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完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


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第28話:もち、お風呂場にて哲学する

 吾輩は猫である。名はもち。

 柔らかく、丸く、若干もっちりしているが、その見た目に惑わされてはならぬ。吾輩は日々、家の防衛、異音の調査、そしてご主人のみのりの癒やしを担う、多忙なる猫である。


 だが――たまには、そんな吾輩にも「考える時間」が必要なのだ。


 それはある静かな夜のことだった。


「は~~……疲れた~……」

 仕事から帰ってきたご主人が、ため息まじりに呟く。


「もっちー、お風呂だけ入って寝るからね~、ちょっと待っててね~」


「にゃ(ふむ、了解である)」


 いつも通り、吾輩はベッドの上で丸くなり、ご主人の出てくる気配を待っていた。が。


――5分後。


「……うむ。気になる……」


 いつもならすぐに湯の中から「ふわ~」とか「溶けそう~」とかいう間の抜けた声が聞こえるはずなのだが、今夜は妙に静かだ。


「……まさか、風呂で溶けたのでは……?」


 好奇心と心配が入り混じり、吾輩はそろりと浴室へ向かった。


 扉は、わずかに開いていた。



「にゃ……(失礼する)」


 そっと風呂場に入ると――


 そこには湯船に半分沈んだみのりが、まるで打ち上げられたクラゲのように浮かんでいた。


「……人生って、なんだろうねぇ……」


 吾輩は思った。


「……なんだそのポーズと台詞は」


 ご主人はただ湯に浸かっているだけなのに、何か壮大な宇宙の理に触れているような顔をしていた。まさか、湯気の中に答えを見出したのか?


 いや、それより。


「ふにゃっ!(熱気!むわむわ!この空間、空気がもふもふしとる!!)」


 吾輩は思わず洗面器の中へ避難。陶器の上が唯一の涼地。が、そこから見る風呂場の天井は――どこまでも高く見えた。


「……この場所、何かが違う」


 いつもの六畳間とは違う空気。足元は水、壁はつるつる、匂いはラベンダー。


「ここは一体、どんな世界なのだ……?」


 そう、風呂場とは異界である。


 普段は締め切られており、入り口の前には“びちゃびちゃバリア”が張られている。油断して突入すると、肉球が濡れる。あれは罠だ。


 だが、今日の吾輩は違った。


 洗面器から静かに這い出ると、そろりそろりとバスマットの上を歩く。


(哲学モード発動)


「吾輩は、なぜ猫なのだろうか」


「なぜ、カリカリはいつも同じ味なのか」


「なぜ、ご主人は風呂に入ると、あんなにも無防備になるのか」


……風呂場の魔力とは、かくも思考を深くするのか。


「もっちー、来てたの? あはは、洗面器でうずくまって……かわいい~」


 不意に声をかけられ、思索が中断される。


「ふにゃっ!(集中してたのに!)」


 だが、ご主人の笑顔を見ると、なんとなく全てがどうでもよくなる。さきほどまでの哲学モードも、どこかへ蒸発してしまった。


 そう、人生とはきっと――


「ぬるま湯のように、ちょうどよくて、何もしなくても満たされる時がある」


……のである。


 吾輩は、湯気で少しふくらんだ毛並みをぺろぺろと舐め直す。


 ご主人が風呂から上がると、吾輩もすっと追いかけ、いつもの場所――ベッドのど真ん中に陣取る。


「ちょっともち、それ私の場所~!」


「にゃっ(ここは哲学猫の指定席である)」


 その夜、吾輩は夢の中で宇宙の真理に触れた。カリカリの粒がなぜ丸いのか、人類がなぜ猫を崇めるのか――そんなことが分かった気がしたのだ。


 でも、朝にはすっかり忘れていた。


 それでよいのである。猫とはそういう生き物なのだから。


 次回、第29話:もち、布団乾燥機と対峙する に続く。









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