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チェンジリング・ヒロインゲーム ~私のハッピーエンドを目指して~  作者: えとう蜜夏


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三十

 『ゆるハー』の学期ごとの名物イベントなんだけど今時廊下に成績を貼り出している学校なんてないわよねえ。攻略対象者と仲良くなるために上位を狙ってるんだけど、最初はそんなに良い訳もなく。がっがりしているところを生徒会のメンバーが慰めてくれる。そもそも成績が悪くても大丈夫なのよ。それに大概ユリアン様か文句無しの一位で、周囲から褒め称えられるシーンがメインになっていた筈。スチルにはユリアン様の横に生徒会副会長のレイン子爵のクリス様も控えていたんだっけ。ああ、思い出すと複雑だわ。


 そして、成績が悪ければ図書館デートやノートの貸し借りなんて学生らしいうふふなイベントがあるのよねぇ。ああ、懐かしい。


 そういえばガブちゃんはどこまで進んでいるのかしら? 本来の『ゆるハー』なら好感度はライバルと分け合うので減ったり増えたりを繰り返すから昨日の好感度の下がりはそうなのかな。




「お嬢様。お茶のお代わりをお持ちいたしましょうか?」


 私の『ゆるハー』妄想タイムは侍女の言葉で終わった。


「え、ええ。ミルクティをお願いね。お砂糖は無しでね」


 そう言うと僅かに侍女は目を細めた。アーシアの時はお砂糖を沢山入れてたものね。ちょっと今は腰回りがきつくなって。そうじゃなくても日本でいる時からお砂糖は抜いてたのよ。お茶本来の味が薄れちゃうしね。


「ハーブティがいいわ。ローズピップのね」


 ジョーゼットがそう頼んでいた。私もそうしたら、良かったかな。ハーブティも好きだったのよね。ローズヒップは美容に良いらしい。ちょっと酸っぱいけど。薔薇の実から抽出されてるのだっけ?




 今日の授業はシーズンに向けてのマナーやダンスが主だった。ダンス? メヌエットとかブランルはオートモードよ。勿論女性のパート。悪いけど先生からはお褒めの言葉をいただいたくらいなの。私が素で踊れる訳ないじゃないの。いいところ体育祭の最後に踊るマイムマイムくらいよ。あとトレーウイズダンス。え? 何それって? 盆踊り……。






 放課後になるとジョーゼットに声をかけられた。


「アーシア。今日の授業で分からないところがあって少し調べたいの。だから、一緒に図書館に行ってくれないかしら?」


 『ゆるハー』だったら、ヒロインがユリアン様に勉強を教えて欲しいとお願いするのよね。そこから、図書館デートが始まる。勿論可愛いジョーゼットの頼みだから私は快諾して一緒に図書館へと向かった。


 『ゆるハー』の図書館デートの定番は分からない所を教えてもらって二人の仲が深まるの。これぞ王道の図書館でのデートよね。勉強中に寝てしまって寝顔が可愛いというシチュエーションや、高いところにある本がとれなくて困っているのを取ってもらうなど様々なものがあるの。


 だけど今私は静かな筈の図書館でご令嬢達に囲まれています。何か、おかしい。

 

「まああ。流石、アーシア様ですわ。そんなことまでご存じなんですのね」


「美しさといい賢さといい、アーシア様には天から二物も三物も与えられていますわ」


 だからね。お嬢様方、図書館では静かにね。この知識は日本での大学までの知識なの。


 私はいくつか興味深い本を手に取って借りて部屋に戻ったわ。だってね。あれ以上いると勉強どころではないじゃない? ジョーゼットも苦笑しつつ、同じように本を選んで部屋に戻ることにした。




 部屋に戻るとなんとユリアン様からお手紙が届いていたのよ。ユリアン様からのお手紙は初めてだわ。


『親愛なるアーシア、学園生活は慣れたころかな。君が隣の学園にいることを知って本当に驚いたよ。会いたいけれどその学園での面会は難しいみたいだね。それとこの夏休みは会えるかな。是非うちの別荘に招待したいと思っている。星空の綺麗な別荘があるんだ。ああ、大事なことを言い忘れたね。今度デビューするなら是非エスコートをしたいと思っているんだ。それではまた良い返事を待っているよ』


 そんなことが書かれていたの。私は何度も食い入るように見たわ。そして、それが本物なのが実感できると私は返事をしようとペンを持とうとしたら、侍女が夕食の時間だと言ってきたので私は机の引出しにしまうと食堂に向かった。


 こうなったら、この夏はジョーゼットとユリアン様の別荘にいかないとね。今年の夏はちょっと違うわよ。ぼっちじゃないの。それに不毛なバカの巣じゃないの。


 でも、その前に私がデビューするという#大舞台__グランバル__#が控えていた。そう、何と王宮大舞踏会で社交界デビューしちゃうのよ。あわわ。どうしよう。ジョーゼットのところに逃げたいけれど彼女だって舞踏会に出席するから無理よね。


 食堂に行くといつものように私はジョーゼットの隣。今夜のお夕食はチキンのソテー。香ばしい匂いが満ちていた。パリパリにローストされたチキンよ。付け合わせは季節の温野菜。アーティチョークはちょっと苦手よ。それにコーンポタージュ。ここの料理長をうちに引き抜きたいわ。


 おかわりをしたかったけれどジョーゼットと夏休みの話題で楽しくて気が付けば夕食の時間をオーバーしてしまったの。やっぱり、女同士だものお化粧とかファッションのことにはついつい話が弾むわよね。


 私は夏休みの壮大な計画を考えたくて早々にベッドに入ったの。






 だけど翌日、ユリアン様の手紙にお返事を書こうと机の引き出しをみたけれど無かったのよ……。


 あれは私の願望が幻を見せたのかしら? ちらりと侍女を見遣ると忙しそうに朝の準備をしてくれている。仕方がないので部屋の手洗いで顔を洗うと控えている侍女にそれとなく聞いてみた。


「あの、ここに入れてあったユリアン様の手紙は……」


 どこまでも無表情の侍女。再度私は訊ねてみた。


「ユリアン様のお手紙あったわよね?」


「アーシア様へのお手紙及び贈り物は全てルーク様のお調べがお済みになってからと指示されております」


 何ですって? やっぱり、ユリアン様の言っていた通りだったのね。


「ちょっとそれは何でも……」


 とはいえ、侍女では次期当主のお兄様の指示は逆らえないわね。私でさえそうだもの。


「もしかして、私が出すのも検閲があるのかしら?」


 今回は寮付きのメイドから渡してきたので私が知ることになったけれど、今までのは。もしや、お茶会で知り合ったご令嬢とかからお誘いがあったかもしれないじゃないの! これはお兄様とは言えども許せませんわ。今度帰ったら断然抗議しないと。それにこの夏のぼっち脱出計画もお話しないといけないわ。


 無言で控えている侍女にもういいわよとため息交じりに私が口にすると侍女は無表情なその瞳を少し見開いた。段々私もマシーンのような侍女の考えが分かるようになってきたかも。本当に表情とか動きに差異は無いのよ。よく見ているとね分かるようになってきたわ。昔の私だと使用人などに興味は無かったからね。



 

「もう、アーシアったら。眉間に皺があってよ。何か難しいことかしら?」


 ふふとジョーゼットの可愛い指摘に私は頬を緩めた。今日はもう午前中で授業は終わり、談話室でジョーゼットの侍女がチコリのお茶を入れてくれて一緒に嗜んでいた。ご令嬢達もそれぞれもう帰る準備をしていて、ここには私達二人しかいなかった。


「ああ、ええと。この夏の計画をいろいろと……」


「そうよね。アーシアはデビューするのだものいろいろと心配なことがあるわよね。私で良かったら相談にのるわよ。それに夜会でお話しできるから楽しみね。私はお友達が少ないから……」


 ジョーゼットが寂しそうな微笑を浮かべた。


 ジョーゼットにお友達が少ない? 超絶美少女で王太子の婚約者なのに? 私の過去のムチ打ち悪役令嬢とは違うじゃないの! ああ、そうか、これって社交辞令よね。真に受けてはいけないわ。日本での経験値が私にそう告げている。


「ええ、そうなのよ。でも今さらデビューなどおこがましくて……。でも、ジョーゼットなら沢山お友達がいるじゃないの?」


 そりゃそうよ。私は本当は庶民なの。後二年ちょっとで今の家族からはゴミのように扱われて追い出されるの。そのときは見事に富豪な庶民になってみせるわ。カウントダウンしなくちゃね。ということは誰にも言えないのでそっと胸の内で呟いた。


 あ、いいえ、一人だけいるわね。ガブちゃんよ。ガブちゃんなら私達の取り換えは分かっている。ああもう、ガブちゃんに会いたい。本当に隣なのに中々会えないのよね。ユリアン様だって。


 そして、私はあることを思いついた。それは思わずテーブルをダンと叩いて立ち上がるほどに。ジョーゼットをびっくりさせてしまったけれど良いアイディアだったのよ。


 これを実行してみれば、私は社交界デビューをしなくて済むわ。それにガブちゃんにとっても良いことだしね。だけどそうなるとユリアン様とはもうお会いできないかもしれない。 

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