表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結 吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/101

第三章 第21話:もち、はじめてのベランダ探検

 吾輩は猫である。名前は「もち」である。

 晴れて“家族”という称号を手に入れてからというもの、吾輩の暮らしはますます安定してきた。

 カリカリは定刻に出てくるし、ちゅ~るは芸をせずとも献上される。布団は暖かく、日差しはぬくぬく、ご主人様の足の指も格好の遊び道具である。


 だが、まだ足を踏み入れていない未開の地があった。


「ベランダ」である。


 そこは、透明なガラスの向こうに広がる未知の世界。

 カーテンの隙間から吹き込む風、鳥のさえずり、まぶしい光――まさに“外界”そのものである。


 吾輩はかつて、その領域に鼻先を近づけたことがあった。

 だが、網戸という結界に阻まれ、それ以上先には進めなかった。つまり、ここは人間だけが踏み入ることのできる“禁断の庭”だったのだ。


――と、そこへ事件は起きた。


「もち~、今日ベランダ行ってみる?」


 ご主人様の軽いひとこと。

 それは天変地異の始まりであった。


 吾輩は耳をピクリと動かしながら、ふて寝で抗議する。だが、ご主人様はまったく動じない。扉を開け、風通しをよくし、念入りに雑巾で床を拭き始めた。


「もちが歩くとこだからね、ちゃんとキレイにしないと♪」


 なんたる用意周到!これは完全に本気である。


 やがて扉が完全に開かれた。冷たい風が頬を撫で、草とコンクリートと人間の生活臭が混ざった匂いが吾輩の鼻孔を直撃した。


「にゃ……(これは……冒険の匂い!)」


 気づけば、吾輩の足は一歩、また一歩とベランダへ。

 肉球に伝わる冷たいコンクリートの感触。目を細め、風に毛を撫でられる感覚は悪くない。

 むしろ、ちょっと気持ちいいかもしれぬ。


「おお~!もち出た!えらいえらい!」


 後ろでご主人様が拍手している。その音に驚き、一瞬ぴょんと跳ねる吾輩。落ち着かねば。


 周囲を観察してみると、洗濯物が風でぱたぱたと揺れていた。と、その瞬間――


「にゃ゛あっ!?」


 白いYシャツが突如として吾輩の顔面にヒット。不意打ちである!


 慌ててジャンプ!着地!と思いきや、洗濯バサミを破壊してシャツを引きずり落としてしまった。


「もおおおおちぃいいい~~~!Yシャツがあああ!!」


 ご主人様の悲鳴が飛ぶ。しかし、吾輩に過失はない。これは、風と布の連携プレイによる事故である。断じて吾輩の責任ではない。


 と、その時――


 ぷぃぃぃ~~ん。


 黒くて小さな、あの生き物が飛んできた。

 虫である。


「にゃにゃっ!?(ほう……敵であるな!?)」


 背中を丸め、尻尾をぷるぷるさせ、眼光鋭くターゲットをロックオン。いざ、猫のプライドをかけた狩りの時間である!


「も、もち!?それやめ……あー!!」


 ご主人様の声も聞こえぬまま、吾輩はベランダを駆け抜け、ジャンプ!見事な空中ターン!しかし、虫は逃げ、代わりにご主人様の干していた靴下が犠牲となった。


「……もうダメだ、洗濯物全滅だ……」


 ご主人様がしゃがみこんで項垂れる。ああ……さすがに今回はちょっとやりすぎたかもしれぬ。


 そろ~っと近づき、ぺたりと足元に座る吾輩。


「にゃ……(ごめんである……)」

「……ぷっ、もちぃ、びっくりしたね……でも、頑張ったね」


 ご主人様は笑ってくれた。

 怒っていないようだ。頭を撫でてくれる手は、やっぱりやさしくて、あったかい。


 部屋に戻り、いつもの窓辺に戻った吾輩。風のにおい、鳥の声、コンクリートの感触――確かに外には刺激があった。だが、吾輩の帰る場所は、やはりこの部屋。あの手がある場所だ。


「にゃ(家こそ、吾輩の城である)」


 ご主人様の足元に丸まり、ふわっとした幸せの中で、吾輩は再び夢の世界へと旅立ったのである。


 次回、第22話:もち、ベッドの主と化す に続く。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ