二十一
不服そうなユリアン様だったけれど直ぐ口元に笑みを浮かべてくれた。私もほっとして笑みを返すと良さそうな品物をユリアン様に勧められて一緒に見ることに。ユリアン様が勧めるものは結構お高く。私は曖昧な笑みで誤魔化していた。スルーよ。これこそ、社会人として培われた華麗なるスルー技術の数々。
ここで受け取ってしまうと面倒なことになるのは分かるの。
それになんたってユリアン様はメインの攻略対象者だから、少々イベントを落してもかなり楽にユリアンルートに入ってしまう。『ゆるハー』のゲームはゆるゆるだからね。ユリアン様は王道ルートだから攻略しやすいの。取り合えずユリアン様とまで言われていた。
私はガブちゃんの邪魔をしないようにユリアン様にお店を出ようと促した。
「もう、出ませんか?」
だからここで彼に何かをもらう訳にはいかないのだ。それこそユリアン様ルートに入りかねない。『ゆるハー』で攻略キャラからヒロインに贈られるアクセサリーは後々まで関わってくることになる。
その上、好意度にも大きく影響する。お出かけの際にそれをつけてキャラに会うと各段に好意度が上がる。中盤以降に身に着けていたら、その攻略者のルートはほぼ確定になる仕様だった。ただ、選択肢だけは要注意なのだけど。王太子がそれだった。うっかり機嫌を損ねるような選択肢を選ぶとやり直しなのだ。流石王子様。一筋縄ではいかないみたい。何といっても完璧な婚約者から奪い取るのだからそれなりにしないといけないらしい。
――悪いけど、あの、ジョーゼットから王太子様を奪い取るなんて考えられないわ。お二人は仲が良さそうだし。無理。お兄様に言われても無理よ。絶対。
お店を出ようと促した私の言葉にユリアンもあっさりと同意をしてくれた。しかし――。
「あら、残念です。ユリアン様。今度は是非お時間のあるときにゆっくりといらしてくださいね。それか、仰って下さるといつでも特別にユリアン様だけにお店を開けちゃいますよ!」
あ、言っちゃったあ。てへぺろとガブちゃんは『ゆるハー』のヒロインらしい様子で振る舞っていた。
どういうことなの? ユリアン様ルートじゃない筈のに。それでお兄様ルートに繋がるの?
ユリアン様はまた今度にと答えると私と店を出てくれた。しかし、直ぐにユリアン様は立ち止まって、私の方を向き直った。
ユリアン様は幼少期は愛らしい天使だったけれど今は怜悧な感じの美青年になっていた。そんな彼と男装の私が街中で見つめ合うと興味津々といった熱い視線を周りから感じて仕方ない。あの、こんなところで見つめ合わなくても、早く馬車の中に行きませんか?
そう思っている私に彼はポケットから何かを取り出した。どう見てもそれはアクセサリーの入っていそうな綺麗なベルベット調の箱だったのよ。
ユリアンたら、いつの間に?
その箱が指輪サイズでないことだけが幸いだった。
「これを君に似合うと思って」
「え? あ」
そう考えている隙にユリアンからそれを手渡されてしまった。周囲の視線が突き刺さるように痛い。痛すぎる。
ユリアン様。どう見ても私達は男性カップルに見えちゃってますよ。それもなんだか特別な関係の二人に……。
ああ! ガブちゃんがお店の窓越しに目を見開いてこっちを見てるじゃない。目が落ちるって、そんなに見開いちゃあ。
ユリアン様はそんな周囲の空気を読まず、どうやら私がそれを開けてみることを待っている様子だった。仕方なく私はそれの蓋をぱかりと開けると小ぶりで綺麗な髪飾りが入っていた。虹色に輝く小さな宝石をちりばめた細工のそれは上品かつ可愛いものだった。
――見覚え有る。これはユリアン様本命ルートのものだ。ああ、こんな簡単に……。流石、ゆるゆる『ゆるハー』王道のユリアン様ルート。
「ありがとうございます」
呆然としたまま私はお礼の言葉を言うしかなかった。私がやや強張った笑みを浮かべるとユリアンも少し笑みを浮かべた。
「君に似合うものを選ぶのはとても楽しかった」
それはまあ嬉しいものですが、でも、こんな往来で無下に突き返すわけにもいかないじゃないっ。誰が見ているか分からないもの。
仕方なく私はユリアン様からのアクセサリーを受け取って馬車に乗り込もうとすると遠くからユリアン様の名を呼ぶ声に私達は動きを止めた。
「ユリアン様!」
「クリス?」
ユリアンが口にしたその名で私はそれがレイン子爵の子息であることが分かった。
こんなに攻略対象者が出てくると言うことは、今日はイベントの日だったのかもしれない。そう、街イベント。ここは王都の大広場前だし。何気にミーシャ商会は良い場所にあるわね。
『ゆるハー』では、週末どの男性と過ごすかでその好意度が変わっていく。それは乙女ゲームによくあること。ただ、これは平日にフラグを立てておく必要があるのよね。その上、ライバルキャラだってデートをするみたいでライバルキャラが過ごした相手の好感度が週明けにごっそり減っているという悪夢が何度かあった。
それからデートをする先は街にある施設とかで、公園で散歩、劇場の観劇、お店での買い物などのイベントがある。行先を一つ選ぶとその日の行動は終了するんだけど選択肢のあることが多いの。例えば洋服を買いに行くなら、対象者の好みの方を選ぶと好感度が上がるという仕組み。好感度が上がればラッキーイベントや限定スチルのイベントが起きるようになっている。たまにライバル役の令嬢の邪魔が入ることがあるけど。そう、それは私の出番よね。「私のユリアン様に手を出さないでっ」とヒステリックに泣き喚くの。やってみようかしら? お兄様のフロックコートを着用してるけどね。だから、どっちが攻略者か分からないかも。




