カノンとアリア
ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編
【ヴァーマー】
主人と悪魔が魔力の波長を合わせることによって、悪魔が武具として主人の装備される事がある。その装備をヴァーマーという。
この状態のみ、陰陽両方の魔力が備わっているが、この場合、波長が合っているので拒否反応は起こさない。
主にその合身は同調と呼ばれる。
隆史の場合、過去に使役していた悪魔と多く合身を行っている。
レイズの場合、刀の形状の零牙刀に。
アメリの場合、鎧の形状の白銀に。
カオルの場合、鎧の形状で常識破り。
アテネの場合、甲冑の形状。名前はない。
雪月花の場合、忍者着で吹雪。
となっている。
僕は猫の姿に変化した雪月花を引き連れて船内を歩いた。
そして、船長室と思しき部屋をノックする。
「ん、入れ。」
海月の声。
僕は扉を押し開けて中に入っていると、そこには海月、現、御名斗、麻里亞、咲、蕾、そしてまだ名前の知らない二人の男女がいた。
「おお、隆史さんか!悪魔もいると本当に隆史さんって感じがするぜ!」
海月は上機嫌にそう言いながら手招きした。
僕は中に入ると、彼らが一つの卓、さらに言うのであればその卓上にある何かを囲んでいる気がした。
しかし、この船長室は殺風景だな。
酒蔵と棚にこの彼の囲んでいる卓、そして椅子が数個しかない。
僕は彼らが囲んでいるそれを覗き込んだ。地図だ。
「今、今後の進路を考えていたんだ。このまま、欧州に向かうのは無理があるだろう、ってね。」
現はそう言いながら、地図に木炭である場所に丸をつけた。
「そのインドはイギリス領だ。恐らく、イギリスにはこの案件、俺達が逃亡したことは知られているだろうな。故に俺達が通り過ぎたら砲撃を喰らうに違いない。」
御名斗は渋面を作って言う。
「ですから、チベットの方にあります、中華民国の聖悪魔教会に向かうべきだと思うのですが。」
麻里亞はとんとんっと中国の奥地を叩きながら意見を述べた。
「そこはもはや、日本軍が侵略しています。最後の拠点にまだこの隆史さんを据えるべきではない、と私は思うのですが。」
咲はスッと木炭で線を引きながら言った。
中華民国の聖悪魔教会……の傍。つまりそこまでが日本が侵略しているようだ。
「お姉、敢えてここに隆史をぶつけてみるっていうのは?」
「―――確かに、我々よりは確かに隆史さんは戦力はあります。ですが、ここで試金石にするのは勿体ないかと。もし、行くのであれば私も同行を―――。」
「さっすが、お姉、隆史にべた惚れだね!」
「な、何を!」
「落ち着け、そこの姉妹。」
御名斗は呆れたようにため息をついて言った。
「確かに麻里亞の言う聖悪魔教会は安全だろうが、そこに行き着くまでの道のりが険しい。とはいえ、このままの航路でこのままの装備をしたままで突っ切るのは心許ないだろう。」
「なるほどね、つまり御名斗が言いたいのは。」
現は横目で御名斗を見ながら、地図を指差した。
「ここらの海岸で聖悪魔教会のヴァーヴァラに補給を依頼する訳だね。」
「―――平たく言えば、そう言う事だ。」
「ふむ、そいつは名案かもしれねえな。」
海月はうむうむと頷くと、視線を二人の男女に向けた。僕はまだ彼らの名前を知らない。
二人とも髪が黒く、男は凛々しげな顔で、女は茶目っ気たっぷりな顔をしている。
「カノンとアリアはそれの通知に。」
「分かった。」
男は頷くと、女もコクンと頷いた。
と、男は何かに気が付いたように僕に近付いた。
「まだ自己紹介していなかったね。私はカノン、こっちはアリア。裏工作部隊だ。よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
僕はカノンと名乗った男と握手をし、アリアの方にも手を差しのばしたが、彼女はつんっとそっぽを向いた。
「ああ……こいつ、人見知りなんだ。任務じゃないと話さない奴でね。」
カノンは苦笑しながらアリアに、行け、と合図した。
アリアはコクンと頷くと、部屋から出て行った。
「なぁ、隆史さんよぉ、こいつが何で裏工作が得意か分かるか?」
海月は僕に近付くとニヤニヤと笑みを浮かべて言った。
「―――そういうスキルを持っているのか?」
「いんや、違うぜ。カノン、見せてやりな。」
カノンは苦笑すると、目を閉じた。
すると、その途端、彼の顔の形がぐにゃりと変わった。
「へっ?」
目の前には自分と瓜二つの男が立っていた。
「やぁ。」
声もそっくりだ。
目の前の安部隆史はにっこり笑うとその場で一回転した。
「欺瞞の術を完璧にしている。ほとんど魔力を発さずに出来るんだ。」
「ですが。」
ずっと傍観に徹していた猫、雪月花は声を上げた。
「魔力は違いますね。」
「だと思うだろ?」
僕に扮したカノンはそう言うと、僕の肩に手を乗せた。
その途端に魔力が大きく変質する。
「うぐっ……。」
少し苦しそうだが、次の瞬間には僕の魔力と同じになっていた。
「少し特殊な魔力なんだね……。」
カノンは息を荒げながら言う。
「まぁね。」
僕は苦笑しながら雪月花を見ると、きょろきょろと僕とカノンを見比べていた。
「―――まさに同一。これは欺瞞のレベルを超えて模倣。」
「お褒めに預かり、光栄です。」
カノンはそう茶化しながら頭を下げた。
そして、顔を上げた時にはもうすでに元の顔に戻っていた。
「じゃあ、アリアを追いかけにいくよ。」
カノンはそう言うと外に出た。
「もしかして、アリアも今の能力を?」
「ああ、その通りだ。」
海月は頷くと、会議を続けよう、と言って机の方に再度戻っていった。
「輪唱と独唱か……。」
僕は一人そう呟くと、猫姿の雪月花を抱き上げて机の方を再度向いた。




