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チェンジリング・ヒロインゲーム ~私のハッピーエンドを目指して~  作者: えとう蜜夏


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四十

 そして、ガブちゃんからは手に入ったと喜び勇んできたものは黒い鬘だった――。


「我が商会にお任せを! 何でも手に入れてみせます!」


「鬘で誤魔化してもお兄様にはなれませんわ!」


「大丈夫です。母はあなたをルークとして扱います。王太子様にもそうお願いしてあります」


「そんなので大丈夫な訳が……」


 そうして厚底靴まで用意されていた。やるのね。確かに雰囲気はそうかけ離れてはいないけれど。私は用意された衣装に袖を通した。貴族のお忍び風の恰好。それから私の特殊メイクのように化粧を施されるとお兄様かもと思える仕上がりになっていた。流石侯爵家の使用人以下うんぬん。


 背とか体格はちょっと足りないけどね。私は愛用のムチの入ったポケットに時折手を入れて安心する。これはお守りのようなもの。剣は使えないけれどいざとなったらこれで戦える。それは既に証明されてるしね。


 それからアベル王太子様と庭先を散策した。


 これってお散歩デート? そういや『ゆるハー』でこんなシーンあったわ。勿論ヒロインは男装などしてなくてね……。そう、でも今はヒロインであるガブちゃんも一緒なのよね。この場合は私がライバルキャラになるの? どうなのよ。


 でも私の今の見た目はルークお兄様だから、ヒロインのガブちゃんに攻略メンバーの隠れキャラの王太子とお兄様を両手に花といった構図よね。散策しながらガブちゃんも一緒になって楽しそうに会話をしていた。


「それで、アベル王太子様の好みは? ええ、勿論女性の……、もがっ」


 慌てて私はガブちゃんの口を手で塞いだわ。これはゲームじゃないのっ。リアル王室対応なの! 間違っても合コンみたいな下世話な質問はナッシング!


「ははは、ミーシャ商会のお嬢さんは楽しい方だ」


 アベル王太子様が鷹揚な方で良かった。周囲にさりげなく護衛騎士が控えているらしい。殺気は感じないので大丈夫だと思う。まあ、ガブちゃんの言う通り、ミーシャ商会は王宮御用達でもあるし、そんなに無礼なことはしない筈よね。


「ところで、アーシア嬢とはどこで知り合ったのかな?」


「それはあの、私の学園の行事ですわ……」


 もがもがしゃべるガブちゃんの口を塞いだまま私はガブちゃんとの最初の出会いを思い返していた。あのトイレでの遭遇事件。


 あのとき王太子様もいらしてたのよね。あれからもう三か月以上経つのねえ。しみじみと思いながら、庭で私は元気なことをアピールすることを忘れない。お兄様は幸いに命には別条なく今はお薬でお休みになっていた。


 王太子様が王都に戻られるときはお兄様はお見送りに行くと仰っていた。大丈夫なのかしら?


 そのうちお母様もいらして、そこでお茶を頂く。あはは、うふふとまるで庭では絵のような貴族のお茶会。


「この後、夕食まで海辺での散策でもなさいますか?」


 そんなお母様の言葉で私達は海辺に向かった。幸いにも美しい海辺の風景は王太子様もお喜びになり。マーメイド伝説のお話なんかなさって……。


「水棲人は大層美しいと聞く、一度見てみたいものだ」


「そうですね。私も見てみたいです」


 ガブちゃんと私も王太子様の言葉に頷いていた。やっぱり、ファンタジーなものはお互い好きよね。ゲームの定番マーメイド。それにマーマン。


「マーメイドの鱗とか落ちて無いかしら? 涙は真珠よね」


「やはり定番は泡となって……」


「その最後は嫌いよ」


 私とガブちゃんは砂浜できゃっきゃうふふと騒いでいた。ガブちゃんが喉が渇いたと飲みものを取りにいった時、王太子様と砂浜で二人きり。


「アーシア嬢は王宮での生活はどう思っている?」


 尋ねられた言葉が私には直ぐ理解できなかった。


「それはその……」


「ふっ、正直だな。ルークは最初はそなたのことは乗り気でなかったのだが、あのお茶会で初めて会った時にそなたのような存在は新鮮に感じられて、とても心惹かれると言ってしまったのだが、舞踏会でも見事なダンスを披露するし、不思議な女性だ。とても楽しい気分になる」


 ふぁっ?! これってマズイ気がする。 何かどうなっているの? 好感度は上がらないで! ストップ好感度! 駄目、王太子ルート。


「い、いえ。それは、その、私ではとてもとても王太子様のお相手など……」


「はは、本当にそなたはルークと同じか、権力には興味が無いんだな」


「お兄様が?」


 権力に興味ありありだと思っておりましたけど?


「あれは、不器用な奴だ。大事なものの為に自分が盾になろうとする。分かりにくいがな。そなたにしても、これまで全く私の婚約者候補にならなかったこともそうだ。そなたを大事に思っているのだろう。そして、私にもな。そういう奴だ」


「確かに……」


 高位令嬢の私が王太子の婚約者候補にならない方がおかしいのよ。ルークお兄様が工作していたというなら分かるわ。それに……。王太子様と学友だったとかで、多分今回のことも自分を投げうって、庇ったのね。きっと。


「お兄様は本当に……。困りますわ。色々分かりにくいですわね。そうですわ。実は王太子様にお願いが……」


 王太子様はもともと長居はしない予定だったので翌日早々に王都にお帰りになることに。


 帰途にはお兄様に扮した私が護衛についたのよ。お兄様にはお医者様に頼んで眠ってもらったわ。


 そして、危惧したけれど王都への帰途は順調に進んだ。出来る限り要らないものは省いて急いだの。でも王都の少し前にそれらは現れた。


 今回の事がジョーゼットのお家からだったとしたら嫌なことだわ。貴族の権謀術策はよくあることとはいえ。そもそも、お兄様が私を王太子様の婚約者候補になどと無謀なことを考えたからで、ユリアン様のままだったらこんなことには……。勿論、現段階では何処からの襲撃かは分かってはいないけれどね。


 そうして、掛け声とともにこちらの護衛騎士と盗賊のように扮した襲撃者との剣戟が始まった。王太子様の馬車を中心に守りの陣形を取る。


「忌々しいモードレット家に王太子め!」

 

 そんな声が聞こえてくる。


 どうして、ここまで……。ここって、『ゆるハー』なんだよね? 王太子様襲撃イベントなんて無いんだけど!


 でもこちらの護衛の人達も頑張っている。いろいろあったから私も段々ハイテンション状態になった。


「我が家と知っての、この狼藉か! 返り討ちにしてやる!」


「無理するな!」


 馬車から王太子様の声が聞こえた。どうも馬車から出てきそうな雰囲気。それは困ります。私はルークお兄様なのよ。


「悪漢どもにはこのモードレットが継嗣のルークがお相手いたす!」


 私はムチを取り出して振り上げたわ。カンストしているから無敵状態なのよ。きっときらきら光ってるかも。


「モードレットの息子は重傷では無かったのか? 馬鹿な!」


「そなたらを成敗いたす! 今宵のムチは一味違ーう!」


 私は高らかに宣言するとムチ使いカンストのオートモードで戦ってやった。ややこちらが押してはいるけれど膠着状態だった。


 すると王都の方から砂塵と共に馬の足音が聞こえてきた。


「殿下! それに……」


 そこにはユリアン様がやってきたのよ!


 ユリアン様の剣技は素晴らしいの! あっという間に数人倒されて私のもとに


「アーシア!」


「ユリアン様!」


 ついお互い見つめあってしまったわ。感無量。ヒロインの窮地に駆け付けるのはやっぱりヒーローよね! 


「ジルに、騎士団の方々、お願いする!」


 ユリアン様はなんと騎士団の方々と来てくれたみたい。あの騎士団長の息子のジルが一緒にきていた。その後ろにいるのは騎士団の方々ね。


 騎士団の登場に襲撃者は統率が崩れ、それぞれ逃げようとしていたけど後方からも砂塵を上げながらやってくる一団があった。どうやらガブちゃんのミーシャ商会の雇っている護衛達だった。それに……。


「ルークお兄様! どうして? お怪我は?」


 馬上には大怪我をして寝ている筈のルークお兄様の姿があったのよ。その間にも王太子様の馬車に近寄ろうとする不埒者達。


「ユリアン様、危険です。お下がりください」


「馬鹿を言うな。私は王国の騎士の一人として逃げる訳にはいかない。それに……、このために君は私に助けを求めたのだろう? それこそ君に何かあったら……。危険だから君こそ下がりなさい、アーシア」


 ユリアン様がそう言ってくれたのが、また格好いい。こういうシーンって『ゆるハー』にあっ……。ある筈ないからね!


 そう言うとユリアン様は悪漢どもを薙ぎ払ったのよ。素敵ね!


 でも、私は恐ろしいことに気が付いたのよ。何気にここには攻略対象者が集まっている!


「アーシア、大丈夫?」


 ガブちゃんまで私の横にやってきていた。


「ガブちゃん。どういうことよ。ルークお兄様は安静にしないと……」


「そんなの無理無理。うきゃ、ここって攻略対象メンバーが揃ってじゃない? むふふ。声をかけて、好感度上げなきゃね!」


 私はがっくりと肩を落としてしまった。どこまでもマイペースね。ガブちゃん。

 

 その間にもユリアン様は次々に悪漢を捕縛。文武に秀でているという設定だから、流石はユリアン様。でも今はゆっくり見惚れる訳にはいかないけど。本当にこんな展開になるなんて。『ゆるハー』はゆるゆるの学園物なんだってば。


 気が付けば襲撃者は捕縛され、沢山の護衛と共に王都へと向かった。私もお兄様もよ。お兄様なんて、馬車に乗せたら意識を失ったのよ。無茶するんだから。

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