二十三
送ってもらったユリアン様とまたお出かけすることを約束して別れたの。これってどうなの? でも、クリス様のガーデンパーティがあるから、お出かけすることになるわよね。私はにまにましつつリアルユリアン様人形を抱きしめながらその日は良い夢を見れそうな気がして休んだ。
すると、後日家に帰るようにと手紙が届いた。どうやら私のガーデンパーティへの出席の件について話があるみたいだった。だから、今週末は私は侯爵家に戻ることにした。それにしても、学園生活にも慣れて一週間はあっと言う間に過ぎていく。
家に戻るとお父様とお兄様はお出かけしていて、お母様とレイン子爵のパーティの話になった。
「――そうね。アーシアの正式なデビューはこの夏にと思っているけれど、それくらいなら構わないでしょう」
「社交界デビューですか……」
「婚約者がいても、そろそろあなたもね」
「私は婚約をしているんですか?」
お母様の言葉に思わず私は聞き返してしまった。
「あら、破棄した覚えはないわよ」
「で、でもお兄様は、お父様も……」
「あの二人は最初から認めていないわよ」
「え? それって、どう……」
「でも、国王陛下にはもう申し上げているから」
そう仰るとお母様は扇を出してぱらりと優雅に広げて見せた。流石、お母様は王家の血を引くお方だからか、見せどころを心得ていらっしゃるわね。優雅でまるで往年の女優を思わせる。
「国王陛下にですか?」
私はお母様の言葉に驚いてただ繰り返すだけだった。私のそんな様子に呆れたようにお母様は仰った。
「それはそうよ。高位貴族の結婚には国王陛下のご裁可は必要ですからね」
さあ、ガーデンパーティの用意をなさいと仰るとお母様は執事に何か指示を与えていた。
夕食の席でお母様はお戻りになったお兄様とお父様に私の話の説明をなされた。お父様はガーデンパーティぐらいならと渋々承諾していた。
「……アーシアが行きたいと言うなら」
お兄様はそう言うとその妖艶なアメジストの瞳を曇らせていた。うう、それに負けてなるものかっ。
「ユリアン様も是非ご一緒にと……」
私はそう言うと視線を落としてみた。目の前には美味しそうな冷製ポタージュがおいてあった。うちのシェフの自慢料理だ。トマトのコクがこれまた絶品なのに喉に通りにくいったら……。でも、お兄様がどう言おうと我が家ではお母様の発言は絶対なのよね。我が家の指標と言ってもいい。
気まずい沈黙の後、ルークお兄様の悩ましげな溜息が聞こえてきたが否と言う言葉は上がらなかった。
「それはそうと、ルークはアーシアの学園入りはどうするのかしら?」
お母様の連続攻撃に私はせっかく口にした冷製ポタージュを盛大に吹き零しそうになった。
お流石、宮廷の社交界を見事に渡り切っていらっしゃるお母様は間髪入れずの攻撃を繰り広げますわ。
「あの学園は名門中の名門です。現にローレン公爵家のご令嬢も入学をしているので反対のしようがありません」
ルークお兄様はそう言って言葉を切った。
――よっしゃあぁぁ。案外簡単に言質をとったぁ。とったどぉぁ。
私はテーブルの下で渾身のガッツポーズをしてからお兄様の方を見上げた。
しかし、お兄様はその超絶美貌の妖艶さで我が国どころか諸外国の社交界の女性達を魅惑の虜にしているというアメジストの瞳に悲しみを織り込んで私を見つめていたのよ――――――。
「……アーシアから私に何も相談も無かったのが、……それが、……私は兄として、とても悲しい――。私はそんな風にアーシアを育てた覚えがないのに……」
そう悲しそうに仰るとルークお兄様はその美貌を苦悶の表情に変えていた。それに何故かお父様も横でうんうんと肯いていた。
お母様はもう言い切ったとばかりに我関せずと優雅にポタージュを口にしていた。
――お兄様に育てられた覚えは――、無いと言い切れないのが悲しいっ。あれはどちらかというと黒歴史ですのよ! ムチ使いの令嬢なんて。
私はそれを思い出して、こんな席でありながら頭を抱えそうになったが、なんとか強張った笑みを浮かべただけで我慢した。
「私も予定があって、ガーデンパーティに私は付き添いが出来そうにないけれど……」
――つ、ついてくる気でしたか!? ルークお兄様ぁぁ……。
ルークお兄様はそう一度言葉を切ると私だけが知っている例の腹黒い笑みを浮かべていた。ご令嬢方がまるっと騙されたあの微笑み。
「分かっているよね。アーシア? 侯爵令嬢として、品格のある行動をするように」
私はそれにぶんぶんと首を上下に振っていた。
――嗚呼、ポタージュが口の中でシェイクされて何がなんだか。
翌日はパーティへの出席準備や学園への荷物をチェックして終わった。




