四十三
「でも、どうして取り違えなんて思いついたの? そのガブリエラさんとアーシアはそもそもどうやってお知り合いになったの?」
「あー、それなんだけど。知り合ったのは学園のお茶会に彼女が招かれていて、向うから話しかけられたのよ。彼女はプリムラ学園の生徒会の一員で招かれていたようね」
私が病気で死にかけたとき日本でやってた乙女ゲームの『ゆるハー』という世界に良く似ていることを思い出して、彼女がそのゲームのヒロインだったなんて言える訳ない。
「そうですの。でもどうやって、ガブリエラさんは知ったのかしら?」
「さあ、それは、その……」
何故だか、さっきまで頬を染めてご機嫌だったジョーゼットが今度は頬を膨らませてご機嫌斜めになったのよ。可愛いけど。
「えっとその……」
「もう、知りませんわ。アーシアったら。私が一番のお友達と思っていましたのに」
「あ、ごめんなさい。その説明が難しくて……。や、一番のお友達は勿論ジョーゼットだから! ガブちゃんはその……」
私は何か誤解されてると思い低姿勢で謝るとジョーゼットは機嫌を直した。でも何だか、妻に不貞を疑われる夫のような気がするのは私だけよね……。
「いつかお話してくださるわね?」
小首を傾げて強請られると私は肯くしかなかった。でも絶対頭がおかしくなったと思われるに違いないわよ。この辺もガブちゃんに相談しないと……。
「さあ、そろそろ館に戻らないと随分遠くにきましたもの」
「寒い? 高原だから夕方になると肌寒いわよね」
肩を震わせたジョーゼットに私は上着を脱いでかけてあげるとジョーゼットの機嫌がとても良くなったので私は安堵した。
「ありがとう。アーシア」
皆のところに戻ると何故かきゃあきゃあと私達を見て奇声を上げたのよ。
何故なの。ドレスは薄くて寒いのよ。肩が出てるじゃない。ほら、私は男性用だしね。上着を脱いだぐらいでは大丈夫なの。女の子は身体は冷やしちゃだめよ。
それから私達は星を眺めたり、昼間は高原を散策という優雅なこれぞバカンスというのを満喫したの。本当に素晴らしかった。高原では乗馬もしたけど暴走なんてしなかったのよ。でも何故か丘の上でジョーゼットと一緒に乗って朝駆けしちゃったけどね。朝日に輝く高原の風景も素晴らしかった。
「アーシア様、もう一度その白馬の馬に乗って丘の向こうからこちらにいらしてくださいな」
何度かそんなことを他のご令嬢方から頼まれたので何回かこなしたわ。何なの。一体。
そうして今度こそ楽しいバカンスを満喫した私は再び侯爵家に戻ってきた。巷では私の代わりにムチ使いの貴公子として社交界の一部のゴシップ欄で騒がれていたルークお兄様は元気に領地の経営に復帰していたた。
そして、教えて頂いたことはあの事件はやはり王弟派の陰謀に巻き込まれていたということだった。
「――だから、今は陛下とアベル様の方で対応してくださっている。だからお前も十分気を付けることだ。例え特殊な技能があってもな」
にやりと笑うルークお兄様に私は一応心配してくれているのだと不思議に思った。
「ルークお兄様意外です。私など手駒のようにてっきり思われていると……」
「自分が手駒になるほど使えるとでも思っていたのか?」
これでもかという冷たい視線を受けたけれどにやりと笑うお兄様にもしかして、私のことを少しは大事に思ってくれているような気がしてきた。
「改めて王太子様の婚約者候補のことは私には畏れ多いことです。それに私はこの家の者ではありませんがその時までお兄様のサポートをさせていただきます。それがせめての恩返しです」
私がそういうとルークお兄様に怪訝な顔をされてしまったけれど今の私の正直な気持ちを口にしてみた。言わないと伝わらないしね。
そして、学園に戻る準備をしているとガブちゃんからの訪問を受けたのよ。そう、何と取り違えの証拠を見つけたという連絡と共に!
「見てみなさい! 我が商会の調査部門は優秀だったのよ。ふふふ」
ガブちゃんがやってきて開口一番にそう話してきた。侍女にお茶を用意させながら私はドヤ顔の彼女に自室の客用のソファを薦める。
隣に座りひそひそと話を始めた。
「結局どういうことなの?」
「諜報部からの報告によると、当時、私達を出産したのは王都の同じ産院だったみたいね。勿論あなたの侯爵家は超特別室だけどね。うちも特別室だったけれど超特別室は貴族しか使えないみたい」
「産院が同じだったなら何らかの方法で間違えが無かったとは言えないわね」
「そうなのよ。実は当時ちょっとしたボヤ騒ぎが調理室であって、逃げる際に混乱して手違いがあったようなのよ。抱き抱えているうちにどちらの子か分からなくなったと当時の看護にあたっていたものから聞いたと報告書に書いてあったのよ」
「じゃあ、ガブちゃんと私というだけでなく他にも取り違えがいるかもしれないの?」
「それがね。当時超特別室には侯爵家と特別室にいたのはうちのミーシャ商会、つまり私だけなの。特別室同士は階は同じなのよね。後は棟が違うから」
「ということは……」
「間違えたとしたなら、やっぱりあなたと私ということなの」
「……じゃあ、その方に証言してもらえば取り違えは世間に証明されることになるのね」
私とガブちゃんは至近距離で見つめ合った。ガブちゃんは気まずそうに目を逸らせた。
「まあ、その人の証言だけでは証明は難しいかもしれないけど。……でもさあ、今更元に戻ってもね……」
ガブちゃんがそうぼそりと呟いた。私は驚いてガブちゃんを見つめる。かなり真剣な表情をしていた。




