四十四
ガブちゃんは別人のようだった。
「何と言うかさ、私は結構今の生活が気に入ってるのよね。今回のことで、尚更、家族とか周りの人との関係を見つめ直すことが出来たというか……。そりゃあ、私も少しは我が儘だったと思うの。でもうちだって、商業ギルドの会長もしてるし、それなりだと思っているのよ。私だって、ギルド会長のお嬢さんって周りから散々甘やかされていたんだからね。まあ、だから調子にのってたところもあったと思う。だけどあれから、そう、日本でのことを思い出して、商会の手伝いとかして褒められると嬉しくなっちゃってさ。ここで頑張りたいなとか思っているんだ」
そう言うとガブちゃんは言葉を詰まらせて俯いた。お互い何も言えず黙っているとぱたりぱたりと音がしてガブちゃんの瞳から涙が零れ落ちていた。
「……両親とか、結構好きだったんだなって気がついた。ダメかなあ、もうこのままでいいじゃん……」
俯いたままでガブちゃんの声が震えていた。私はどうしていいか分からず黙ったままだった。暫くしてから私はガブちゃんの肩に腕を回して抱き締めるようにした。お互いの温もりが心を伝えてくれるような気がした。
「そっか、そうだよね。私も……、ルークお兄様だってあんなに心配してくれると思わなかったし、両親だって……ユリアン様だって……」
そこまで言うとガブちゃんは鼻を啜りながら――。
「え? あなた、まだユリアンを諦めてなかったの? ああ、昔からユリアン推しだって言ってたわね。何気に今だって、好感度がカンストしてるし……」
目を真っ赤にしてガブちゃんが顔を上げた。こうして見るとガブちゃんもしおらしくて可愛いとか思えるわね。でも、私と目が合うとにやりと笑ったのよ。年頃のお嬢さんとしてはその笑いはどうなの。
「でも、何れは分かってしまうじゃないの? それなら早い方が良いと思うの。お互い辛いかも知れないけど」
「……」
ガブちゃんは私の言葉に黙ったままだった。そして、ぽつりと呟いた。
「あなた。最初見たときから、変わってると思ったけどやっぱり変わっていたわ」
「それ、どういうことなのよ?」
「だって、話しかけたらいきなり肘鉄仕掛けてくるし、男装だし……。本当に最高に変わってる」
ガブちゃんはそう言うと最後はお腹を押さえて何故だか笑いだしていた。つられて私も笑うしかなかった。
「ガブちゃんの話を聞いて私も考えたの。もうね、取り違えられていても私の人生だもの。私の思うように生きることにする。この世界でもね。だって、まだ人生これからだし。きっとやり直せるわよ」
私はそう言って立ち上がると誰に言うでもなく宣言してしてみた。
「今はルークお兄様も家に帰っているし、一緒にその報告をしてくれないかしら?」
私がそう言うとガブちゃんは喜んで立ち上がった。二人でお兄様の、我が家の執務室をノックすると意外と直ぐに入るようにお兄様の声がした。
「お兄様、お忙しいところごめんなさい。今日はミーシャ商会のガブリエラさんがいらしてて、是非お兄様にお話を聞いて頂きたいことがあるの」
「おお、ミーシャ商会の、あのときの商会の御尽力には感謝しています」
「……ガブちゃん。 何かしたの?」
「ああ、王太子様との共同で調査活動なんかを少しね」
「そうだったの。知らなかった。ガブちゃんって攻略者の事だけかと思ってたわ」
「だからね。その認識いい加減やめてくれない? 私だってそれなりに考えて……」
ガブちゃんと話しているとこほんとルークお兄様から控えめな咳ばらいが聞こえた。
「申し訳ありません。ルーク様のお忙しい時間を頂いているのに。……それでお話したいことは……」
そう言うとガブちゃんは調べてきた私達の取り違えについてルークお兄様にお話しした。さっき私に話した内容と同じ。
「……ということで私と侯爵令嬢のアーシアさんが取り違えられていたのです」
ルークお兄様はガブちゃんとは対照的に穏やかな表情をなさっていた。無言なその様子にガブちゃんも語尾がやや弱くなっていった。
「……えっと。以上です」
最後は消え入るようにガブちゃんが締めくくった。ルークお兄様は貴公子然としたままその形の良い口を開いた。
「――それで? と言うか、先日のことを機に私もあなたのことを少しお調べしました」
「え? それってどういうことですか……」
「アーシアと知り合ってからのあなたの行動です。しかし、お若いのに商会の事を良く考えていらしている。あなたは今後ともミーシャ商会に必要な方でしょう」
ルークお兄様の意外な褒め言葉にガブちゃんは顔を真っ赤に染めてしどろもどろになっていた。ルークお兄様、恐るべしだわ。
「取り違えですか……。そんな聡明な方が、うちのアーシアの他愛無い言葉を真に受けるとは残念ですね」
――はい? 私のですか?




