早急な旅立ち
「ゆっくりなさって下せえ。」
「はぁ……ではお言葉に甘えまして。」
僕はそのまま、一つの石造りの住宅に案内された。
システィナはそこで待っていて下さいね、と言うとどこか別の場所に行ってしまった。
そこで料理を出されたりと持て成されているのだが……。
「何でこう持て成されているんでしょうかね?」
「そりゃぁ、姫様の旦那様じぇぎに。」
料理を運ぶ老婆はニカッと微笑んで言った。
「久しゅうリア様がお越しになったと思えば、旦那様を捜しに行くぅ、言いましてねぇ。あんたのこととちゃいまっか?」
「さぁ……。」
「そうですよ、婆様、この方が私の旦那様です。」
すると、システィナがパタパタと慌ただしく帰ってきて言った。
「おお、リア姫様。どうぞお茶でも。」
「ありがとうございます。」
僕の隣に人間の姿のシスティナは腰を下ろして僕に微笑んだ。
その微笑みが可愛らしく、思わずドキッとしてしまった。
「その御殿方は幾つぐらいでございましょうか。」
「ええと……二百少し、でしょうか?」
「おやまぁ、頼もしいこと。人間ではないのですねぇ。」
「ええ、まぁ。」
僕は苦笑しながら勧められた酒を受け取って飲んだ。
「それじゃあ、長老も納得ですねぇ。姫様がえぇと、二百十……ちょっとでしたかんねぇ。」
「ええ、そうでしたね。」
「若い者同士仲良くやっていけたら、私達は満足ですじゃ。」
老婆は満足げに言いながら、僕とシスティナ、交互に酒を勧める。
「霊獣族って……寿命何年?」
「ヴァンパイアと変わりません。大体、千年、という所でしょうか。」
「ほー。」
僕はコクコクと頷きながら酒を呷った。
なるほど、我々は人間にしたら二十歳同士、若いって訳か。
「あ……気になさっていますか?勝手に妻と名乗った事。」
チラッとシスティナは僕の顔色をうかがいながら訊ねた。
僕は笑みを浮かべると、指を振った。
「仔細問題なし。さぁ、もっと呑もうか。」
「はいっ!」
その結果、僕らは酔いつぶれた。いや、厳密にはシスティナだけだ。
僕は酔いつぶれた振りをしながら様子を伺っていた。
霊獣族は、以前聞いたシスティナの話では裏切ったと言っている。
だったら、もしかしたらまた裏切る可能性もある。
それに備えた判断だった。
だが、それはとりあえずは大丈夫であったようだ。
酔いつぶれた僕らを親身に介抱して床まで運んでくれたのだから。
大きな隙が出来たのに襲わなかった以上、ひとまずは安全だ。慎重に行動するに越した事はないが。
そして翌朝、村長が僕に会いに来た。
「これはこれは、リア様に旦那様。」
「この度はありがとうございます。」
リアはニコッと微笑むと、村長は頭を深々と下げた。
「いえいえ、そんなことはございません。ところで、夜会に行きたいということでしたが、今、近所のその通り道へと案内したいと思いまして……。」
道などを説明する村長。どうやら、システィナが話を通してくれたらしい。
村長は、案内します、と言って先導して歩き出す。
僕らはその後に続いていく。家を出て道を歩き……その、歩く向こうから誰かが駆けてきた。
「まずいべ、村長!」
走ってきたのは青年であった。
「どうした?」
「む、村が包囲されとる!エゲレス語で『安倍隆史を出せ』とほざいておるわ。」
「安倍隆史?はて……。」
そう言いながらも、村長の鋭い視線はこちらに向いている。
エゲレス語……イギリス語、ということは十中八九、敵軍だ。
「こちらが村を出れば、仔細問題ないはずだ。」
僕がそう言うと、システィナは心配そうにきゅっと僕の服を握った。
村長はため息をつくと頭を掻いた。
「私も肩身が狭いですの……本当に申し訳ない、旦那様。」
「いえいえ……お詫びといっては何ですが、こちら……我が里の秘宝、反魂の珠を差し上げます。」
「反魂の……珠?」
「はい。」
村長は懐から袋を取り出しながら言った。
「百年に一度、ここにある世界樹から生み出される秘宝です。効果は分かりませんが……まぁ、秘宝といえど、村にはたくさんございますので。」
僕は村長から袋を受け取ると、それを握りしめた。
「ありがとうございます。ではすぐにでもお暇を。システィナは……。」
「一緒に参ります。この身が朽ちようとも。」
システィナは僕の手をぎゅっと握りながら言った。
僕は苦笑すると、その手を握り返す。
「朽ちさせはしないよ。僕が守るから。」
そう、守る。犠牲はもう見たくないから……。




