第25話:もち、深夜の運動会を主催する
吾輩は猫である。
名はもち。
昼は惰眠、夜は狩猟――それが猫界における不文律である。
ましてや吾輩のような野生の本能を宿した都会派マンション猫ともなれば、深夜の活動はもはや「文化」と言って差し支えない。
そして今宵――
「大会、開催である!」
満月が窓から覗く夜十一時。みのりが電気を消して「おやすみ~」と布団にもぐりこむのを確認した吾輩は、そっと起き上がった。
静寂な闇。気配を消した床。うずく足。ざわめく魂。
そう、時は満ちたのだ。
「第1回・もち杯深夜大運動会!ただいま、開幕なり~~!」
◆
【第1種目:フローリングスライディング選手権】
助走!
加速!
ジャンプからの滑り込みッ!!
「にゃぁああああああああ!!」
ズザザザザザァァァァーーーー!!
肉球で床を蹴り、ソファの陰からテレビ台まで一直線。
フローリングに響く華麗なるスライド。滑走音が夜の静寂を切り裂く。
「ちょ、ま……!? もち!? なにごと!?」
寝室からご主人様・みのりの寝ぼけ声が聞こえる。
ふふん、まだ始まったばかりだ。
「にゃふ(ふふふ、今宵の主役は吾輩である!)」
◆
【第2種目:ダンボール障害物レース】
吾輩の愛すべき“もち城”――すなわち前話で建設されたダンボールハウスをスタート地点とし、トイレ前に置かれた観葉植物、洗濯かご、キャットタワーを経由してベッド下にゴール!
「ヨーイ……にゃっ!!」
ぐるるるるるるるるる!!
爪を出し、床をけり、植物の鉢を華麗にジャンプ! 洗濯かごにぶつかってガッシャーン!!
「えっ!? なに!? 地震!? ……もちか……もちだな……」
布団から顔を出すみのり。
寝ぼけ顔でこちらを見るが、まだ本気じゃない様子。よし、続行!
吾輩はベッド下へと滑り込み、見えない敵を追いかけるふりをして布の山をぐるぐる走る。
「にゃああああああああああ!!(追ってるのだ!追われてるのだ!知らんが!)」
こ うして第二種目も堂々の完走である!
◆
【第3種目:トイレットペーパー解体演舞】
「ふむ、あのトイレットペーパー。あれこそ吾輩の獲物……」
トイレのドアが少しだけ開いている。みのりのうっかりに感謝である。こっそり入り込み、くるくると巻かれた紙をにらむ。
そして――
「たぁぁぁぁぁーーーっっ!!!」
がしゃっ。バリバリバリッ!
左右の前足を使った華麗なる“両手ほぐし”により、白い紙が空中を舞う。
床に舞い散る白銀の雪。吾輩、無我の境地。
その瞬間――
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
バンッ!!!
寝室のドアが開き、みのりが鬼の形相で登場!
「なんで毎回トイレットペーパーやるの!? 何が楽しいの!? 君は雪男なの!? 北極の生き物なの!?」
「にゃああああああん!(祭りである!!)」
わちゃわちゃわちゃ。捕まる前に猛ダッシュ!
◆
【最終種目:みのり vs もち 追いかけっこ(罰ゲームつき)】
みのりはスリッパ片足、パジャマのズボンは片足めくれ、髪はぼさぼさ。
一方吾輩は、完全無傷。スタミナ満点。しっぽもピン。
「もちぃぃぃぃぃいい! 寝かせてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「にゃっはっはっはっは(捕まえてみたまえーっ!)」
廊下を疾走。
布団の下に潜り込んで、ぴょんと飛び出す。ご主人が手を伸ばすが、紙一重で逃げる!
「もう!ほんと夜になると急に別猫になるのやめてぇぇえぇぇ!」
「にゃふふふふふ(深夜こそ吾輩の舞台である!!)」
◆
しかし、運命の時は訪れる。
午前1時30分。とうとう電池が切れた吾輩は、廊下でバッタリ。
「……ぺたり(すぴー)」
お腹を見せて熟睡態勢。
その姿を見て、みのりはほっとため息をつき、やれやれと頭をなでてきた。
「ほんと、暴れん坊将軍だよ……でもかわいいから許す……」
布団に戻ったみのりの腕の中で、吾輩はとろとろ眠りに落ちる。
「ふにゃ……今日の大会……たいへん成功で……あった……」
◆
朝。
リビングにはトイレットペーパーの雪原。
ダンボールは角が削れ、観葉植物はちょっぴり傾いていた。
寝不足顔のみのりと、天使の寝顔のもち。
「もち、今日から夜は静かにね? 夜は寝るものだからね?」
「にゃふ(検討しておこう)」
◆
こうして、第一回大会は大団円で幕を閉じた。
次回開催予定――未定(ただし、予告なしで突発開催の可能性大)。
次回、第26話:もち、ミステリーゾーン「冷蔵庫裏」に潜入する に続く。




