村長と交渉?
「…本当にこの近郊で間違いないのか?」
私達一向はブラッドリー伯爵領に位置する片田舎…ノクゼンハープという村の宿にいました。
のんびりとした時間が過ぎそうな…のどかな村です
馬車で行くと4日
転移魔法で3秒…
なんて便利な魔法なのでしょうか
あまりにも使い勝手のいい魔法なので…騎士団基準の魔法に採用したいと思ったんですが…
そもそも光属性の適正を持っている方か、オリヴィエさんの様に高レベルの魔術師じゃないと使えないみたいです
トレースでも真似できないそうです…残念
「この村の外れに…昔使われていた要塞があるんよー、そこの地下牢にあれはいるよ」
「お前くらいの歳の頃に聞いたことがあるな、ここら辺は昔、前哨基地が沢山あったらしい」
お母様の故郷は昔、前線だったみたいですね
戦争関連の廃墟が村の至るところに放棄されていました
「ガキじゃねーよ!あれのせいで永遠に15から10歳を行き来してるだけだって言ってるだろうがっ!」
オリヴィエさんはクレイお兄様の脛を思いっきり蹴りました
あれは凄く痛そう…何か戦闘で使えそうですね
「兄さん達、見ない顔だね!このノクゼンハープに来るなんて…変わり者だなぁ」
宿に併設されている酒場の立ち飲み用の丸テーブルに地図を広げ
4人で囲んでいる光景に違和感を感じたのか、
宿屋で受付をしている男性に声をかけられました
「あぁ…すまない、怪しい者じゃないんだ」
エリックお兄様は騎士団に所属している証である、コインネックレスを受付の男性に見せました
すると…たちまち周囲が騒ぎ始めます
「騎士様か!それは失礼しました!どうぞどうぞ!こんな田舎ですがゆっくり寛いでいってください!」
地方での騎士団の印象はかなり尊敬されていて、騎士と分かれば厚遇していただけます
あまり待遇の差が出るのは快く思えないのですが…怪しまれるよりはいいという判断でお兄様は身分を明かしました
「ずいぶんと地方なのに村人が若いな…」
「そりゃ~…この村の住人は時間が止まっちまうんですよ、俺はもうすぐ60歳になるんですが、未だ35の成りでね…死ねないんですよ」
時空の魔女が残した呪い…なのでしょうか
近郊の村でも、こういった影響が出ていました
「村長と話がしたい…案内できないか?」
「…村長は私だが?」
店の奥から現れた大柄の男性が私達を睨み付けながら答えました
「私はスノール・ライド…騎士団の者だ」
これはエリックお兄様の偽名です
代表であるお兄様が偽名を使うのは、今回の任務が極秘で行われる事を指しています
ここは田舎とはいえブラッドリー伯爵領なので、安易に家名を名乗る事ができません
…実はお母様とブラッドリー伯爵家は絶縁状態にあり、名乗ると余計なトラブルが発生するからです
「そうかい…俺はトルクヘッド・バックラー、ノクゼンハープの村長だ…おいカティー!俺はお客さんを相手するから店番を任せた!」
バルクヘッドの次はトルクヘッドですか…
次は一体何ヘッド?
若い女性の返事を聞いたトルクヘッドさんはエプロンを外し、私達に声をかける
「こっちだ…ついてこい」
トルクヘッドさんは、宿の奥に私達を案内します
…
案内された部屋はちゃんとした応接室で、私達4人も座れる幅広なソファーが対面して備え付けられていました
「掛けて待ってろ」
言われるがまま、私達はソファーに座って大人しく待っていると
宿の従業員の男性が、人数分のお茶を出し…退室していきました
その後すぐにトルクヘッドさんが来ました
「…待たせたな」
先ほどの宿屋の亭主の身なりから、ご立派な騎士服に着替え…対面するソファーに腰を掛けました
「お久しぶりでございます…トルクヘッド総長」
「退役騎士だ…トルクヘッドと呼べ」
元騎士団総長…トルクヘッド・バックラー
私が騎士団に入団する前年に退役した方です
全然面識もありませんでした…初めてお会いします…
バルクヘッドと一緒にしてすいませんでした!
「それで…騎士団総長が来るとは…何事だ?」
「我々個人に来た依頼です」
「ふむ…なるほど、時空の魔女か」
エリックお兄様はピクリと眉間を一瞬…動かしますが、何も言わず黙っていました
トルクヘッドさんは、その様子を見て話続けます
「時空の魔女…マリー・ブラッドリー、お前の親族の者だ…そして、王国もオルグス正教にさえ報告されていない危険人物、何者かによって封印されているが…排除する手段がない」
「…よくご存知ですね」
「当然だ…故郷の排除を何度試みたか」
トルクヘッドさんは時空の魔女と何度か戦っているご様子でした
…故郷だったんですね
「で…ここに来たということは決定打があるんだろ?魔術師?」
「確信を持ってこの地に来たのさ!」
トルクヘッドさんに、あの作戦をざっと説明するオリヴィエさんは…すごく自信満々でした
ですが…トルクヘッドさんはこの作戦に意見を言いました
「あれは時空を歪めて移動し攻撃してくる…この作戦では撃破は不可能だ」
「はぁ!?チビガキお前っ!動き回るならあの作戦無理じゃねえか!!やっぱ頼った俺がバカだった!」
クレイお兄様が怒りの余り、オリヴィエさんの頬を引っ張り回しています
「いひ…いひゃいいひゃいいひゃい!」
あっけなく計画が綻んでしまい、振り出しに戻りました…
…まだ戦闘の時点で相手の能力が判明して良かったです
「だが!…プロテクションによるシールドと…我輩のシールドで挟んでしまえばあの厄介な動きは封じ込める…その作戦、不可能ではないぞ!」
その言葉を聞き…私ははっと閃きました
私のプロテクション…実は複数枚シールドを生成できる優れものです
「いいえ…トルクヘッド様、私が複数プロテクションを出せば…挟み込めるのですよね?」
「あ…あぁ…だが、そんなことはできん!プロテクションで生成されるシールドは1枚が限界、2枚も作ると制御は不可能!故に複数枚は不可能だ」
…ならばお見せ致しましょう
私が編み出した…無駄になりそうで無駄じゃなくなった複数枚シールドを…!
私はスッと立ち上がり…右手を前にかざして唱えます
「光の使者よ…我に防御の力を授けよ…!いでよ…6連プロテクション!」
…なんということでしょう!
私の前には6枚全て重なった状態で光の盾が出現しました
うーん… これでは見にくいですね
私はその6枚重なったプロテクションのうち…1枚を引き抜き
トルクヘッドさんに見せるように差し出しました
「わかったわかった…魔術師、魔法に触れる事は可能なのか?」
「無理でしょ…初めて見たよあんなの…何やったんよ…」
「重なった紙の間から取るようにシールドを取ったぞ?あれ…」
「ハハハ…凄いよアイリス!そんな芸当は僕もできないよ」
4人それぞれの反応が見れて嬉しいです
プロテクションを解除して、光のシールドが消えるのを見送った後
私は着座しました
「いかがでしたか?これで…行けますよね?」
「あぁ…好きにやってくれて構わん…」
トルクヘッドさんに、時空の魔女を討伐する許可はいただきました!
私達は早速、お暇させていただき…
時空の魔女を倒しに行きます!




