二十二
私達の側に直ぐさま駆け寄ってきたクリス様はストロベリーブロンドのふわふわの頭で線の細いとても可愛い人。そう、私の知っている『ゆるハー』の中での彼は可愛い美少年系だったのよね。ピンク系の髪の色だったっけ。ふわふわのピンクで綿菓子みたいな。今私の見ているクリス様の面立ちは繊細で長い睫毛に覆われていて、少し大きめのブランディー色の瞳もとても綺羅めいていた。そして、私の脳内では『ゆるハー』のクリス様のキャラクターソングが再生されていたの。このキャラソンは結構ベタなので歌うのは楽しかったわ。
『僕の瞳に溺れて ~クリスのスイート・ドリンク~
僕の琥珀色アイで愛してあげる♪
愛はアイなんだ~
スイートに溺れて (ぱちんと指を鳴らして、アップになる)
アイは愛として、きっと僕の瞳に溺れて~
さあ、一緒にスイートを味わおう』
でもそういえば、ガブちゃんは『ゆるハー』でのクリス様は本当は女性の筈だとか言っていたわね。どうなんだろう?
私はクリス様を失礼にならない程度に観察していた。でも、ガブちゃんのいうようにクリス様が女性で男装しているなんて……。そう言えば私もそうか。
そんなことを考えているとふと私は我に返った。傍から見ればここにはそれなりに見栄えのいい三人の男が集っているように見える。
実際、道を行く人々から興味津々な視線を感じるのは気のせいじゃないと思うの。特に何故か女性方からは熱のこもった視線を。私以外のお二方はそんな視線に慣れているのか平然としていた。
ええ、美形の方は他人からの熱い視線なんて気にしていられませんよね。
「アーシア、紹介しよう。彼はレイン子爵の息子のクリスだ。そして……」
「存じ上げておりますよ。ユリアン様のご婚約者でモードレット侯爵令嬢のアーシア様ですね? 今話題のご令嬢あらせられる。初めまして、クリス・レインと申します。どうぞお見知りおきを」
クリス様はそういうとゆったりと微笑んだ。
うわ。なんだか余裕のある微笑み。可愛いのに雰囲気はユリアンより年上に見えるわね。
私も負けずに微笑み返すと軽く腰を落とした。これはドレスじゃないと見栄えしないけど淑女の礼なのよ。
「ええ、初めまして、クリス様。お会いできて光栄ですわ」
「ユリアン様からよくお話をお聞きしていましたから、初対面の気がいたしませんね」
クリス様はそんなことを仰ると私をじっと見つめてきた。クリス様は女性的な容貌だけど流し目のセクシーさが半端ない気がする。
――あれれ? クリス様って、こんなセクシーキャラだっけ? 何か違くない? 可愛いショタ属性だった筈なんだけどね。
クリス様の背はそう高くなくて、並ぶと私より少し大きいくらい。
「……まあ、そうですの。それは嬉しく思いますわ」
私もそう言いながらやや細めた目でクリス様を観察していた。レイン子爵の息子のクリス様は貴族の男性の定番の外出用のお召し物を着込んでいた。その手には白い手袋をしていて、喉元までもきっちりとしたひらひらのシャツを身に着けていた。残念なことに今の格好では性別についてはよく分からない。なんたって今の私自身がそうだしねぇ。
――果たしてクリス様は男なのか女なのか?
「何か?」
私の窺うような視線を感じたのか、クリス様は少し戸惑い気味に訊ねてきた。
――ええ、私はただあなたが男性なのか女性なのか知りたいだけなんです。でも、あなたを攻略する気はありません。でも『ゆるハー』に性別が不確かな設定なんてあったかしら? もしかして、周回ルート限定ってものなのだったりして、まあ、最後までこういうことは侮れません。
私のそんな考えは露とも悟られないように二人に黙って微笑んでみた。すると二人は驚きの表情のあと顔を逸らせたのよ。どういうとこかしら? 失礼しちゃうわね。折角満面の笑みを見せたつもりなのに。何かを企んでいるようにとでもみえましたかしら?
「そう言えばユリアン様は来週末の拙宅のガーデンパーティにお出ていただけるのでしょうか?」
クリス様がそう言うとユリアン様は私の方を見遣った。その視線にクリス様は肯いた。
何でしょう?
クリス様はやや緊張気味に私に話しかけてきた。
「よろしければ、アーシア様もいらしていただけると光栄です」
私はその申し出に驚きつつ断りを入れた。
「私は社交界にはまだ……」
「いえ、そのような堅苦しいものでなく、若い者達の気のおけない集まりですのでお気軽にご参加いただけるかと」
それに私は戸惑った。今まで、直接誘われたことはないのでどうしたらいいのか悩んでしまいユリアン様に助けを求めるように見つめてしまった。
「アーシアのお家の方の許しがあれば……」
私の代わりにユリアン様がそうお話してくれて私もそれならばと黙って肯いた。そしてクリス様とはそこでお別れして私達は寮に帰った。




