日本からの脱出
ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編
【魔力拒否反応】
この世界では魔力は二種類存在する。
人間が魔術を行使したり、悪魔を召喚する際に使用するのは陽の魔力。
そして、悪魔や妖怪が使用するのは陰の魔力である。
これは相対する存在で、基本的には共存する事は出来ない。
もし、同じ肉体に存在した場合、魔力が反発し、強烈な拒否反応を示す。
これを魔力拒否反応と言う。
しかし、例外はあり、ダンピールのように陽と陰の魔力が共存する場合もある。
その場合は魔力の波長が合っている場合で、これを利用したのが悪魔と術者の合身、ヴァーマーの装着である。
ヴァーマーに関してはまた後日説明する予定である。
「よし、じゃあ端から紹介するぞ。」
海月はそう言うと、五人の男女を指し示した。
「こいつは現。槍や銛を使う男で表向きは漁師だ。」
「よろしく。隆史さん。」
現と呼ばれた男はニコリと微笑んで握手をした。
黒髪で緑の瞳、色黒の肌、浮き出た筋肉といかにも漁師らしい。
「これは麻里亞。聖悪魔教会日本支部の司祭だ。宣戦布告時、教会は焼き討ちにあったが、彼女はその生き残りだ。この国での数少ないヴァーヴァラ。」
「よろしくお願い致します。隆史様。」
顔をベールに包み、修道服に身を包んだ女性は恐る恐る僕に手を伸ばした。
色白な手だ。僕はそう思いながらその手を握った。
「んで、そっちが御名斗。剣術に長けている。」
「よろしく。」
肌が黒い男はコクッと僕に頭を下げた。
どこか、顔が険しい。
「こっちは咲と蕾。武術に優れている。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくねっ!」
双子、のようだ。一本に髪を結っているのが咲で、二本に髪を結っているのが蕾らしい。
二人も和服を身に纏っており、顔も整った形をしている。
思わず、従者である雪月花と星鹿を連想してしまう。
「―――以上かな?」
僕が訊ねると、海月は頷いた。
「これが実力者だ。一応、もう二人いるがな。こいつら中心で今回の作戦を起こす。」
「まぁ、隆史さんはゆっくりお休みしていな。俺達だけでこの作戦は十分さ。」
現はそうウィンクしながら言うと、地図を取り出した。
「では、最後の打ち合わせをしようか。」
「よっと……。」
僕は船から飛び降りると静かに着水した。
一旦は沈んだが、すぐに浮上すると岸を見た。
岸では見回りの衛兵がコツコツと歩いていた。
気付かれないように僕は水の中をスイスイ進むと、岸と船を結びつけていた縄を叩ききった。
別の縄は現が担当しているはずだ。
スイスイと泳いでもう一つの縄の方に向かうと、そこはもう現が叩ききっていた。
「やっぱ、泳ぎは俺の方がうまいな。」
現は小声でニコッと笑うと、縄にしがみついた。
僕も縄にしがみつくと掌に小さな炎を出して合図を送った。
そして、僕らは縄を伝って上に昇り始めた。
それと同時にゆっくりと船が動き出すのを感じ取った。
現が横でニヤリと笑うのが見えた。
見回りをして衛兵が大声で注意を喚起する。
それと同時に船は加速し、櫓を出し、帆を張った。
衛兵がガンガンと鐘を鳴らす。
その時にはもう、船は港を離れていた。
◆◇◆
「作戦の概要はこうだ。」
船室にて、海月は言った。
「現が岸と船を結びつけている三本の縄を切る。その間に我々は櫓や帆の準備だ。そして現が縄を切り終えたら合図をする。そうしたら、我々はまずはゆっくりと進み出す。で、見つかったら一斉に全速前進だ。この日のために裏工作はしてあるからスムーズに行くはずだ。」
「了解。」
麻里亞は短く頷き、悪魔を呼び始めた。
そう言えば、僕の悪魔達はどうなったのだろうか?
やはり、全員死んでしまったのだろうか?
そう思った時には僕は進み出ていた。
「僕も縄を切るのを手伝おう。」
「いや、隆史さんにやらせるには……。」
「数は多い方が良いだろう。頼む。」
僕はそう言うと、現は僕の目を真っ直ぐと見た。
僕の罪の意識に気付いたのだろうか、彼はただ、分かった、とだけ呟いたのだった。
◆◇◆
「うまく出航できたが、追撃は大丈夫なのか?」
僕は舵を取る海月の所に向かうと、彼は呵々と笑った。
「この船、聖なる輝きはそんじゃそこらの軍用船じゃあ追いつけねえよ!」
「後は関門を抜けるだけだ。」
御名斗は険しい顔で言った。
僕は真っ直ぐ前を見ると、沖が見えてきた。だが、そこには一列の軍船が並んでいた。
「安心しな。」
海月は舵を取りながらそう言うと口笛を吹いた。
次の瞬間、ズドンッと激しい砲撃の音が聞こえた。
ここからではない。向こうの敵船からだ。
僕は思わず身構えたが、こちらに砲撃は飛んできていない。
続けざまにズドンズドンッと砲撃が聞こえる。
いや、爆発、という方が相応しいかもしれない。
敵船は味方の船に砲弾を放ったり、自爆していたりしていた。
「よーし、裏工作はうまくいっていたようだな。行けぇ!」
海月は上機嫌そうな声で命じると同時に、この船も砲撃を始めた。
的確な砲撃に敵船は沈んでいく。
「よし、後は突っ切るだけ……。」
「いや、まだだ!」
僕は鋭く言った。
その目は蒼く輝く青龍眼が反応している。
「一機、まだ息づいている!」
「何ぃ?」
海月が目を凝らす。
爆発によって生じた煙。その中から黒い船が現れた。
「くっ……あれはイギリスのグロッチェ号。あんなに堅いとは思わなかった。」
海月はそう言いながらも速度を緩めるようには言わない。
「隆史様、あの程度、ラスター・カノンで消し飛ばせるのでは?」
麻里亞さんが僕の脇にいって上目遣いで言った。
僕は頷いたが唇を噛みしめた。
あれを消すだけの規模のラスター・カノンを放つと吐血どころじゃ済まないだろう。
くっ……どうしたら……。
「む!」
次の瞬間、僕の眼にそれが移った。
紅蓮の髪をはためかせる女騎士。その顔は何か意志を感じさせ、凛々しく感じられる。
そして……それは美しいの一言では表せなかった。
と、その瞬間、彼女は姿を消した。
僕は海月から離れると、ゆっくりと甲板に降りた。
そして、完全に降り立った時、そこには、その女騎士がいた。
「―――汝が噂の、安部隆史か。」
「いかにも。君は?」
「私は炎。汝の命を頂戴致す。」
「やなこった。」
僕は肩を竦めると、徒手格闘の構えを取った。
そしてニヤリと笑む。
「これだから馬鹿は嫌いなんだ。」




