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雪山駆ける白銀の狼は

「―――。」


 雪によって体温を奪われ、意識が朦朧と―――。


「―――ん?」


 してなくね?

 僕はそれと同時に仰向けで寝かされていることに気付いた。

 四肢に力を入れるが、足の指、手の指まで動く。

 おかしい、意識があっても凍傷になっているはずなのに―――。

 僕は目を開けると、辺りを見渡した。

 そこは白いドーム状の何かであった。

 聞いた事がある。妻の一人の秋霧が雪の日に作りたい、とか言っていた、かまくらだろう。

 前、雪山で難を逃れたときも用いた記憶がある。


「わうっ!」


 と、そこで獣の鳴き声が聞こえて視線をやると―――。


 そこには白い狼がいた。


「うわわわわっ、食べんでくれぇ!」


 僕はどこぞの農民並みの動揺っぷりを見せるが、狼は襲ってこず、ただしょぼんと何かがっかりしたように視線を地面に向けた。

「くぅん……。」

 覚えてないんですか……?って?ふむ?知っていたかな……?

 いや、待て、自分、何で生き物の声が分かるんだ。

 ―――あ。


「システィナ……。」


 僕は彼女の存在を思い出して呟いた。

 すると、その狼はガバッと顔を上げると嬉しそうに僕に飛びついてきた。

「うわぁっ、ちょ、止め、ぎゃあぁっ、血が、うぎやぁっ!」


 数分後、システィナは落ち着くと僕から離れた。

「システィナ……生きていたのか。」

「わうっ。」

 当然です!と―――。

 なるほど、システィナは狼だから生存者には含まれていなかったのか。

「とまぁ、狼の姿と話すのも良いんだが、リアの姿になってくれよ。その方が話しやすいし。」

「わんっ。」

 はい、分かりました。と彼女は元気よく返事すると、その場で光を放って姿を変えた。

 次の瞬間にはそこにドレス姿の銀髪で可憐な女性が座っていた。

「お久しゅうございます、隆史様。」 

「ああ、そうだな。助かったぜ、システィナ。」

「いえ、隆史様に仕える身ならば。」

 システィナはそう言いながら僕に擦り寄った。

 僕はその頭を撫でてやりながら、ふむ、と考え込んだ。

「よく見つけたな。僕を。」

「ええ、絶対、このような日が来ると思っていましたので、ずっと隆史様の匂いを嗅ぎ続けて、そして数日前、その香りが遠くから漂ってくるのが分かったのでいてもたってもいられず、ずっと大地を走り続けていたのです。途中、隆史様に害を与えようとする者がいれば、それも消してきました。」

 誇らしげに言うシスティナ。だが、その顔は少し疲弊している。

 僕は彼女の頭を抱きながら言った。

「ありがとう、システィナ。少しおやすみ。疲れただろう?」

「し、しかし……。」

「いいよ、ゆっくり寝かせてやるから。僕の腕の中で。ほら……。」

 僕は優しく彼女の身体を抱いて一緒に横たわると、彼女は嬉しそうに笑って目を閉じた。

 それを見ながら僕は考えた。

 僕の経歴を知る人間にしか分かり得ない人物の説明というのは途方もなく面倒なのだ。

 これもややこしい世界を生きてきたせいだが。

 それに、これまでの歴史……詳しい歴史も知りたい。

 クリスの書斎で手に入れた歴史書はざっくばらんな物だった。

 つまりは……書物が必要だ。僕が知るために、世間が知るために……。

 僕はそう思いながら、眠りの中に吸い込まれていった。


 朝になって目を覚ますと、身支度を調えて発つ準備をした。

 システィナはすでに起きており、狼になって僕を乗せる準備をしていた。

「行く場所の当ては?」

 僕は彼女の背に乗りながら訊ねた。

「わうっ、わうあふっ、わうっ、はっはっ。」

 あります、近くに村が……?さすがに聞き取りにくいな。いや、感じ取りにくいか。

「まぁ、当てがあるなら頼む。」

「わうっ!」

 威勢の良い鳴き声と共にシスティナは地を蹴る。

 目指すのはどこだろうか?

 彼女に任せるしかない。今頼れるのは彼女しかいないのだから……。

 僕はそう思いながらぎゅっと彼女の首を抱いた。


 暫くしてシスティナはとある村に入った。

 そこは無人の村のようだ。

 だが、システィナはそこで速度を落とした。

「システィナ……ここが……?」

 僕の問いかけに彼女は短く頷くと、低く遠吠えを行った。

 わおおおおおん……という彼女の遠吠えが響く。

 すると、村の地面が蠢いた。

 いや、ずれた?いずれにせよ、地面の一部がずれて空洞が現れた。

 そして、そこには男がひょこっと顔を出した。

「リア姫、どうぞこちらに。」

「わうっ。」

 システィナは尊厳を見せながらその穴蔵に僕を乗せたまま入る。

「こいつは驚いた……。」

 穴の中に入っていくシスティナの背の上で僕は思わず感嘆の声を上げた。

 そこはぽっかりと空洞になっており、つまりは村の下に巨大な空洞がある状態なのだ。

 そしてそこにはヴァンパイアの街に負けず劣らずの街を形成していた。

「ここは―――?」

 僕はスッと彼女の背から降りて訊ねると、彼女は素早く人間の姿になって言った。


「マザー・シーア、霊獣族の隠れ里です。」

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