忠実なる従者
ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編
【雪月花】
隆史の従者で妻であり、魔法陣の制作などを手がけた女性。
日本の御門という暗殺者の一族出身で、妹の星鹿と共に行動していたが、母親が捕らわれたことで、独逸のヒトラーの元で働く事になる。
そして、ヒトラーの命で隆史と戦ったが、敗北、それにより惚れて従者となった。
後、ゼウスに殺されるが、悪魔として生まれ変わり、偶然から隆史と契約して共に行動する事になった。
悪魔の名前はアオイで、氷を使う、ウィンディーネの一種である。
僕の身体は後ろにいた蕾と共に紅蓮に包まれた。
「はっはっはっ!私の勝ちだぁ!」
炎の勝ち誇った声が聞こえる。
くっ……ここまでなのか……。
僕は一か八かと魔力の準備したその瞬間、冷えた風が頬を撫でた。
「待っていました。御主人様。」
一昨日、聞いたはずの声がとても懐かしく感じられた。
炎が急激に小さくなっていった。その強大な氷の魔力によって。
そして、炎が収まったその僕の目の前には、我が忠実な従者、愛しき妻がそこに跪いていた。
「雪月花……。」
「御主人様、いろいろ申し上げたい事はございますが、まずはあの者を始末してからにしましょう。」
雪月花はスッと立ち上がりながら言った。
そして、虚空から氷柱の刀を抜く。
炎は歯噛みをしながら剣を構えた。
「剣舞の氷魔、アオイね。」
「ええ、そう呼んでくれて構いません。」
雪月花はそう言いながらフッと身体を前に倒した。
次の瞬間、彼女はもうすでに間合いを詰めていた。
「っ!?」
炎が剣を突き出すが、その時に雪月花は屈んで足払いを放っていた。
「くっ!」
炎は咄嗟に地面に手をついて体勢を素早く立て直そうとしたが、雪月花はすでにそこへ肘鉄を入れていた。
まともに肘鉄を食らった炎は吹き飛び、船の柵の部分に身体を叩きつけたが炎は受け身を取って衝撃を殺すと再び、構えを取った。
だが、彼女の目には雪月花は移っていないだろう。
彼女は宙に舞っているのだから。
「覇ッ!」
ズドンッと凄まじい勢いで雪月花は炎に踵落としを決めた。
それは彼女の頭蓋にめり込み、確実に意識を刈り取った。
雪月花は足を彼女から外すと、僕を振り返った。
「御主人様……。」
その目にはじわっと涙が滲み出してきた。
僕は微笑むと、腕を軽く広げた。
雪月花はよろよろと僕に近付いて―――。
「この、大馬鹿主人がぁっ!」
思いっきり殴り飛ばされた。
「ぐはぁっ!」
しかも、本気。
僕は思いっきり吹き飛ばされて船の柵に叩きつけられた。
甲板上にいる皆が唖然とする中、雪月花は僕につかつかと詰め寄ると胸ぐらを掴んで吊り上げた。
「私を心配させて!どれぐらいの人が心配したと思っているんですか!この大馬鹿!」
バシバシバシッと平手で両頬を凄まじい速度で叩かれる。
まさに嵐のような往復ビンタ。
「ちょ、雪月花、止め―――。」
「止めません!みんなに痛みを思い知らせます!」
雪月花はそう叫びながら尚一層、強く頬を叩いた。
結局、彼女はビンタを止めたのは十分後だった。
「全く、年を取っても無謀癖は直っていないというか……。」
船室で僕は雪月花の手当を受けていた。
船室はふかふかの寝台と収納棚を一個、備えていてなかなか快適だ。
「悪かったね。ところで……今が一九〇〇年代というのは本当なのかい?」
僕は寝台に腰掛けた状態で頬の痛みに顔を顰めながら雪月花に問うた。
彼女は眉を顰めながらコクンと頷く。
「ええ、最後の衝突の際、隆史様と別れたんですから……。」
「最後の衝突?」
「―――まさか、記憶喪失ですか?」
雪月花は心配げに僕の顔を覗き込む。
僕はふるふると横に首を振った。
『隆史様、よろしいでしょうか?』
と、イヴがふわっと僕の脇に舞い降りながら言った。
「あ、イヴさん、お久しぶりです。」
『はい、お久しぶりですね。』
二人の女性は挨拶をすると同時に僕に視線を向けた。
「えっと……はい、じゃあイヴ、何か意見があるのなら。」
僕は少し視線にまごつきながら促した。
『はい、私の見解ですが……。』
イヴは少し戸惑いながら続けた。まるで、自分の考えが誤っていて欲しいように。
『私共は時空間転移に遭ったのではないのでしょうか。』
「―――タイムワープ?あり得ない話ではないが……。」
現に烏山さんが時空間術師だ。だが、200年も時空間を飛び越えるとなるとどれくらい魔力を必要とするのだろうか?きっと、九尾の力が三匹分あったとしても足りないだろう。
僕は雪月花に目を向けると、彼女は戸惑っているような表情を見せた。
僕もきっと同じような顔をしているのだろう。
『私の記憶も一七二〇年で途切れております。レティシア様との公式な結婚式の前日で。』
「僕の記憶もそうだね。」
『ですが、今は一九四〇年、ですよね?』
イヴが雪月花に確認を取ると、彼女は戸惑いながらもコクンと頷いた。
「私も最近は魔界にいたので詳しい年号は分かりませんが、一九三〇年以降というのは確かです。」
『―――私の、仮説ですが。』
イヴは少し間を空けて言った。
『恐らく、この世界の隆史様が殺されたのは事実でしょう。そして、隆史様なしでは勝ち目がないと判断した何者かは、過去の隆史様を呼び起こしたに違いないのです。』
「―――なるほど。」
雪月花は目を伏せた。
やはり、主をなくしたことに悲しみを感じるのだろうか。
なんて思っていると、雪月花はすっと顔を上げた。
「悲しいですが、御主人様は、安部隆史なんですよね?」
「あ、ああ、そうだね。」
「でしたら、200年の間を埋めましょう。」
明るく言う雪月花が愛おしく感じられて僕はその頭に手を乗せた。
「そうだな。雪月花。その調子で私の期待に応えてくれ。」
「はいっ!」




