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チェンジリング・ヒロインゲーム ~私のハッピーエンドを目指して~  作者: えとう蜜夏


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三十一

 私が考え付いたのは私達の取り違えをリークすること。そうすればこの生活は終わるの。簡単なことだったのよ。そうと決まればさっさと取り掛からなくちゃ。


 私はがぜんやる気が出て、ジョーゼットの用意してくれたしっとりした出来上がりのキャトルカールを取り分けて貰った。スポンジケーキにグラサージュがたっぷりかかって、フラワーソルトで飾り付けられているの。ホールだから切り分けてくれたわ。一口食べるとこれがまた舌触りがきめ細やかで滑らかなの。溶かしバターの風味が最高。塩キャラメル味なのでちょっと焦げて香ばしいキャラメルのほろ苦い感じがまたなんとも。ほっぺたが落ちそうなほど美味しいわ。え? もう一切れ食べてもいいの? ええ! 勿論頂くわ。……あの、それ、もう少し大きく切り分けて頂けると嬉しいのだけど。何ですって? ココア味のサブレもあるの? 是非、それもお願いするわ。


 いろいろと考えるから糖分が必要なのよ。あれよあれ、将棋のプロ棋士が対局中におやつを召し上がるじゃない? それと同じでいろいろ考えたから脳内がカロリーを求めているのよ。


 私はジョーゼットとお茶とお菓子で語らいつつ、効果的なリークの仕方を考えていた。


 でもね。多分お兄様にお話しても取り合ってくれないだろうし、お父様やお母様は端からお話にならないだろうし。お母様だと難しい話は止めてと聞いてくれないに決まっている。お父様も希少種の苔以外は全く興味を示されないし。この世界にはまだDNA鑑定なんてものは無いみたいなので証拠を揃えてなんて、私では突き止められないわ。


「……お嬢様、あまりお召し上がると夕食に差し支えます」


 三切れ目のキャトルカールに手を伸ばそうとすると侍女からのストップが入った。そうよ。そうだわ。彼女にも協力を求めるのもいいかもね。なんたって私は嫌われているだろうし。さっさと元に戻った方がいいわよね。


「――それとね。アーシア。私も家から今年の大舞踏会の準備のために戻るように手紙が届いたの」


「ああ、ジョーゼットも大変ね。私は初めてだからもっと大変だけど。もう、ドレスが憂鬱よ。そうだわ。いっそ大舞踏会もタキシードにしようかしらね」


「あら、それはいいかもしれないわね。是非、アーシアのファーストダンスは私にして頂戴」


「あらあら、王太子様はどうするのよ」


「さあ、うふふ」


 こんな他愛もない会話が楽しいのよ。ジョーゼットが超絶可愛いの。






 いよいよ、今年の社交シーズンも到来して、学園も前期の学科は終了して私は家に戻ることになった。


 でもね。今年はお友達のジョーゼットに別荘にお呼ばれするのよ。今年の夏はちょっと違うわよ。ふふん。あ、でも、取り違えが判明したら、即日侯爵家を出ることになるのよね。……残念だわ。


 侯爵家から迎えの馬車が来て、今日は荷物運び要員として他の使用人も来てくれている。馬車に乗り込むとそれとなく侍女に訊ねてみた。能面無口な侍女は昔からよく分からない存在だった。


「えっと私って侯爵家の人間じゃないよね?」


 すると侍女は不吉なものを見るような目で私を見てくるとまた顔を下げた。他の使用人たちは目を合わせないように視線を逸らせてしまった。いたたまれない雰囲気が馬車の中に満ちてしまった。


 ちょっとストレートに聞きすぎた? 私は仕方が無いので窓の外を見ていたんだけど恥ずかしくなって狸寝入りをすることにしたわ。え? 口元に光る滴があるって?




 ガーデンパーティ以来の我が家に戻ってきた。お兄様はまた外交に出られていて、出迎えてくれたお母様やお父様と挨拶を交わしたわ。


 それから、早速大舞踏会様に仕立て挙げられたドレスやアクセサリー達を確認することに。どれがいいかとお母様と相談しながら選ぶのだけど。罪悪感が半端ない。


 もし、私が取り違えを申し立てたらこれはどうなるのかしら? まあ、ガブちゃんの方が背が低いからドレスの裾をちょん切ればいいかもしれない。でも髪や目の色が違うので似合わないものもでてくるわね。私は衣装選びの休憩のときにお母様に言いだそうとした。


「あ、あの。お母様。いえ侯爵夫人様。その……」 


「――さっきのやっぱり、今一だったかしら……。何、アーシア? また何かの新しいごっこ遊びなの? あなたのデビューの準備で忙しいのだから後にしなさい」


 どうやらお母様の頭の中はドレスとアクセサリーのことで一杯のようだった。それでも私は意を決して行ってみた。


「あの、私は赤子のときに庶民と間違われてしまって………」


「アーシアは白の方が見栄えが良いわ! そうよ。あら、今、何か言った? ドレスが違っていたですって?」


「……ドレスではなく。入れ違いの。その」


「アクセサリーが入れ違っていたのかしら。だからあれだけ私が言っておいたのに。もう一度呼ばなければいけないわね」


「違うわ。その私の言いたいのは……」


 だけどお母さまには全く伝わっていないようだった。昔から母は私の話は聞いてくれない。溜息をつきつつ私は着せ替え人形と化したのだった。


「その白いローブデコルテは腰回りをもっと膨らませた方がいいわね」


 この時ばかりは使用人も一緒に意見を求められる。だからうちの使用人の見る目は結構いいと思うのね。だけどそれとなく私の取り違えを話そうとしても取り合ってくれる人は居なかったのよ……。

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