ってきたのだ。


 ピンポーン、と鳴った玄関チャイム。

 ご主人が出ると、そこにいたのは──小さな女の子だった。


「こんにちは……あの、これ……」


 女の子は手に何かを持っていた。小さな箱と、折り紙でできた手紙。

 吾輩は足元からそっと覗き見る。


──その子の瞳が、少し震えていた。


【みのり視点】

 

 突然の来客は、近所の小学校に通っているという女の子だった。


「もちちゃん……動画、いつも見てます」


 胸元にしっかりと抱きしめた箱の中には、手作りの首輪と、シールで飾られた猫用のおやつがいくつか入っていた。


「これ……うちの猫に、作ったやつなの。でも、その子……」


 彼女は言葉を濁した。


 私はそっとしゃがんで、目線を合わせる。


「……ありがとう。もちはきっと、喜ぶよ」


 そう言って受け取った瞬間、彼女の目に、涙が光った。


「わたしの猫……ミケっていうの。去年、病気で死んじゃって……ずっと悲しくて……でも、もちちゃんの動画見たら……泣いたあと、ちょっと笑えて……うれしかったの」


──心が、ぎゅっとなった。


 “もち”という存在が、この子に少しでも癒しを届けていたこと。その事実が、たまらなく尊かった。


「もち、会ってもいい?」


 私は戸を開き、部屋に入ってから振り向くと──


 そこには、もちがちょこんと座っていた。


……まるで、全部聞いていたかのように。


【もち視点】

 

 吾輩は、足音で彼女が泣いていたことに気づいていた。


 人間は涙を流す生き物だ。理由はたくさんあるけど、今日の彼女の涙は、きっと“さよなら”の涙だ。


 吾輩はそっと、彼女の前まで歩いていった。


「にゃ……」


 ぺたり、と足元に座り、見上げる。


 小さな手が吾輩に伸びてくる。

 震えていたけど、優しかった。


「やっぱり……ふわふわ……あったかいね……」


 その言葉に、吾輩はごろごろと喉を鳴らして応える。

 彼女のミケという猫も、こうして癒していたのだろうか。


「もちちゃん、ありがとう……また、来てもいい?」


 吾輩は軽くしっぽをふる。にゃんともないさ。


【みのり視点】

 

 その日以来、小さな訪問者は時折、手紙を持ってやって来るようになった。


「今日はもちちゃんの寝てる動画がいちばんだった!」とか、「もちちゃんのもぐもぐしてる顔、好き!」とか。


 彼女にとって、もちの存在が日常の灯りになっているのだと、感じていた。


 そして私自身も、変わってきた。


「もちって、ほんとにすごいよね。小さな命なのに、誰かの悲しみにそっと寄り添えるんだよ」


 以前の私なら、こんな風に人と繋がるのは苦手だった。でも今は──


「君のおかげで、誰かとちゃんと話せるようになったよ」


 テレビや動画で注目されても、私たちの生活は相変わらず六畳一間。

 ご飯はレトルト、カーテンは少しほつれてる。


 でもその中で、もちがくれる“ちいさな出会い”が、私を世界へ繋げてくれる。


「ねぇ、もち。次はどんな人と出会うかな」


 私はもちの背をなでながら、静かにそうつぶやいた。


【もち視点】

 

 今日もベランダに陽が射し、風が揺れる。


 あの女の子はまた来て、吾輩に「今日も動画見たよ」って報告してくれた。


 ミケという猫の話もしてくれた。


「お空にいるんだよ、ミケ。もちちゃんも、いつか会えるといいな」


 吾輩は少し空を見上げた。


 会えるだろうか。

 にゃんたにも、ミケにも。空のどこかで、すやすや眠っている彼らに。


 吾輩は、生きている。今、この家で。

 そして誰かのために、今日もごろごろと喉を鳴らす。


──にゃんとも、幸せな日々である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ