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完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


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第32話:もち、突発ライブ配信に降臨する

 夜のアパートに、微かな電子音が響いた。


「……え? な、なんでライブ始まってるの……?」


 スマホ片手に真顔になるみのり。彼女の膝の上では、吾輩――猫の「もち」がご機嫌に毛づくろいをしていた。が、目の前に差し出された画面には、見覚えのある光景が。


 そう、自室。

 しかも、ちょっとだけ散らかった、生活感たっぷりのリビング。そして……中央で毛玉と戯れる吾輩の姿。


「……ライブ、ってこれ、配信してるのか? なぜ?」


 事の発端は、たわいない“ポチっ”だった。


 みのりは最近、YouTubeで猫動画を投稿していた。理由は簡単。

 会社の給料では生活がカツカツすぎて、趣味の延長で“もちの日常”をアップしていたら、ある日たまたまバズったのである。


「初投稿、もちが鏡の前で自分とケンカするやつね……あれが30万再生とか信じられん……」


 以来、こっそり動画編集にも手を出し、ちゅ~るのために己の時間を削る日々。機材はスマホと100均のスタンド。照明代わりのスタンドライトも、電球がたまにチカチカするご愛敬仕様である。


 だが、今日はそのスタンドが倒れた拍子に、スマホのサイドボタンが押され、YouTubeアプリが開き、ライブ配信の“開始”ボタンが押され……。


「事故じゃん!!」


 みのりは頭を抱えた。だがその一方、配信画面には続々と視聴者が集まってきていた。


《え、なにこれ可愛すぎ》


《これライブ?まじ?》《やばい、寝れないじゃん…!》


 チャット欄が爆速で流れていく。

 画面の中では、何も知らない吾輩がのんびりとクッションに顔をうずめ、前足でぴょいっと毛玉ボールを放っている。


「にゃあ。(……何やら視線を感じるが?)」


 吾輩はピクッと耳を動かした。

 なぜだ、なぜか背中がぞわぞわする。もしかして、ご主人様がちゅ~るをこっそり食しているのでは――!


「もちぃ……頼むからもう少し、可愛くして……!」


「にゃっ。(吾輩は常に可愛いが?)」


 パタン。


 突然、吾輩は転がり、腹を出してヘソ天になる。おまけにちょこんと伸びをして、片足をピーン。


《ぐはああ》《この腹見て今日の疲れ全部飛んだ》《これがヘソ天か…》《もちたん女神》


 コメント欄がもはや宗教の域に達していた。みのりはスマホを震える手で持ちながら、内心で戦慄していた。


(何、この数字……! 視聴者、千人超えてる!? ちゅ~る何本買えるの!?)

「ありがとうございます!」

 最初は戸惑っていたみたいだけど、時々だけど投げ銭もされて、それだけで数千円になるとみのりが騒いでいた。


 そしてついに――事件は起こった。


 吾輩がぴょこんと起き上がり、カメラに興味を持ったらしい。するりと膝から抜け、スタスタとスマホスタンドに接近。

 鼻先でつん、とレンズに触れる。


「もちぃ、やめて! 近い! 映像が!」


《鼻アップ草》《ちょww 可愛すぎて死ぬww》《鼻息入った》《ASMRすぎてしんどい》


 ご主人の絶叫も空しく、スマホはズリっと落ち、画面は真っ黒に。そして次の瞬間、角度が変わり、みのりの足元――そしてすっぴん部屋着姿が画面にばっちり映り込んだ。


「ギャーーー!!!!!」


 ライブ終了。


……その後、削除されたライブ映像は、数分の間に画面録画され、ファンによって切り抜きが作られ、もち様の深夜のふわふわ襲来”としてバズることとなる。


「……いやほんと、事故だったんだけど……」


「にゃあ。(ちゅ~るは増えたか?)」


「まあ……増えたけども……!」


 翌朝。


 みのりはコンビニで“贅沢ちゅ~る”を買い、もちの器に慎重に盛った。

 その背中を撫でながら、ポツリと呟いた。


「……ありがとうね、もち。あんたのおかげで、ちょっとだけ前向ける気がする」


「にゃ。(それなら吾輩、誇らしい)」


 吾輩はぺろぺろとちゅ~るを舐めながら、思った。


――ご主人様が笑うなら、吾輩はどんな顔芸でもやってやるぞ。


 そう、これはまだ序章にすぎぬ。

 これから始まるのは――“もち様伝説”なのだから。


 次回、第33話:もち、謎の視聴者プレゼントに困惑する に続く。



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