第四章 第31話:みのり、趣味で始めた猫動画投稿にハマる
吾輩は猫である。名前はもち。最近、ご主人様が妙にソワソワしておる。
「……うーん、今月もやばいな……」
そう言って、ご主人様──みのり殿は、部屋の隅っこでうずくまっていた。
彼女の目の前には、家計簿アプリが開かれたスマホ。
どうやらまた“金欠”とやららしい。人間とは、なぜいつも小銭に追われているのか。
カリカリさえ確保されておれば、吾輩には理解不能である。
その日、みのり殿は何かを決意したように、スマホを片手に吾輩の寝顔を撮影した。
「……まあ、可愛いから……載せてみよっかな」
そうしてSNSに投稿された一枚の写真。
そこにはキャットタワーのてっぺんで香箱座りを決める吾輩の姿があった。
ちょっと気取った横顔、しっぽはくるんと前足に巻いて、まさに「高貴なる猫」の称号にふさわしい画である。
そして──翌朝。
「え? えええええ!? なにこれ、通知えぐっ!?」
スマホ片手に叫ぶご主人。
見れば、画面には「いいね」や「フォロー」の嵐。
中には「哲学猫」「圧がすごい」「人間を見下している目が好き」などのコメントも。
吾輩は単に寝ていただけなのだが、世の中とは面白いものである。
「もち、すごいよ……これ、バズってるってやつじゃない!?」
そこからというもの、みのり殿は吾輩を毎日のように撮影し始めた。
スマホで、時には100均で買ってきた三脚で。
ご飯の時間、昼寝の時間、たまにトイレのあとで猛ダッシュする姿までも。
最初は写真ばかりだった。
が、ある日──。
「動画……やってみようかな。映えるし、思い出にもなるし……」
その軽いノリが、まさかあれほどの事態を招くとは。吾輩、予想もしておらなんだ。
──みのり視点。
最初はただの思いつきだった。
SNSにアップしたもちの写真が、思いがけずバズって。
普段は数十いいねつくかどうかのアカウントに、突然数千の通知。コメント欄は「もち様~」「見下されたい」「この猫、悟ってる」などで埋まっていて。
“推し”ってこうやって生まれるんだな、と、よく分からない感慨に包まれた。
「それにしても……広告収入、って……ほんとにあるんだ」
動画サイトの説明を読んで、思った。
YouTubeやTikTokで猫が人気なのは知ってたけど、それは“選ばれし猫”だけだと思ってた。
うちのもちが、まさかそんな可能性を持っていたなんて。
しかも、今の私にはその一縷の望みにすがりたい理由がある。
……そう、家計が、本気でやばい。
会社の給料だけじゃ、生活がまるで回らない。何も贅沢してないのに、毎月赤字。もちのエサ代とトイレ砂だけは死守してるけど、私の食費はもうパン耳と冷凍うどんで回してる。
「もし、もちの動画で少しでも収入が入るなら……いや、そもそも趣味としてやってみたかったし……!」
自分を励ますように、そう呟いた。
初めて編集アプリを開いて、試行錯誤で動画を切ったり貼ったり。BGMをつけて、字幕を入れて、ちょっとした“もちの日常”をアップロードしてみた。
タイトルは『キャットタワーから滑り落ちた猫、最後の顔が悟りすぎてる件について』
結果──これが、まさかのヒットだった。
再生数1万超え。
コメント多数。「何回も見てる」「猫って、落ちた後も尊厳あるのすごい」「最後の目で人類滅ぼせそう」……褒めてるのか分からないけど、とにかく伸びた。
「も、もち……私、動画投稿、もうちょっと本気でやってみようかな……!」
吾輩はというと、最近は「カメラ目線のタイミング」「眠そうな顔の演出」「ごろーんの速度調整」など、撮影に協力的である。カリカリとちゅ~るの量に明らかな違いが出てきたからだ。
「もち様、今日も最高です……!」
そう言ってご主人がうるうるしながらなでてくれる。それだけで、吾輩はこの小さな六畳一間のアパートが、どこよりも温かい場所に感じるのだ。
撮影は時に失敗する。吾輩がくしゃみしたり、急にカメラに突進したり。だがご主人は笑いながら、「これもネタになるかも」と言って編集アプリに向かう。
「もちがいてくれるから、私……ちょっと前向きになれてるかも」
小さく呟いたその言葉に、吾輩は尻尾をふわりと振った。
――吾輩たちの冒険は、まだ始まったばかりである。




