第29話:もち、布団乾燥機と対峙する
吾輩は猫である。名はもち。
もふもふで、しっとりもちもちで、ほんのり温かい。それが吾輩の通常モード。だが今夜は違った。吾輩のテリトリーに、得体の知れぬ“熱の怪物”が襲来したのである。
事件は突然だった。
休日の昼下がり。
ご主人・みのりが布団を干すでもなく、なにやら押入れの奥をごそごそ漁っていた。鼻歌まじりで、実に機嫌がよい。
「ふふふっ、今日はこれ使っちゃお~っと♪」
そして取り出されたのは、白くて四角くて、見た目は大したことなさそうな箱型の物体。だが、吾輩は一目で悟った。
「……これは、何かを“温める”機械であるな?」
そう。吾輩の猫センサーがビリビリと警告音を鳴らす。その白い物体――“布団乾燥機”とやらは、明らかに“ぬくもり”の領域を荒らす存在。
「にゃん?(それ、どこに使うのだね?)」
「えへへ、今日はもちが寝てるお布団、ふかふかにしちゃうんだから~!」
「……ふかふか、だと?」
悪くないワードである。が、経験上、ふかふか計画には得てして危険が伴う。吾輩の本能が、ただならぬ何かを察知していた。
◆
しばらくして――ご主人がコンセントを差し込むと、“怪物”が目を覚ました。
ブオオオオオオオォォォォン……!
「にゃあああああ!?(な、なんだその音は!?)」
思わずタワーの上から飛び上がった。布団の中から、爆風のような熱気が渦を巻いて噴き出しているではないか!
「風だ!熱風だ!布団が!布団が浮いておる!!」
まるで一種の魔法陣のように、布団がぷくーっと膨らみ、怪しい波打ちを見せ始める。その中心から、布団乾燥機がゴゴゴゴゴ……と唸り声を上げていた。
吾輩は、直感した。
「これは……我が安息の地への侵略行為である」
◆
布団は、吾輩にとって聖域だ。
昼寝スポット、夜の陣地、そして“ご主人のおなかの上から移動したくない場所ランキング堂々一位”の座に君臨する、神聖なるフカフカの楽園。
それを――温める?いや、侵略する?破裂しそうな音まで出して?
許されざる蛮行である。
「にゃにゃにゃにゃあ!(不穏の風、断じて認めぬぞ!)」
吾輩はついに立ち上がった。今こそ、もち戦隊キャプテンの威信にかけて、布団を守る時である!
まずは偵察。布団の端にそろ~り近づき、そっと肉球で布団をぽふぽふ。
「うおおぉ!?熱っ!?何このぬる~くて強風な感触!」
布団の中から吹き出す温風に、一瞬たじろぐ吾輩。
が、ここで退いてはただの猫である。
「よし……ここが勝負のとき!」
勇気を振り絞り、膨れ上がった布団の山に飛び乗る!
ぶよん!と柔らかく沈み――
「……にゃっ、ちょっと……これは……気持ち……」
温かい。
なんということだ。
敵だと思っていた布団乾燥機は、案外いいやつだったのかもしれぬ。
布団の中はまるでコタツ。熱すぎず、蒸れすぎず、まるで天国の雲の上にでもいるかのようだ。
「こ、これは……反則級のぬくもり……!」
布団の中に頭を突っ込む。ごぉぉぉ……という音がむしろ心地よく、耳がぺたんとなる。肉球が温まり、背中がとろけそう。
「にゃふ……むにゃ……(許す……布団乾燥機、貴様は敵ではなかった……)」
ついに――
そのまま寝落ちた。
◆
「えっ、もち……布団の中で寝てる!?すごっ、そこめっちゃ熱いのに~~!」
30分後、ご主人に布団をめくられたとき、吾輩は見事に脱力状態。全身ふにゃふにゃ、目はとろん。夢の中では、巨大ちゅ~るに抱きついていた。
「ぬくもり……それは、真の幸福……」
その日以来、吾輩は布団乾燥機の稼働音が聞こえるたびに、小走りで布団に突っ込むようになったという。
かくして、吾輩と“熱の怪物”の戦いは――
予想外にも、共存という形で終結を迎えたのであった。
次回、第30話:もち、ちゅ~るの夢を見る に続く。




