第30話:もち、ちゅ〜るの夢を見る
吾輩は猫である。名はもち。
もふもち界のエリートにして、六畳一間の王――そう、ここが吾輩の城である。
さて、その夜は少々特別であった。というのも、ご主人が帰宅するなりスーパーの袋から「ちゅ~る(まぐろ味・高級ver.)」を取り出したのである!
「もち~、今日は特別バージョンだよ~。いつもより高いの買っちゃった~♪」
高いだと!? つまり、うまい!ということであるな!
「にゃにゃ!(はやく開けるがよい!)」
吾輩の瞳孔はMAX拡張。しっぽは無駄にぴんぴん、興奮度はもはや臨界点を突破していた。ちゅ~る、ちゅ~る、ちゅ~る……この言葉だけで脳がバグるのは、猫の宿命である。
ぷしゅっという封を切る音。
その瞬間、吾輩の全細胞が「今だ!」と叫んだ。
「うにゃーーーーーっ!!」
スライディングで駆け寄り、ご主人の手からちゅ~るを奪い取りそうな勢いで舐めまくる吾輩。上品さなど捨てた。
今、目の前にあるのは“神の液体”なのだ。
ペロペロペロ……。
「うま……尊い……これが課金味……」
おそらく10秒ほどで一本完食した。だが、もっと、もっと舐めたい。ご主人が袋の奥をゴソゴソし始めたが――
「あ、ごめん、もうこれしか買ってなかった~」
なに!?それだけ!?!?
「にゃにゃにゃにゃにゃあああ!(出せ!追加を出せぇぇぇぇ!)」
だがご主人は笑っておる。にこにこと、顔の横で手を振っておる。何という無慈悲な笑顔だ。
その夜、吾輩はちゅ~る欲に駆られたまま布団に沈み……――夢を見た。
◆
夢の中――そこはちゅ~るの楽園であった。
空はピンク色に染まり、雲はちゅ~る。地面も、建物も、すべてちゅ~るでできている。猫たちが裸で(というかいつも裸だが)歓喜の舞を踊っていた。
「ちゅ~るだー!!」
「舐め放題だー!!」
吾輩は感極まって涙を流す。横ではにゃんた先輩(天国の先輩猫)が笑って手招きしていた。
「ようこそもち、ここが“天ちゅ~る界”だ」
「せ、先輩!ここは……?」
「24時間365日、好きな味を選び放題。寝ても覚めても無限ちゅ~るの地。誰にも止められない舐めライフ、開幕だぞ」
バァーーン!!
山盛りのちゅ~るが噴水のように溢れ出す。まぐろ、かつお、ささみ、黒毛和牛味、金箔ちゅ~る(!?)……世界のちゅ~るが揃っていた。
「にゃああああ!!ここが楽園かーーーっ!!」
吾輩はダイブした。顔面からちゅ~るの泉に突っ込む。そして全身でスライディング。背中で泳ぎ、横っ腹でバタフライ。ご主人もなぜか水着姿で登場し、ちゅ~るを銛のように投げてくる。
「もち~、食べて~っ!」
「我輩のためにありがとうううう!!」
たらふく舐めた吾輩は、ちゅ~るの山の上で丸くなる。ああ、これが永遠ならよいのに……。
◆
「も~ち~……よだれ、すごいよ……」
目が覚めたら、ご主人が枕元でびっくりしていた。
吾輩は口元をくちゃくちゃさせながら寝言を言っていたらしい。
「にゃっ……? ちゅ~……ちゅ~……」
「完全に夢の中でちゅ~る舐めてたでしょ?枕、ベチャベチャなんだけど~!あははは!」
「……うにゃ(夢か……)」
夢だったのだ。あの天ちゅ~る界も、先輩の笑顔も、ご主人の水着姿もちゅ~るの噴水も――。
だが、悪くない夢だった。
きっと、また見られる。
いや、今夜こそ再入国してみせようぞ、ちゅ~るの国へ。
吾輩はぺろりと唇を舐め、ご主人の顔を見上げる。
「にゃあ!(そろそろ、現実のちゅ~るをくれてもよいのでは?)」
「……え?また? もち、食べすぎるとおなか壊すでしょ~!」
「にゃおーん!(我輩の腹はちゅ~るのために存在するのだ!!)」
◆
かくして、吾輩の“ちゅ~る探求の旅”はまだまだ終わらぬ。
それは夢と現実を行き来する、味覚の大冒険である。




