二十
週末はユリアン様の用意した馬車に乗せてもらうと私は街にあるミーシャ商会の近くまで行ってもらった。そこで買い物をしたいというお誘いをしたのよ。
何気にこれはデートですよね! ユリアン様とおデートよ! ふふふ。
だけど勿論馬車には侍女とユリアンの侍従や護衛までも乗っている。だから、二人きりの甘い展開など無いの。ええ、皆無だったわ。
何方かしら? 馬車の中での王道スイート展開を期待してたの。それは私だよぉ。甘く囁いて手を握ったり、肩を抱き寄せたり、そんなことを考えていたのは甘かったわ。馬車って結構揺れるのよ。気を抜くと座席から転げ落ちそうになったの。
それにこの格好でユリアン様にしがみつくとね。絵面的にどうなのよ?
王都の中心地にあるミーシャ商会は大きな建物で、それこそ不動産から輸入品まで幅広く扱うようだった。それに今はこの国の商業ギルドの元締めだとか。
――ここが三年後には私の家になるのね。結構、いえ、かなり大きいわ。良い感じじゃないですかね。ビバ! ヒルズな日々!
私そう思ってつい笑みが零れてしまった。店の前に馬車が止まったので降りる。
「ここで良かったのかい? じゃあ、中に入ろう」
ユリアンがミーシャ商会の店舗部分の方へ誘ってくれたので私はそちらに向かった。入り口にドアマンらしい人が立っていてドアを開けてくれた。
まあ、まだこの世界には自動ドアなんて無いから。でも、銀座にあった某一流ブランド店みたいね。あれは驚いたの。時計なんか家が建つくらいのお値段なんてものがあって、思わず値札のゼロを数え直してみたことがあるのよ。
ミーシャ商会の店の中は輸入品の高級そうな宝飾品や服飾品を置いてあった。他にも食料品なども扱うお店もあるみたい。
「これなんかどう?」
ユリアンから勧められるものは趣味も素晴らしいがお値段も素晴らしい。ユリアンは結構センスもいいのね。顔もいいし、やっぱり生粋のお貴族様って感じ。
でも、そんな高価なものは三年後に選ぶあなたの運命の人にプレゼントしてあげてくださいな。……くすん。私は自分の作ったリアル・ユリアン様人形で我慢するの。
私はそんなことを胸の内で想いながら辺りをきょろきょろと見遣った。ガブちゃんはいないのかしら。あの時、もっといろいろ聞きいておけばよかったかしら。
そうしていると店内に悲鳴のような声が響き渡った。その声と共につかつかと彼女がこちらにやって来た。
「どうして、あなたがウチに来ているのよ!」
それって、何だか懐かしく聞こえる響きと声ね。
「ちょっと」
ぐいっと私は彼女に腕を掴まれて、そのまま引きずられるように店舗の奥に連れ込まれた。
「ちよっと、何やってるのよ! こんなとこまで来ちゃって。それにまたその格好? いい加減にしなさいよね!に、似合ってるけど……」
「いろいろイベントとか進行状態が気になってしまって、ちょっと聞きたいなと」
私はガブちゃんにそう言うと彼女は呆れたような口調で返してきた。
「どこまであなたはフリーダムなの……。そんなのもう乙女ゲームじゃ無いじゃない」
そう言うとガブちゃんは深く溜息をついた。
「まあ、そりゃあ。確かに私はこれまでに王太子ルートとも被っていたから判りにくいわよね。でもああしないとルーク様とは会えなくてそうすると私の目指すエンドにならないから……」
「へぇ。ガブちゃんはやっぱりルークお兄様ルートを狙ってるのね」
私はガブちゃんの手を両手で握り締めた。
「頑張って! 禁断の兄妹愛になるけど」
「は? 何よ。急に応援してくるなんて、まあ、当たり前でしょ。折角なんだから、この「ゆるハー」ゲームを楽しむつもりよ」
――ガブちゃんはまだゲームのつもりなんだろう。まあ、いいか、私だって理想ライフを目指しているし。まったり、ほっこり、のほほんな生活なの。間違っても陰謀暗殺なお貴族様ライフなどは範疇にないの。お兄様に言われてもアベル王太子様を狙うなどもってのほか。ユリアン様だって……。くすん。
「ごほん。お嬢様、お待たせしてあるライル伯爵様のご子息殿はいかがいたしましょう」
私達はまだ話したかったけれど店の人がおずおずとそんなことを申し出てきた。
――ああ、そういやユリアン様を店頭に置いてきたのを忘れていた。ごめんね。ユリアン様。
でも、ガブちゃんは店の人そっちのけで私に話していた。
「だいたい、これって私がユリアンルートに入ってた場合起きるやつじゃないの。あなたと生徒会長が店に来て、ライバルのあなたに宝石を選んでやっているのを見て、ショックを受けた私にもユリアンからアクセを貰えるというイベントじゃない」
――そういやあったわ。そんなの。お茶会の後、生徒会のメンバーと一緒に出掛けたヒロインが学園の他の人達に苛められて心配するユリアンは何とヒロインの様子を見にライバルの婚約者(って私の事だけど)連れでヒロインの店にくるというバカなイベント。
――ああ、今思っても『ゆるハー』はいろんな意味でゆるゆるだったわ。でも今、私達の様子を黙って見守る店の人は何気に良い教育されているわね。
「そうだったわね。私は何も貰わず帰ることにするから。今日はガブちゃんの様子とかお店を知りたかっただけだし」
「え、あ、そうなの?まあ、私の邪魔をしなければいいのよ。好きにして」
私の発言に彼女もやや警戒を緩めた。
――何たってお互い三年後のこともあるし。
私はややスキップ気味にユリアンのもとに戻った。彼は冷え冷えとした笑みを私に向けてきた。
……お兄様ほどではないけど、ユリアン、あなたなんか本当に怖くなってない? それとも人は後ろ暗いことがあると余計にそう感じるのかしら。
私は冷汗ものでユリアンに話しかけた。
「ごめんなさい。お待たせしてしまったわね」
「……いつの間にか、彼女と仲が良くなっていたようだね?」
「ええ、まあ、先日のお茶会の時に」
私はおずおずと微笑みを浮かべた。ユリアンは私の説明に納得しかねているようだった。
決してあなた様に対しては後ろ暗いことなどございません! 多分……。でも、悪いけどお兄様の攻略イベントのことは知らない。そもそもあのゲームに王太子様以外に隠しキャラがいたとは知らなかったし。他にもあったりして。まさかねぇ。




