第39話:「もち、ご近所に噂される」
【もち視点】
吾輩の名はもち。最近ちょっとした“時の猫”である。
なにせ動画サイトでは連日コメントがうなぎのぼり、テレビ出演まで果たし、ファンレターなる神秘的な紙の贈り物まで届いたのである。
吾輩の存在が、画面越しの人間たちに癒しと感動を与えている……これはもはや神猫では?
……などと、日向ぼっこをしながら悦に入っていたその日。
「ちょっと聞いた?あのお部屋の猫ちゃん、テレビに出てたんですって!」
「見た見た!“もちちゃん”って名前らしいわよ~」
ベランダ越しに聞こえてきたのは、知らぬおばちゃんたちの声である。
「えっ!? あのかわいい子?いつも窓辺にいる!」
「そうそう!あの、もふっとした白い……ほら、もーちもちの!」
吾輩は窓辺で、背筋を伸ばして座っていた。
すぐ近くの通路に、マンションのご婦人たちが三人集まり、こちらを見ながら話している。
「にゃ……(ほほう。ご近所での評価も悪くないようだな)」
ふふん、と鼻を鳴らした途端──
「あっ! いま、見てくれた!こっち見たわよ!」
「やだ~!あの子、ほんっと美猫さんね~」
……ふ、まぁな。
「でも、あの子の飼い主さん、どんな人なのかしら?」
「一人暮らしの若い女性みたいよ。地味だけど、やさしそうな感じの」
「ねえ、その人、最近やたら宅配来てない?プレゼントとか?」
「見た見た!なんか封筒がいっぱい届いてたわよ~」
「にゃぬっ⁉︎(さすがに聞き耳立てすぎでは⁉︎)」
……聞こえているぞ、人間たちよ。猫の耳をなめるな。
【みのり視点】
「……あれ? なんか……最近、視線感じる?」
数日前のテレビ放送が終わってから、もちとの暮らしにちょっとした変化が生まれていた。動画のコメントや再生数は爆増し、フォロワーもどんどん増えている。
でも、それ以上に気になるのが──
「……郵便受けに『もちちゃん宛』ってメモが貼ってあった……なにこれ……」
ベランダに出れば、下の階のおばちゃんと目が合い、
「あら~、もちちゃん元気~?」と、にこにこ話しかけられる。
近所のスーパーでは、店員さんに「テレビ見ました!あの猫ちゃん、もちちゃんですよね?」と声をかけられる始末。
「な、なんで知ってるの!?」
まさかのご近所バズり。
「えーっと、これはその、あれです……プチ有名猫ちゃん状態?」
まさかこんな小さなワンルームの一角が、ちょっとした“聖地”扱いになるなんて思ってもみなかった。
それでも──
「もち、よかったね。なんか……嬉しいね」
私は、もちが“ただの猫”じゃなくなっていくことに、どこかくすぐったいような、でもちょっぴり誇らしいような気持ちになる。
テレビで知ってくれた人がいて、動画を見て癒される人がいて、そして──
「こうして、近所の人にも優しくしてもらえるなんてさ」
ほら、もち。君は本当に、すごい猫だよ。
【もち視点】
「ふむ……(これが“地域密着型スター猫”というやつか)」
吾輩はもはや、窓辺のアイドル的存在である。外を歩く人が吾輩を見ては、スマホを向けてきたり、手を振ってきたり──
……いや、手を振られても困るのだが。
それでも、吾輩は応える。しっぽをふりふり、おなかをみせたり、時にはごろーんと一回転したり。これぞサービス精神。
だが、我が家にそんな明るさとは真逆の影が迫っていた……。
「……にゃ?」
郵便受けから、また何かが落ちた。
ご主人がそれを拾い上げる。
「……あれ?これ……うちの住所、書いてある?」
茶封筒の中には、写真と手紙。
──もちちゃんへ。ぼくのねこも、白くてもふもふだったよ。
「……え……これ……」
ちょっと怖い。
けど、手紙の内容は、純粋にもちを応援するもので、優しさに溢れていた。
「ふふ……ほんと、みんながもちを見て、元気をもらってくれてるんだね」
ご主人はそう言って、吾輩の頭をなでた。
……そう、吾輩の使命は“癒し”である。
アイドルでも、タレントでもない。にゃん生アーティストである。
【みのり視点】
とはいえ、ご近所にもちの話題が広まりすぎて、ちょっと恥ずかしい日々。
マンションの前で小学生の集団に「もちちゃんちどこ~!?」って叫ばれたり、宅配のお兄さんに「動画、登録してます」って笑われたり……
「も、もー……!恥ずかしいよ、もち~~~!!」
私が叫んでも、ベッドの上でごろごろ転がるもちの余裕たるや。
「君が主役だってわかってる顔してるよね?ずるいわ~」
でも──
この生活、ちょっと、悪くないかも。
テレビをきっかけに、SNSや動画で知ってくれる人が増えて、そしてこんな風に、現実の世界でも「もち」が誰かに笑顔を届けている。
「次はどんな“もち”を見せてあげようかな」
私はそっとスマホを構え、もちの寝顔にフォーカスを合わせた。
ふわふわの毛並み、すやすやと動くお腹。
──この幸せを、誰かに届けられるのなら。
私はこれからも、もちの“広報係”として、頑張っていこうと思った。
次回、第40話「もち、ちいさな出会いを受けとめる」に続く!




