四十一
王都に着くと私は直ぐにルークお兄様を寝かしつけた。
あの事件は王太子様のお力もあって早急に調査が行われた。どうやら王弟派のものだと分かってきている。それに私は少し安堵した。ジョーゼットが関わってくると嫌だったからね。幸いなことにお兄様は快方に向かっている。
お兄様はかなり無理をしたので、まだ床についてはいるけれどあれこれと指示をだしていると聞いたので部屋を訪れた。
「お兄様、大丈夫ですか? 安静になさらないと」
「何のこれしき……。とはいえお前には随分世話になったな。バカンスも途中だったし」
「あ、いえ、何もできませんでしたけど」
「いや、助けを呼んでいたのは見事なものだった。お前の助力が無かったなら今頃は……」
「幸運でしたね。お兄様も」
「お前には悪いがあれは私ということになっているので訂正はしないぞ」
どうやらムチを振り回していたのが一部噂になっているらしい。目立ちたくはないので私は黙って肯いた。溜息をついているとガブちゃんがお見舞いをしたいといってやってきた。断ろうと思ったけれどお兄様は構わないということなので部屋に迎え入れた。
「この度はルーク様は大変な目にあわれて……。ミーシャ商会としてもご協力は惜しみません」
「有り難い申し出に今回の協力と何からお礼を言っていいのか。それにまだこのような無様な格好でお会いするとは申し訳ない」
それがまた良いのとかいうガブちゃんの呟きは聞かなかったことにしてあげた。
「しかし、まさかこんな強硬手段に出てくるとはな。これを機に王太子様はいろいろとお考えのようだ。君達も身辺には気をつけるように」
「私が王太子の婚約者候補だからですか? それだったら、違うと公表すればよろしいかと」
「それだけではないようだ。どちらかと言うと我が家が目立ってきた、というか私に権力が傾いてきたことを危惧した連中の仕業のようだ。だから王太子様との仲を妨害をしようと浅慮なものだ。あわよくば王太子も私が害したことに出来たら一石二鳥ということだったのだろう」
「それはどういう……」
「まだ、調査段階だ。お前達もあまり出歩かないように。ミーシャ商会もうちと絡んでいると思われて危険だ」
「お言葉ですが、我が商会はそれぐらいでどうにかなるようなものではありません。ルーク様にはご心配なく」
ガブちゃんが自信満々で話していた。しかも、お兄様の傷病の姿を頂きましたっ。なんて小声で言っていたのはお兄様には内緒にしておこう。だから、スチルじゃないからね。
その後、王宮からの発表では一部の伯爵家などが処分を受けたけれどそれは盗賊団と加担していた罪などという奇妙な内容だった。
「それだけなんですか? 納得いかないわ」
「仕方ない。王族が絡んでいるから調査が難航しているのだ」
渋い顔をしながらお兄様は仕事に戻る準備をしていた。あの騒動でもうこちらに戻ってきてしまったのとユリアン様はあの事件のことで用務があるので会えなくなってしまった。だから、私はジョーゼットの別荘にお呼ばれにあずかるつもり。高原の別荘で星が綺麗なんだって。それはお兄様からもお許しは頂いている。
今のところ、あの事件の首謀者は捜査中でなりを潜めているみたいだし、有力公爵家からの別荘のご招待だから、我が家としても断る理由は無かった。逆に断ると何かあるのかという勘繰りをされることになるしね。
そして私の荷物にはムチとドレスとお兄様の洋服が入っているのよ。だから、高原用に白いワンピースとかは無いの? あと麦わら帽子とかね。渓谷に風で飛ばされて詩を読むとかお嬢様らしいことをしないとね。
お兄様はこの世界の医療師達による医術のお陰で順調に回復をなさったので、私も安心して高原の別荘に旅立つことにしたの。それと、ユリアン様からのお手紙や贈り物が私に届くようになったのよ。
どうやら、騎士団と共に助けにきてくれたのが兄様の評価を上げたみたいね。少しは見直したなんてお兄様が漏らしていたのよ。
そうしてやってきたのは美しい星空の見える高原。降るような満天の星空が美しいと評判の別荘地よ。ついにお友達のジョーゼットの別荘にお呼ばれしたわ。いろいろあったから護衛や使用人もそれなりに付いてきているけどね。今度こそ夏の休暇を楽しむわよ。お友達とね。もう、ぼっちは卒業なのよ。
私がここに着いたときに白と淡いピンクの生地のドレスで出迎えてくれたジョーゼットに惚れ惚れしてしまった。やっぱり、ジョーゼットには可愛いピンクが良く似合っているのよ。
別荘では有名な詩などを口ずさみながら高原の木々の間を一緒に散策していたけれどまるで夢の様でしたの。海のバカンスがバカンスじゃ無かったから余計にありがたみを感じたのよねえ。
翌朝も気持ちの良い目覚め。
朝はね貴族は基本遅くに起きるものなの。と言いつつ社交で朝駆けなんかもある。乗馬なのだけど実は覚醒前のアーシアは乗ったことが無かったのよね。でも、私は頑張ったの。だって、馬よ。白馬に乗ってみたいじゃない? それに乗馬は学園の授業にもあったから大分練習したのでそれなりに上達したのよ。
別荘には私以外にも招待されたご令嬢も何人かいらしてるみたい。学園の人もいるから今のところ楽しい時間を過ごしてる。
馬と言えば意地悪をする定番シチュエーションよね。鞍とかに細工をしてたり、馬を暴走させて乗っているヒロインが絶体絶命なんていうパターン。そして、そこにヒーローが駆けつけて助けるというロマンスには王道のパターンなの。そう言えば『ゆるハー』のユリアンルートにもあった気がする。
あれは秋の乗馬大会とかのイベントだったかしら? 障害物競走でユリアン様の好感度を争うの。事前に私がヒロインの鞍の紐を切ってたんだわ。私がガブちゃんのを? それはもう有り得ないわね。それにそもそも一緒に乗馬大会なんてしないからね。




