第34話:もち、猫グルメレビューで舌鼓(したづつみ)
【もち視点】
その日、吾輩は「選ばれし舌」の持ち主として、新たな任務に挑むことになった。
「もーちー、今日はさ、ちょっとお仕事お願いね?」
ご主人――みのりが言いながら、リビングの真ん中に謎のちゃぶ台(小さい折りたたみテーブル)を置いた。そこにはなにやら小袋や缶がずらりと並んでいる。
「にゃ……?(これは……まさか、食べ物!?)」
ちゅ~る、ささみ、かつお節……どれもただの“ごはん”ではない。“特別なおやつ”たちだ。ラベルには「高級」「国産」「プレミアム」「期間限定」など、吾輩の好奇心をくすぐる文字が躍っている。
――これは、ただごとではない。
「えっと、今回はですね、先日ライブで『もちくんのおやつタイム見たいです!』ってコメントをいただいたので……視聴者さんから送られたおやつ、レビューしてもらいましょう!」
と、ご主人はスマホを三脚にセットし、真顔で言った。
レビュー? それはつまり、吾輩が“食べ比べ”をして“味を伝える”ということか。
ふむ――なるほど、つまりこれは、“猫グルメ評論家・もち”としてのデビュー戦というわけだな。
よかろう。その任、しかと引き受けた!
「にゃっ!(吾輩の味覚に、偽りはない)」
――収録開始――
「はいっ、どうもこんにちは! 今日は、うちのもち様が視聴者さんにいただいたおやつを、レビューする動画を撮りまーす!」
ご主人がにこにこしながら喋る横で、吾輩はすでにスタンバイ完了。
まず一品目――ちゅ~る「まぐろ&ほたてミックス味」。
ぴゅるっと出されたそれは、見るからに濃厚。舐めた瞬間、吾輩の中の何かがはじけた。
「……んふぅぅっ……(これは……まぐろの深みと、ほたての甘さが……舌に絡む……)」
思わず舌をとろ~んと伸ばしてしまう。
「おおっ、もち、目ぇとろけてる~~~!」
ご主人が笑いながら実況する中、吾輩はもう完全に“美食の世界”へと旅立っていた。
二品目、「かに風味の高級ちゅ~る」は、舐めた瞬間に鼻から抜ける磯の香り。三品目、「サーモンバター」は、舌の奥にバターのコクが残る禁断の味。
「ぬぅっ……!(これは……主菜……いや、デザートか……? もはや分類不能……!)」
「もち、語彙力失ってる感じあるね~! はい次~!」
三品目、「国産ささみスライス」。これがまた、噛んだ瞬間にほどける極上のやわらかさで、思わず吾輩は口元をぴくぴくさせてしまった。
「にゃあ……(ふわっとして……繊維が……泣ける……)」
最後は、真打ち「天然かつお節フレーク缶」。
ぱかんと開けた瞬間、ふわっ……! っと部屋中に香ばしい香りが充満した。
「にゃっ!? にゃにゃにゃっ!(本能……本能が……!!)」
吾輩、ついに我を失い、缶に飛びついた。
ぱふっ! ばしゃっ!
フレークが散らばり、吾輩は全身かつお節まみれ。
「ちょっともちー!? 待って待って、撮影止めるからぁぁ!!」
画面の向こうから、ご主人の悲鳴が響いた。
【みのり視点】
収録は、もはや「食レポ」ではなかった。
ちゅ~るをぺろぺろするもちのうっとり顔、ささみを食べて目を細める姿、かつお節に突撃して毛にくっつけたまま転がる彼の姿――
どれも、かわいすぎて編集中に何度も笑ってしまった。
「うん、これはもう、アップするしかないよね……!」
その夜、私は編集した動画をアップした。
サムネは、かつお節まみれでお腹を見せて寝転ぶもち。タイトルはこうした。
『【食レポ猫】ちゅ~る5種×高級おやつ×天然かつお節。猫様が全部忖度なしでレビューしたらこうなった』
アップして数分で、コメントがぽつぽつ付き始めた。
*「もちくん、舌が肥えてそうw」
*「サーモンバターって人間も食べたいんだけど」
*「最後のフレーク、吹いたwww」
*「もちくん真剣すぎて草」
再生数が、じわりじわりと伸びていく。
スマホを手に、私はぽそっとつぶやいた。
「もち……あんた、もしかして……ほんとにスターになれるかもね」
振り返ると、ソファの上で、かつお節をくっつけたまま寝息を立てているもちがいた。
ふにゃっとした寝顔が、なんだかちょっと誇らしげだった。
――そして、夜が更けて――
ご主人が編集を終えたその夜、吾輩はふわふわの夢を見た。
大広間のちゃぶ台に並ぶ、果てしないおやつたち。
「もち様、どうぞ」「もち様、ぜひこちらも」
下僕(?)の人間たちに囲まれて、吾輩は悠々と味見を続ける。
――これは、もはや王の食卓である。
にゃふふ、吾輩は猫界のグルメ王として、世界に名を馳せるのだ……。
次回、第35話「もち、思わぬ“拡散”の波に乗る」に続く!




